クラスメイトの女子に頼んで恋人のフリしてスイーツバイキングに行ったらスイーツよりもあま~くなっちゃった
「頼む! 小宮さん! 俺と付き合ってくれ!」
その瞬間、教室内の時が止まった。
昼休みに堂々と大声で告白したのだから、そうなるのも当然だろう。
そしてその硬直が解けた時にやってくるのは爆発的な反応。
「ええええええええ!?」
「童子丸が告白した!?」
「あいつ小宮さんのこと好きだったのかよ!」
「俺らがいるのに告るなんて勇気あるな!」
「どうなっちゃうの!? どうなっちゃうの!?」
誰も彼もが童子丸に注目し、好き勝手に感想を言い始めるがまた直ぐに静かになる。
何故ならば告白の行方がどうなるのかが気になるから。
だが肝心の告白された女子の小宮は、席に座ったまま驚く様子も照れる様子も見せなかった。
「はぁ……皆驚きすぎ。童子丸君だよ?」
軽く溜息をついた彼女の言葉に、さっきまで話をしていた隣の席の女子がクラスを代表して反応する。
「お馬鹿キャラだから告白じゃないかもしれないって思ってるの? 分からなくはないけど、真剣だし顔が赤いし本気なんじゃない? ねぇ、童子丸君」
「そうだ。俺は小宮さんと付き合いたいんだ!」
「わぁ、情熱的な告白。これやっぱりマジだよ」
定番の勘違いが『どこかに一緒について来て欲しい』というものだが、それだと『俺と付き合ってくれ』という表現だと違和感があるし、そもそも童子丸の顔が照れて赤くなっていることから本気の告白のようにしか見えない。
「はぁ……だから童子丸君だよ?」
しかし小宮はもう一度同じ言葉を繰り返して溜息をつくだけ。
「あ、そっか、童子丸君残念だったね」
勘違いではなく童子丸なんか相手にもならないという意味だと思ったのか、今度はクラス中が憐みの視線を童子丸に向けた。
「だからそうじゃないんだって。童子丸君なんだから、告白だけど告白じゃないってこと」
「どういうこと?」
「詳しいことは分からないけど、恋人になりたい理由があるんでしょ。ね、童子丸君」
「そうだ! 俺は小宮さんと恋人になって『スイーツバイキング』に行きたいんだ!」
「はぁ!?」
小宮の言う通り、まともな告白では無かったと分かり教室中が白けてしまった。
二人に注目していた面々は直ぐに各々の話に戻ってしまう。
この切り替えの早さは、これまで童子丸が似たような騒ぎを何回も起こしたからであった。
「凄いね小宮さん。どう見ても告白っぽかったのによく気付いたね」
「何度も言ってるけど童子丸君だもの」
「理解ありすぎでしょ」
「中学の時から何度も同じクラスになったし、この中で一番付き合いが長いからでしょ」
「そういうものなのかな。ってごめんごめん、童子丸君どうぞ」
色々と掘り下げたいところだけれど、童子丸の話を遮ったままだと悪いと思ったのか、会話のバトンを二人に返した。
「それで童子丸君。スイーツバイキングに行きたいから恋人になって欲しいっていうのはどういう意味なの?」
「甘い物好きだから一度行ってみたいと思ってたんだけど、男だけで入るの恥ずかしいから……」
「(普段は頑張って威勢良くしようとしているのに素が情けない感じなのが、背伸びしてる弟を見守ってる感じがしてちょっと可愛いんだよね)」
これほどの騒ぎを起こしたら嫌がられそうなものだが、幸いにも童子丸に対する好感度は下がっていなかった。ただし同級生なのに弟扱いされてしまっているが。
「でもそれなら一緒に行こうって誘えば良かったのに」
「恋人フェアをやってて恋人なら割引になるし、特製のパフェを食べてみたいんだ!」
「ああ~駅前のあそこか。そういえばそんなのやってたね」
恋人割がある上に、恋人だけが注文可能な特製パフェも提供しているお店がある。
男性客を取り込むきっかけにしたいのかもしれない。
「分かった、良いよ。私も気になってたから」
「おおおお!ありがとう!お金は払うから!」
「それはダメ」
「え? でも俺がお願いしたんだからそのくらいはしないと……」
世の中には奢る奢られ論争があるが、それは男女が平等で付き合っている時の話である。今回はあくまでも童子丸がお願いした立場になるのだから、感謝の気持ちをこめて奢るのは変な話では無い。
「だから言ったでしょ。私も気になってたんだって。自分も行きたいのに奢ってもらうなんてことは出来ないよ」
「そうか!やっぱり小宮さんは良いやつだな!」
「ふふ。ありがと」
今回奢られるのを嫌がった小宮なら、きっと普通に付き合ったとしても割り勘にするに違いない。
「それじゃあ細かい日程は後で連絡する!」
「は~い」
童子丸は嬉しそうに席へと戻って行った。
その後ろ姿を小宮が眺めていたら、隣の席の女子がまた話しかけて来た。
「デートしてあげるんだ」
「ええ」
「否定しないんだ。もしかして童子丸君のこと好きなの?」
「嫌いじゃないわ」
「うっそー、マジで? どこが良いの?」
「他の人と違って素直だからよ」
男子にありがちな下心を隠して話しかけてくるような感じが童子丸には無く、裏表なく素直に話しかけてくれることがプラスポイントだった。そこに先ほどの背伸びしている可愛さも加わって、デートするくらいは全く気にならない相手だった。
「とはいえ、当の本人はデートだと思ってないみたいだけどね」
「みたいだね~、せっかく小宮さんが付き合ってくれるっていうのに勿体ない」
「変に意識されるより良いわ」
「それもそっか。でもいいな~、羨ましいな~、私もあそこの恋人パフェ食べてみたかったんだ~」
「なら貴方も恋人作れば良いじゃない」
「仮でもデートしたい男子はうちのクラスには居ないからなぁ」
あまりの酷い物言いに、聞き耳を立てて少し期待していた男子達ががっかりしていた。
選ばれないのはそういうとこだぞ。
スイーツバイキングデート当日。
二人は列に並んで入店待ちをしていた。大人気のお店であるため、長時間の待ち時間を覚悟する必要がある。
「その時に小指を机に思いっきりぶつけて超悶絶。今日来れないかと思っちゃったぜ」
「うわ~痛そう。大丈夫だったの?」
「大丈夫大丈夫!確認してみるか?」
「ここで脱いだら帰るよ」
「冗談だから帰らないで!」
「ふふ、こっちも冗談だよ」
仮の恋人であれば話が続かず気まずい時間になり無言でスマホを見ることになってもおかしくは無いのだが、二人は話が尽きることなく自然体で楽しく雑談を続けていた。今のところは周囲から恋人らしく見えているだろう。
並び始めてから一時間半があっという間にすぎ、ようやく前から三組といったところまで来た。
先頭は童子丸達と同じく二人組の男女。恋人フェア狙いなのだろう。その先頭の二人と店員との会話が童子丸達の耳に入って来た。
「恋人コースをご希望ですね。それでは恋人であるという証をお見せください」
「(え、そんなのあるの?)」
小宮が慌ててスマホを取り出し店のキャンペーン情報を確認すると、確かに隅に小文字で『店舗によっては恋人確認をする可能性がございます』と書かれていた。
「(こんなの見落とすわよ)」
まるで詐欺みたいなやり方だと思わなくもないが、それ以上気にはならなかった。
「(手を繋ぐとか腕を組むとかそういうので良いんでしょ。そのくらいなら平気だし)」
何故なら童子丸が相手であれば多少の接触くらいは気にならないからである。
「(むしろ胸を押し付けるくらい密着してあげたら童子丸君どんな反応するかしら。焦って恋人じゃないってバレちゃうかも)」
揶揄い方を考えてしまうくらいには心に余裕があった。
しかしその余裕のせいで、致命的な疑問を抱いてしまった。
「(あれ、そういえば何で童子丸君って私を誘ったんだろう)」
クラスには女子が沢山いる。
小宮よりも綺麗だったり可愛い女子だっている。
同じクラスになった回数が多いとはいえ、それほど親密な関係というわけでもない。
それなのにわざわざ離れた席に座る小宮にお願いした理由は何なのか。
二人が恋人である証明方法を考えていたら、そもそも何故自分が選ばれたのかということが気になってしまったのだ。
「(聞いてみれば良いか)」
小宮は偽の恋人だとバレないように、童子丸の耳に口を寄せて小声で話かけた。
「ねぇ、どうして私を恋人役に選んだの?」
すると童子丸は途端に顔を赤くした。
だがそれは恋愛的な意味で照れたのではないと小宮は思っている。
「(どうせ耳元で話しかけられたのが気恥ずかしかったから照れているだけよね)」
まっとうな反応ではなく、違った意味の反応をするのが童子丸であると知っていた。
恋愛的な意味で照れたように見えるのであれば、それだけは無いはずだった。
だがしかし。
「小宮さんの事が本当に好きだから」
小宮の耳元で囁かれた童子丸の言葉は、確かに愛を告げる言葉だった。
それでも小宮は直ぐには信じない。
絶対に裏があり、自分が何か勘違いしているのではと思い込む。
「(う~ん、今回は分からないわ)」
しかしどれだけ考えても童子丸の真の意図が思いつかない。
そこで再び耳元で囁き素直に聞いてみることにした。
「どういう意味なのかちょっと分からないわ」
すると童子丸は赤くした顔を更に赤くし、少し震えながら小宮の耳元で囁いた。
「本気で小宮さんのことが女性として好きです。俺の話をいつも理解してくれて、笑顔で相手してくれて、それに、その、か、可愛いです」
「…………」
しゅぼっと、小宮の顔が一瞬で真っ赤になった。
「(え? え? 本気……だった? 童子丸君が本気で私のことを?)」
素直だからこそ、ストレートに想いを伝えて来る。
童子丸の理解度が高い小宮だからこそ、自分が勘違いしていないのであれば言葉通りの意味であることを知っていた。
彼が本気で小宮のことを好きで、可愛いと思っていることが。
「(か、かか、可愛い、なんて男子に初めて言われた)」
恋愛経験が無い小宮には、好印象な男子から褒められて告白されることは劇的に効いた。
それまで自然に立っていたのに、心臓がバクバクして今にも倒れてしまいそうだ。
しかし無情にも気持ちの整理をする時間など与えて貰えなかった。
「お次のお客様は、どちらのコースになさいますか?」
自分達が列の先頭になり、店員に話しかけられてしまったのだ。
「恋人コースでお願いします!」
しかも童子丸が即答で恋人コースを選び、これまでは何とも思っていなかった『恋人』という言葉に小宮は更に動揺してしまう。
「(こ、恋人。私と童子丸君が恋人……)」
そんな小宮に向けて、店員はお決まりの問いかけをする。
「恋人コースをご希望ですね。それでは恋人であるという証をお見せください」
「(!?)」
つい先ほどまでは、手を握ろうが腕を組もうが平気だと思っていた。
なんなら胸を押し付けてサービスでもして揶揄おうかとすら思っていた。
だが不思議と『恋人』を意識させられた今では、それらがとても恥ずかしい。
自分から進んでそれらをやるだなど出来そうにない。
こうなったら童子丸に任せるしかない。
背伸びしているけれど根は臆病な彼ならば手を握るくらいで精一杯だろうと思っていた。
小宮は分かっていなかった。
確かに普段の彼は根は臆病なのかもしれない。
だが本当に好きな人相手に教室で告白したり、耳元ではっきりと気持ちを伝えてくる彼は、恋愛に関しては堂々と攻める人物だと言うことに。
「こ、小宮さん」
「え?」
名前を呼ばれて思わず反応して童子丸の方を見る。
その瞬間。
「!?!?!?!?」
童子丸の顔が急接近したかと思うと、唇に何かが触れた。
「おお!彼氏君、中々やりますね!」
それが何だったのか小宮は分からない。
分かっているけれど、脳が分かるのを拒否していた。
だが童子丸の真っ赤な顔や、店員や周囲の人の初々しい高校生カップルを微笑ましく見守る雰囲気にあてられてしまえば分からざるを得ない。
「(童子丸くううううん!キスはやりすぎでしょおおおお!)」
思わぬところでファーストキスを奪われ、小宮は脳が沸騰するくらい恥ずかしくて正気を保てない。
「二名様ご案内!」
店員の言葉も全く耳に入らず、ひたすら照れるだけの小宮が、何事もなく席につけたのは奇跡的とすら言えよう。
「(なな、なんで、キキ、キスなんか。わわ、私達、仮の、仮の恋人だよね)」
童子丸だってそれは分かっているはずだ。
それなのにキスをするだなんて、明らかにやりすぎである。
「(まさか童子丸、本当に恋人だと思ってる!?)」
そうでなければキスに説明がつかない。
恋人を演じなければならないから本気で恋人だと思っているのか、あるいは教室での告白が本当の告白で小宮がオッケーを出したと思っているのか。
動揺している小宮にはどちらが正しいのか判断がつかないが、大事なのは直前で童子丸とした会話。
本気で好きだからキスをした。
形だけのものではなく、本気の想いがこめられたキスだと分かっているからこそ、余計に照れくさくてたまらない。
「(うううう、童子丸君の馬鹿。恥ずかしくて顔も見れないよ!)」
いっそのこと何もかも忘れてスイーツを食べまくってやろうか。
そう現実逃避しかけた小宮だが、恋人コースがそうはさせてはくれなかった。
「恋人パフェお待たせしました」
恋人コースは特製パフェを最初に食べきってからでなければ、他のスイーツを取りに行けないのだ。
「(スプーンが一つしかない!)」
二人で一つのパフェを食べる。
カトラリーは一人分だけ。
店側が何を要望しているのかなど明らかだ。
「こ、ここ、小宮さん」
「は、はは、はい!」
童子丸もキスの余韻からまだ戻ってきていないのか、顔が真っ赤なままだ。
呼ばれて反射的に彼の顔を見た小宮も、唇に視線が吸い寄せられてキスを思い出して全身が火照ってしまう。
「さ、最初の一口をどうぞ」
「え?」
童子丸が頂上のソフトクリームの部分をスプーンで掬って小宮に差し出した。
「!?」
あの告白が無ければ、この程度のことは照れながらも付き合ってあげたかもしれない。
だが今は恋人らしい行動全てがキスを思い返し、童子丸に好かれていると意識させられておかしくなってしまいそうになる。
とはいえ、小宮はここで差し出されたスプーンを放置することが出来ないタイプの人間でもあった。
「い、いただき、ます」
口を小さく開け、パクリとスプーンを咥えると冷たくて甘い感触が口の中に広がるが、緊張やら照れくささやらでそれどころではない小宮には味が全く分からない。
「じゃ、じゃあ次」
「え?」
童子丸は今度は小さなチョコのブロックを掬い、また小宮に差し出して来る。
「ま、待って! ちょっと考えさせて!」
慌てて小宮はそれをストップさせる。
「(ど、どど、どうしよう。私ばっかり食べるのは悪いよね。で、でも、私があのスプーンで童子丸君にあ~んするの!? 私が咥えたスプーンを使って食べさせるなんて、自分から間接キ、キキ、キスしてってお願いしているみたいじゃない!)」
残りのパフェを自分で食べればその問題が起こらないことに気付かない。
もちろんあ~んなどする必要も無く、自分の手でスプーンを持ち自分で食べれば良いだけだ。
あるいは店員にお願いしてスプーンを追加してもらったって良いはずだ。
実際、先に入ったカップル達はそうしているのだが、動転しすぎていて周囲の様子を観察など出来やしない。
「パフェが溶けちゃうよ?」
「う゛……」
しかも考える時間すら与えてくれない。
「うううう、ス、スプーン貸して!」
「え?」
腹を括った小宮は童子丸からスプーンを奪い、彼にそれを差し出した。
「い、いいの?」
「恥ずかしいから早くして……」
「分かった!」
童子丸もそれが間接キスになることが分かっていたのだろう。
最初は遠慮していたが、許可が出たことで思いっきりそれを口に含んだ。
「美味しい!」
「(わ、わわ、私ったらなんてはしたない真似を!)」
時間に追われて勢いでやってしまったとはいえ、恥ずかしくてたまらない。
「じゃあ次は俺の番だね」
「え!?」
だが羞恥の時間はまだまだこれからだ。
パフェは沢山残っている。
「(童子丸君が使ったスプーン!?)」
最初は綺麗なスプーンだったが、今度は童子丸が口に含んだもの。
それを口にするということは、自ら間接キスを受け入れるという行為に外ならない。
「(あわわわ……)」
スプーンを見ると、自然と正面にいる童子丸の真っ赤な顔まで見えてしまう。
彼も色々なことを意識していると分かると、自分の意識もまた鮮明になってしまう。
真っ白なクリームが乗っているはずのスプーンがピンク色に見えて来た。
「~~~~!」
震える唇を誤魔化すように勢いよく齧り付いたが、やはり味なんてしない。
それよりも間接キスをしてしまったことによる羞恥心の方が遥かに勝る。
パフェはまだまだ残っている。
自分で食べれば良いということに気付かない二人は、照れながら食べさせ合う。
そんな初々しい恋愛をしている二人を周囲の女性陣はもちろんこう思っている。
爆発しろ!
「んで、どうなったの?」
「お仕置きした」
「あ~、だから彼凹んでるのか」
月曜日。
小宮は学校で事の顛末について隣の席の女子と話をしていた。
お仕置きが何なのかは分からないが、たっぷり辱められた礼はしっかりと返したらしい。半分以上は小宮が断らなかったせいな気もするが。
「私だったらぶん殴って警察呼ぶわ」
「それが普通でしょうね」
「でもその普通をやらなかった小宮さんは、つまりはそういうことですかな?」
にやにやとうざい笑みを向けて来る女子に対し、小宮はほんの少し頬を赤らめるだけで表情を崩さなかった。先日があまりにも恥ずかしかったがゆえ、この程度なら大したことはないのである。
「かもしれないわね」
「おお、否定しないんだ!」
当日、童子丸の行動を拒絶しなかったということはそういうことなのだろう。
小宮はそのことを理解していたし、その気持ちを受け入れてこの先どうすべきかを考えていた。
「彼のことが分かるのは私しかいないんだから、私が面倒みなきゃダメでしょ」
「なんて言いつつ本音は?」
「あそこで可愛いって言うのは卑怯だと思う」
「この女、メスの顔になってやがる」
「うらやましいでしょ」
「相手が童子丸君じゃなきゃね」
「普通に面白くて良い人なのになぁ」
「この女、メスの顔になってやがる」
「うらやましいでしょ」
惚気の無限ループをはじめた小宮だが、すぐに日常に物足りなさを感じることになるだろう。
「(すっごい恥ずかしかったけど、何かクセになりそう)」
あまりにも衝撃的な恋愛体験だったがゆえ、それ以外のことが温く感じてしまうようになってしまったからだ。
「(でも流石にアレ以上のことはないよね)」
小宮はやはり分かっていない。
童子丸のことを最も理解している彼女ですら、彼の事を分かりきってはいないのだ。
これから何度も童子丸に激しく照れさせられる未来や、近いうちに完堕ちさせられることを想像出来ていなかった。
「はぁ……(キス、しちゃった)」
乙女の溜息は、きっとこれから幾度となく漏れることになるに違いない。