第七話 「裏切りの真相」
勇者ジークたちを退けた夜から、数日が経った。
辺境の村には一時の平穏が戻ったものの、胸の奥に燻る不安は消えなかった。
「……ジークの背後に、誰かいる」
焚火の炎を見つめながら、僕は口にした。
リディアも静かに頷く。
「間違いありません。ジークがあそこまで執拗にあなたを敵視するのは不自然です。父上……いいえ、王宮の一部が関わっている」
「王国の貴族派閥、ですね」
エリナの声は硬い。
「“従者を追放せよ”と、彼らが圧力をかけた可能性があります」
胸が痛んだ。
つまり僕は、仲間に見放されたのではなく、陰謀に巻き込まれて捨て駒にされたのか。
◆◆◆
翌日。
村に一人の老人が訪ねてきた。
ボロ布に身を包み、杖をついているが、その瞳は鋭い。
「お初にお目にかかります、カイン殿。……いや、“継承者様”と呼ぶべきでしょうか」
「あなたは……?」
「わしは元王国魔導士団の一員。名をアルデンと申します。十年前、政争に敗れて辺境に流されました。だが、王国の闇をこの目で見てきました」
彼は低い声で語り始めた。
「カイン殿が追放された理由……それは、王国上層が“古代魔法の継承者”の存在を恐れたからです」
「……!」
僕の胸が強く跳ねた。
「千年前、大賢者アルトリウスは王権さえ凌駕する力を持っていた。王家とその血脈は、再びその力が現れることを何より恐れたのです」
「じゃあ……僕は最初から“無能だから”じゃなく、力を恐れられて……」
「その通り。勇者ジークに圧力をかけ、あなたを追放させたのです」
リディアの顔に怒りが浮かんだ。
「父上……いえ、王宮の者たちが……!?」
「リディア殿。陛下ご自身がどこまで関わっているかは不明です。しかし、貴族派閥が背後で糸を引いているのは確かでしょう」
◆◆◆
広間に沈黙が落ちた。
真実はあまりにも重い。
「……つまり、僕は最初から狙われていたんだな」
「そうです。そして彼らは今も、あなたを排除しようと動いている」
アルデンの言葉に、全員の表情が引き締まる。
「でも、どうして今さら?」
エリナが首を傾げる。
「簡単です。あなたが“力を証明した”からです。勇者を退け、伝説の武具を覚醒させた――もはや隠しておける存在ではない」
「……放ってはおかない、か」
僕は大剣の柄を握りしめた。
そのとき、屋敷の外から村人の悲鳴が響いた。
「魔獣だ! 魔獣が村を襲ってきた!」
全員が顔を見合わせ、立ち上がる。
外に飛び出すと、黒い影が村を蹂躙していた。
「これは……人為的な召喚獣!?」
リディアが叫ぶ。
背後に、ローブ姿の魔導士たちが立っていた。
胸に刻まれた紋章――王国の貴族派閥が抱える私兵だ。
「やはり来たか……!」
◆◆◆
「カイン殿を引き渡せ。我らが要求するのはそれだけだ」
魔導士の一人が冷たく告げる。
「ふざけるな! 彼は私たちの仲間だ!」
エリナが叫び、聖なる光を放つ。
「そうよ。カインはもう“無能”じゃない。この国を救う力を持つ、唯一の継承者!」
リディアの声が夜空に響いた。
「……仕方ありませんね」
僕は前に出た。
蒼刃の大剣を抜き、〈魔力記録〉を解放する。
「――来い!」
雷撃が奔り、召喚獣を貫いた。
轟音と共に黒い獣は崩れ落ちる。
「なっ……これが、継承者の力……!」
魔導士たちが動揺する。
「僕を追放したのはお前たちの陰謀か。だが、もう二度と好きにはさせない!」
大剣を振り抜くと、蒼光の衝撃波が走り、魔導士たちを吹き飛ばした。
残った者たちは怯えたように撤退していく。
村には静寂が戻った。
◆◆◆
戦いの後。
僕は大剣を地面に突き立て、荒い息を整えた。
「……やはり真実だった。僕はただの無能じゃなく、“脅威”として追放されたんだ」
「カイン……」
リディアがそっと肩に手を置く。
「だからこそ、あなたは自分の力を正しく使うべきです。恐れられる存在ではなく、守る者として」
エリナも頷く。
「私たちが一緒にいます。もう一人じゃありません」
その言葉に、胸の奥に熱が宿る。
追放の裏にあった陰謀――それを暴き、必ず乗り越えてみせる。
(第七話・完)




