うれしい
「あ、あのあの、ヴァデルザさま、あの、ノィユはほんとうにいい子で──」
ノィユの気持ちに気づいてくれたらしい母が応援してくれる。
「よく気がついて、食べられる野草や茸や木の実を見分けるのも得意です!」
父の援護射撃が、貧乏の匂いしかしない!
「……こんな辺境の領主に……しかも俺に、伴侶など、できないと……思って、いた。……ノィユがいやじゃない、なら……うれしく、思う」
はにかむように、ヴィルが笑ってくれる。
「あなたの伴侶になれることは、僕の至上のしあわせです!」
断言した!
ふうわり赤くなった頬で、ヴィルが目を伏せる。
繋いだ手を、握ってくれる。
「……きみの、伴侶になれて……うれしい」
赤い耳で、ちいさな声で、囁いてくれた。
傾きゆく夕日を背に、ヴィルが中へと案内してくれる。
岩の砦たるお城には、丁寧に撫でつけられた白髪のきれいな、おじいちゃん執事がひとり、いるきりだった。
ノィユと両親に、青磁の瞳をやわらかに細めて微笑んでくれる。
「……え、こ、こんなおっきなお城を、おひとりで──!?」
茫然とするノィユに、ヴィルが目を伏せた。
「敵国から、三百年、襲撃が、ない。辺境部隊は、引き上げた。冬は、雪に覆われ、極寒だ。皆、すぐに、辞めて、しまって……残って、くれたのは、ロダだけだ」
ぽつぽつ紡がれるヴィルの言葉に、ロダが微笑む。
「ヴィル坊ちゃまの伴侶になってくださるとか。ロダにございます、ノィユさま」
胸に手をあて腰を折ってくれるロダに、飛びあがったノィユは熱い頬で笑う。
「3歳の若輩者です、どうぞノィユと。至らぬところばかりかと思いますが、ヴァデルザ家のしきたりなど、ご教授ください」
丁寧に頭をさげたら
「……僕よりしっかりしてる……」
父が涙目になってた。
ごめんね、前世の記憶があるから中身は30代くらいなんだよ。21歳のおとうさんより年上なんだな。挨拶くらいちゃんとしたい!
大丈夫だよ、おとうさんの顔面なら、大抵のことはごまかせるから!
「ほほ、これはこれは、大変に優秀な精霊の御子がいらっしゃったものですな」
にこにこするロダに、ノィユはぶんぶん首を振る。
「この目は偶然で、僕はちゃんと母と父の子どもです!」
ロダの微笑みが深くなる。
「この世のものとは思えぬ方を、精霊の御子ということもあるのです」
きょとんとするノィユに、ヴィルも頷く。
「……奇跡のような、ノィユが……俺などの、伴侶など……ほんとうに、後悔、しない、か……?」
ヴィルの心配の方向性が、著しく間違ってる!
「ヴィルさまこそ、奇跡のようにかっこいーです! 拝見してるだけでうっとり! お声も最高!」
拳を握って力説するノィユに、両親もロダもうむうむして、ヴィルの眦がほんのり赤くなる。
「……そ、そんな風に、言われた、のは……初めて、で……」
照れて目を伏せるヴィルが、もしゃもしゃの髪と、もこもこの髭までかわいーよ!
「髪を切って髭を剃ったら、世界中から言われます!」
拳を握るノィユに、ロダも両親もうむうむしてる。