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39.

「ど、どうしたんだ。いきなりそんなことを言って……」


突拍子もなく、こぼれた私の言葉にユリウスは目を見開いて逡巡した。そして、心配そうな素振りを見せて、そっと肩に触れようとしてくる。

彼の手が触れるよりも前に、私はそれを反射的に振り払った。


「ユリウス、あなたは私の何なのですか。親みたいに踏み込んできて、私と同じ気持ちだとか、知りもしない私の気持ちを決めつけて——」


言いながら、自分でも声が震えているのがわかった。それでも、はっきりと言葉を繋ぐ。


「そんなの……あんまり、じゃないですか」


一つ想いが零れれば、後は成すままだった。今までの鬱憤を晴らすように、止めどなく言葉が溢れ出してくる。

それにユリウスは呆然と立ち尽くしたまま、打ちひしがれたようだった。

そして、エルンも目を伏せたまま沈黙している。

その沈黙が私を見捨てているようにさえ思えて、さらに私の胸の奥を掻き乱した。


「エルン様もですよ!一緒に歩もうと言った仲ではないですか。それなのに、どうして黙ったままで、何も言ってくれないのです」


言いながら、自分でも彼に何を求めているのか分からなかった。ただ、胸の奥に確かに溜まっていた燻った感情が、もう理性だけではどうにも抑えられなかった。


「……私が大事ではないのですか」


「そ、それは……」


エルンは目を伏せ、言葉を探すように沈黙した。言い淀む彼に、また胸が燻って、追い打ちをかけるように言葉を紡ぐ。


「私はエルン様のことが大事ですよ」


その先走った言葉が空気を震わせた。

ほんの一瞬、誰の息遣いも、夜風さえも止まったような、そんな静けさがこの場に広がる。

……何か変なことを言ってしまったのだろうか。

そう少し落ち着いた頭でその言葉の意味を反芻して——

そして、ハッとした。

これでは、まるで——


「エリシア、それはどういう……」


ユリウスの問いかけが最後まで届くよりも早く、それを制止するダイゼンの声が割って入った。


「ユリウス」


低く重い彼の声がこの場に一つの沈黙を下ろす。


「少々遠くで話そうか、若造にはまだまだ話したいことがあるからな」


そして、ダイゼンは獲物を睨んだようにユリウスを捉えた。

それは全く逆らえないような威圧感があって、この場に残ろうとするユリウスさえ、諦めたようにため息をこぼすしかなかった。


ユリウスの背中が扉の向こうに消えていくのをただ眺める。

あれほど溢れていた言葉は今はどこかへ消えてしまったように引っ込んで、別れの言葉の一つも出はしなかった。

それは単に、先走った言葉を引き摺っているのか、彼にかける言葉も無い、と本能がそうしているのか、それは分からなかった。

けれど、指先にはまだ、彼に握られた痛みが残っていて、たしかに、嫌な気持ちが胸を支配していた。

それを胸の前でそっと包み込むように握りしめる。

何かが終わって、何かが静かに始まる。

そんな気配だけが、残されていた。


そして、二人だけのベランダには、残ったため息さえ攫うように夜風が吹いた。そのせいか、私の高まった熱が確かにゆっくりと下がっていく。

緊張とか沈黙とか想いとか。そういうので張り詰めた空気がようやく解けたようだった。

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