第十五話 「大戦の始まり」
王都の夜空を裂き、咆哮が轟いた。
黒衣の魔導士は、完全に人の姿を捨て、漆黒の巨躯と化していた。
角は空を突き、翼は街を覆い、爪は大地を抉る。
「クハハハハ……! 我こそが“魔王”だ!」
その叫びに、民衆が悲鳴を上げ、兵士たちは次々に膝を折る。
圧倒的な魔力が空気を押し潰し、呼吸すら困難になる。
「……ここからが本当の戦いだな」
僕は蒼刃の大剣を握り直した。
リディアが隣に立ち、鋭い瞳で巨体を見上げる。
「父上を救い、国を守る。そのためにここで勝つ!」
エリナが両手を組み、祈りを捧げた。
「神よ、私たちを導きたまえ……!」
セシリアは血に濡れた剣を肩に担ぎ、口角を吊り上げる。
「よし、総力戦といこうじゃないか!」
◆◆◆
魔王の爪が振り下ろされ、大地が爆ぜた。
衝撃波で建物が崩れ、人々が吹き飛ばされる。
「〈聖域結界〉!」
エリナの結界が光を放ち、衝撃を抑え込む。
「くっ……! 今ので結界の半分が削られました!」
「持ちこたえてくれ、エリナ!」
僕は駆け出し、蒼刃を振るった。
大剣から放たれる蒼光が巨体を斬り裂くが、分厚い鱗がそれを弾き返す。
「硬い……!」
リディアが剣を構え、王家の魔法を解放する。
「〈光刃の雨〉!」
空から無数の光の矢が降り注ぎ、魔王の翼を焼いた。
「グオオオオオッ!」
セシリアが隙を突いて飛び込み、巨腕に剣を突き立てる。
「どうだ、この化け物!」
だが黒い血が噴き出し、逆に弾き飛ばされる。
「ぐっ……!」
「セシリア!」
◆◆◆
魔王が再び口を開いた。
黒い光が収束し、王都全体を薙ぎ払うほどの破壊光線が放たれようとしていた。
「今のを食らったら、街が……!」
リディアが青ざめる。
「エリナ、結界を!」
「無理です! 規模が大きすぎて――!」
その瞬間、僕の胸に大賢者アルトリウスの声が響いた。
『継承者よ……禁呪を使え。世界を上書きしろ』
「……!」
大剣が蒼光を帯び、脈打つように震える。
禁呪〈存在の上書き〉――それを使えば確かに止められる。
だが同時に、“代償”がある。
「カイン!」
リディアとエリナの声が重なる。
僕は唇を噛み、決断した。
◆◆◆
「――みんなの力を貸してくれ!」
僕は大剣を地に突き立て、〈魔力記録〉を全解放する。
炎、雷、氷、聖光、土。
これまで仲間たちと共に積み重ねてきた全ての軌跡が蒼刃に集まる。
リディアが剣を重ね、王家の魔力を注ぎ込む。
「未来はあなたと共に!」
エリナが祈りを捧げ、光を降ろす。
「どうか……この国に救済を!」
セシリアが背後を守り、叫んだ。
「お前は一人じゃねえ! 俺たちがいる!」
力が一つに重なり、剣が震えた。
「これで――終わらせる!」
魔王の口から黒光線が放たれた。
それは大地を焼き、街を消し飛ばす破滅の一撃。
僕は大剣を振り抜いた。
「禁呪――〈蒼刃の叡智・上書き〉!」
蒼白の閃光が奔り、黒光線と激突する。
轟音が夜空を裂き、衝撃が王都全体を揺るがした。
押し合う光と闇。
だが仲間たちの力が背を押し、蒼光が闇を飲み込んでいく。
「グオオオオオオッ!」
魔王が絶叫し、巨体が崩れ始めた。
黒い翼が砕け、角が折れ、光に呑まれて消えていく。
◆◆◆
戦いの余波が収まり、夜空に星が戻った。
王都の人々が静まり返り、やがて歓声が爆発する。
「勝った……!」
「魔王を倒したぞ!」
「従者が……いや、英雄カインが救ったんだ!」
リディアが僕の手を強く握る。
「あなたがいたから、この国は守られました」
エリナが涙を拭いながら微笑む。
「本当に……ありがとう、カイン」
セシリアが肩を叩き、笑った。
「これでやっと胸を張って言えるな。最強パーティだって」
胸の奥に熱が込み上げる。
最弱と呼ばれ、追放された従者。
けれど今は、仲間と共に――王国を救った英雄だった。
(第十五話・完)




