誤解
愕然と見開かれた瞳で、ネニがノィユの額を凝視する。
ノィユの最愛のヴィルの魔紋は不思議な意匠で、ちらちら光を振りまいた。
とろけて笑うノィユに、ネニの瞳が歪む。
「……ノィユが、もう伴侶を持ってるだなんて……まさか借金の形に──!?」
悲鳴をあげたネニが、ノィユを背に庇うようにヴィルに向きあった。
「そんな、いくらノィユが可愛いからといっても、まだこんなに幼いのに──! あんまりです! 陛下に奏上し、伴侶契約の無効を訴えます──!」
真っ青な顔で抗議するネニに、跳びあがったノィユが首を振る。
「ちがうの、ネニ!」
「違わないよ! 借金の形に伴侶にされて、それが厭だから借金を返すために必死で学んでるんでしょう!?」
ぶんぶんノィユは首を振った。
なんだか酷い勘違いされてる──!
自分のことは何と言われても平気だけど(最貧バチルタ家だしね!)ヴィルとヴァデルザ家が酷く思われるなんて、ありえないから!
あわあわしたノィユは、弁明しようと声を張る。
「最愛のヴィルに迷惑をかけないために、バチルタ家の借金を返済しようと必死なんだよ──!
ヴィルが伴侶になってくれるまでは、僕やる気なくて放置だった。陛下がはやく破産認めてくれたらいーな♡って」
今もちょっと破産認めてくれないかな……って思ってるけど……!
真実を告げたノィユに、ネニがあんぐり口を開ける。
「さ、最愛って、こ、こんなおじいちゃんなのに──!」
3歳のノィユを借金の形にとったと思い込んでいるのだろう、軽蔑と憎悪を隠しもせずに叫ぶネニに、エヴィの額の血管がピクピクしてる。
「──ちょっと殺す?」
「ちょっとだけ殺すとかできませんから! 死んじゃいますから!」
あわあわ止めるノィユとネニを睨みつけたエヴィが吐息する。
「お兄さまの輝かしいかんばせを拝むのは僕だけでいいけど」
正直な弟だ! 知ってる!
「……髪、切る? ……髭、剃る?」
うつむくヴィルに、ノィユはぶんぶん首を振った。
「ヴィルがやなら、しなくていーよ! もしゃもしゃヴィルも可愛くてだいすき!」
きゅう
抱きつくのはおひざだよ。
えへへ。
熱い頬で笑うノィユに、ネニが叫んだ。
「ノィユは、だまされてるんだ! 変な薬とか変な魔法でも使われたんじゃ──」
ネニの糾弾に、血管ビキビキのエヴィが鼻を鳴らす。
「お兄さま、ちょっと御髪を掻きあげてみてください」
こくりとうなずいたヴィルが前髪を払う。
「────!?」
耳まで真っ赤になったネニが、茫然とヴィルのかんばせを凝視した。
「ヴィルは確かにめっちゃくっちゃかっこいーけど、でも僕にとってヴィルの顔はうれしいおまけで、ヴィルのやさしいところとか、純粋なところとか、かわいいところとか、かわいいところとか、かわいいところとかが大すきであいしてるから!」
ネニの顔が、ぐしゃりと歪む。
「……ノィユは、ほんとに……ヴィルさまのことを……?」
「あいしてる」
断言した。
ネニが握りしめるちいさな拳が、ふるえてる。
「……っ……ノィユのあんぽんたん……!」
叫んだネニが駆けてゆく。




