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16.

離れの問診所に入ると、さっそく二人で籠いっぱいの薬草を机の上いっぱいに広げた。本当はダイゼンたちにも手伝ってほしかったのだが、すっかり疲れて眠ってしまったらしい。


「随分と採られたのですね」


「ああ、ダイゼンたちが興奮してしまってな。薬草を見るなり、嬉々として採っていたよ。そのせいか、色々な薬草が混ざってしまって、どれがどれだか……」


エルンは薬草を一つ手に取り、まじまじと眺めながら、「知っているのはセリオン草くらいだ」と、呟いた。


「これがガンダリ草ですね」


私がひょいっと一つつまみ、エルンに見せると、彼は目を凝らして首を傾げる。


「似た薬草が多くて、見分けがつかないな。どうやって、見分けるのだ?」


「ここです。葉の先に小さな鋸のような刻み目があるでしょう?それがガンダリ草の特徴です」


私が指先でなぞると、彼もまた、その感触を確かめるように指先で撫でた。そして、感心したように頷く。


「本当だな。これはどうやって覚えた?」


「感触を確かめる他ないですね。こうやって、一つ一つ丁寧に触っていくんです。最初はわかりにくいかもしれませんが、次第に分かっていきますよ」


「やってみよう」


エルンはそう意気込むと、黙々と薬草を手に取った。

そうして、二人で一つ一つ確認するうちに、乱雑に置かれた薬草は机の上に整然と、小さな薬草園のように並んでいった。


「圧巻だな。これを全部使うのか」


「いえ、今回は試作品ですから、少しだけです。とは言っても、病に苦しむ方たち全員に届けるものですから、多くなるかもしれませんが」


「それなら手伝おう」


そう言うエルンは意気揚々と包丁を握ると、そのまま慣れない手つきで薬草を切ろうとする。

そして、薬草をぐしゃっと潰して、「うーん……」と困ったように首を傾げた。

それが、慣れないお手伝いをする子どもかのように思え、クスッとした笑みが漏れた。


「違いますよ、これくらいの角度で切るんです」


思わず、手を伸ばして彼の手に触れた。硬い筋肉質な手だった。

これで、薬草の籠を持っていたのか、とその感触を確かめるように触る。

子どもの柔らかい感触とは違うような、ダイゼンの熟練者のようなシワだらけの手とは違うような、そんな——


「……すまないエリシア。私の手は薬草ではないんだ」


無意識の内に指先でその感触を撫でていると、エルンは気まずそうに声を出した。

ハッとした。薬草の香りに少しばかり浮かされていたのかもしれない。慌てて謝りながら、その手を、離した。

そして、ほんの一瞬だけ目が合う。彼の頬は火照ったように赤くなっていた。……私の顔も同じかもしれない。


鼓動が速くなるのを必死に誤魔化しながら、作業に戻った。それでも、薬草が切り揃えられていく音より、自分の鼓動の方が鮮明に耳に届き、気になって仕方がなかった。

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