31.5Side:セレーネ
朝の陽光はカーテン越しに差し込み、窓辺の小さな植木鉢を優しく撫でていた。
そこに並ぶ観葉植物たちはまるで王都の光を独り占めするように、のびのびと葉を広げている。それに水を与えて、ふと外を眺めた。
整然とした庭園、豪奢なあしらいの建物、堅牢な王都の門——。
その全てが王都の華やかさを雄弁に語るように、静かにその威厳さを保っていた。
そして、そのはるか奥ではゆっくりと三つほどの馬車がこちらに向かってきていた。
あの子が見たら、どう思うのだろう。
懐かしいと思うのかもしれないし、その懐かしさを超えて、あまりの眩しさに目を眩ませるかもしれない。彼女は庶民と感覚が近いし、距離も近いみたいだから。
ただ、一つ分かるのは彼女の反応がすごく楽しみである、ということだけだった。
「どうしたんだい?そちらを見て」
柔らかな声が背後から届き、振り返れば、私の婚約者である王太子——ルミナスが小綺麗な衣装に身を包み、そう聞いてきた。
彼がそういう煌びやかな衣装を着ているのは今日が大事な祝賀会が行われる日であるからだ。王命を果たしたフォルセイン領のための、そんな。
「妹が来るのが少し楽しみで」
あの子がどういう反応を見せるのか。
そんなことを想像するだけで、胸の奥がくすぐったくなって、知らずのうちに口元が緩んだ。
「セレーネの顔にはすごく楽しみだ、と書いてあるように見えるけどね」
そんな私を見て、彼は軽快に笑い、それにつられたように私も笑みをこぼした。
そんなゆったりとした時の流れが、胸に心地よく残る。
あの子も、こういう心地よい日常を共にする相手を見つけられたのだろうか。
——見落としていなかったら嬉しいのだけど。




