おにく……!
「……ほんとうに、俺で、いいのか……?」
ヴィルの問いに、ノィユはしっかり頷いた。
「沈みゆくバチルタ家に、僕に手を差し伸べてくださったのは、この国でヴィルさまだけです。
僕を伴侶として望んでくださるのは、ヴィルさまだけです!」
叫んだ!
ほんのり赤くなったヴィルが目を伏せる。
「……た、食べよう、か」
「只今お持ちいたします」
ロダが持ってきてくれたのは、こっくりとあまやかな香りをくゆらせる、とろっとろに煮込まれたであろうお肉と、ふかふかの焼き立てなのだろうパンと、蒸し焼きにされてつやつや輝く野菜の盛り合わせだった。
「夢にまで見たお肉──!」
ノィユだけじゃない。
両親も泣いてる。
ヴィルとロダが、びくっとしてる。
「はぅ……!」
ナイフを入れただけで解った。
お肉が、やーらかい!
そうっとそうっと、とろっとろなのだろうビーフシチューみたいなのを掬ったお匙を口に運ぶ。
今世で生まれて初めてのお肉に、小鼻が限界までふくらんでる!
期待で、はあはあしちゃうよ、落ち着け、僕!
どきどき高鳴る胸で、そうっとお肉に口をつけた。
「──っ!」
溶けた!
噛まなくてよかった、溶けた!
なのにあふれる肉汁と、ふくよかなうまみ……!
ああ、そうだ、これがお肉──!
「はぅあ──! お肉……! あぁ、生まれて初めて味わうお肉──!
ああ、ヴィルさま、僕、一生あなたについてゆきます──!」
号泣した。
ヴィルとロダが、このうえなく可哀想な子を見る目になってる。
「お肉! お肉を恵んでくださるなんて!」
「賢いノィユだから解っていると思うけど、しっかりヴィルさまをお支えできるように、なるべく愛想をつかされないよう、掴んで離さないよう頑張るんだよ」
「はい、おかあさま、おとうさま!」
涙ながらに手を握り合う親子に、ヴィルとロダが痛ましいものを見る目になってる。
貴族と貴族が縁を結ぶのは、国に報告の義務のある、家にとっての一大イベントだ。
お互いの家に益となるよう計らうこと、借金を押しつけたりしないこと、借り入れを申し込む場合はきちんと書面とすること、親族を大切にすること、互いの財産は分けて管理することなど、細かに契約書にして、ふたりと当主が納得したら、それぞれの魔紋を刻んで契約を締結する。
契約に違反した場合は即時離縁や賠償金などの支払いなども取り決める。
魔紋っていうのは、指紋みたいにひとりひとり違う魔力の紋様のことで、個人を特定したり契約で縛ったりするために使われる。
魔紋を刻む契約は、違反すると物理的に違反者の首が締まるという恐ろしい仕様だ。
いちおう気絶するまで苦しめたら、緩まることになってる。こわい。
さらに何の条項に違反したのか額に現れるので、違約金を払うなり許してもらうなりしないと『契約違反者』の烙印をおでこにくっつけたまま歩くことになる。
お店にも入れなくなるし、王宮に行くと捕縛される。
何とかして違約金を払うか、相手の赦しを戴くしかないという、こわい魔紋契約!
それが伴侶契約なんだよ。
家と家との大事な契約でもあり、結びつきになる。
だからこそ、ヴィルと伴侶になれるなんて、夢みたいだ──!
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