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Side:ユリウス

女性であれば、舞踏会とか社交界とかそういう華々しい舞台に憧れ、その光の下でこそ、微笑むものだとばかり思っていた。

私はそういう社交の場で笑う女性しか知らなかったから。

だから、書庫の奥の陰りで本を読むエリシアの姿を見つけたとき、信じていた世界が音を立てて崩れてしまった。


金糸のような髪。

華奢な身体。

スラリとした姿勢。

——まるで人形のように完璧で、その全てを脳裏に焼き付けるように、眺めていた。そればかりか、彼女に話しかけたいと思うほどに、それ以上にその人形を手に入れたいと思うほどに、胸の奥が深く疼いていた。

そして、彼女の横顔に見蕩れていれば、ふと彼女はこちらを見て、微笑んだ。それは天使のように繊細でいて、綺麗で、その微笑みを自分のもとに閉じ込めたいと思えるほどだった。


彼女に見蕩れた日。

彼女と共に薬学の本を読んだ日。

彼女を見送ったあの日。

——そういう過去の思い出ばかりが胸を燻る。

それでも、頭で反芻する彼女の言葉はそんな小綺麗な思い出ではなく、ひたすらに「嫌です」という強い拒否だった。


「私は彼女の何なんだろうな」


窓の外を眺めながら呟く。

月夜は姿を隠し、シャンデリアの灯りだけが外を照らしていた。どちらも同じ灯りであるはずなのに、今はシャンデリアだけが虚しく、伸びきらない光で踊っている。これではまるで空に届かない。

私の想いも同じなのだろうか。——きっと、同じだ。それはもう分かり切っている。


エルンに声をかけられたエリシアは私と話している時よりも輝いて見えたし、そればかりか、「大事ですよ」と、私には絶対言わない言葉を口走っていた。

長い月日を経て、彼女は変わってしまった。それでも、私はその過去に閉ざされたままで——。


「彼女の言葉を借りれば、昔の友人だろう。それ以上でもそれ以下でもなくて、もしかしたら今回の件で友人ですら無くなってるかもしれないな」


そうダイゼンが静かに言った。

それは叱責とか忠告とかそういう老婆心よりも、むしろ事実を淡々と述べている、確認のように思えた。


「これからどうすれば、良いのだろうかな」


エリシアの後を追って、その横に立ちたくて医師を目指したはずなのに、強情に行かないと告げて、彼女を求めて、怒らせて。

これでは追う資格すらない。


ダイゼンは少しだけ、視線を逸らしてから、言った。


「……懺悔も後悔も誰かに許されて勝手に消えるものじゃない。だから、自分で別の形に変えるしかない。例えば、——王都で医師として、誰かを救うとか」


その声音は穏やかだったが、彼の瞳はどこか遠くを見ていた。


「それは自己満足にならないか?」


私の問いに、ダイゼンは小さく息を吐いた。

その吐息がシャンデリアの灯りに溶け、窓に微かに白く痕を残した。


「自己満足だって良い。それが巡り巡って、誰かのためになるからな。ほら、月明かりも——」


そう言って、彼は空を仰ぐ。

雲の切れ間からゆっくりと降りた月が、私たちを照らす。

やはり、それは私の光では届きそうにもなく。

それでも、遠い空を眺めることは出来る。きっと、これくらいの距離感が私にはちょうど良かったのだ。最初から。


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