あふれました
最愛の伴侶は、いつも最高に可愛い。
きゅ、とヴィルの手を握ったノィユは、首を傾げる。
「はじめてっていうことは、エヴィさまは、いつもはなんて?」
トートの腕のなかでエヴィがぶすくれた。
伏せられた蒼の瞳を彩るように長いまつげが影を落とす。
「怖い。うざい。うるさい。魔物みたい。いくらヴィルお兄さまが顔面国宝でも、領地は北の最果て、貧乏なうえに、サイアクな弟がギャーギャーわめくなんて、ないわー」
言われた言葉をそのまま繰り返したのだろうエヴィに
「はぁあアァア──!?」
ノィユが叫んだ。
二度目なヴィルはちょっと目を見開いただけだけど、トートとエヴィがあんぐりしてる。
すみません、素で。
全力で、素で。
あふれでる素が止まらない──!
「いやいやいや、ないのはそっちだろ! 国の最果ての、敵国と魔物の森に囲まれた領地なんて誰だって治めたくないに決まってるのに、誰かが行かなきゃ敵国が進軍してくるんだ。ずっとヴァデルザ家は敵国を前に頑張ってくれてるんだぞ!? 尊敬しかない家に、何をほざいてやがる!」
拳を握るノィユに、ヴィルの頬がほんのり赤くなって、トートとエヴィがぽかんとしてる。
「ヴィルがお兄さまだったら、ふつう全力で全愛を注ぐだろ! 使用済みの下着を掴んで離さないレベルだぞ!? そんなことしてるとこ見たことないエヴィさまの自制を全力で尊敬してる!」
「……は……!?」
耳まで真っ赤になったエヴィが噴火してる。
「……の、ノィユ……?」
使用済みの下着を掴んで離されない危機を感じたらしいヴィルが戸惑ってる。
「こ、こほん」
3歳児らしくなかったと(いやもうなんか全然全く3歳児らしくない発言しかしてない気がするけど、いちおう!)反省したノィユは、咳払いして顔をあげた。
「ぽっと出てきた借金まみれの3歳児の伴侶なんて殺したくてたまらないだろうに、引き千切られるようなご心痛をこらえて一緒にご飯を食べてくださって、一緒にお風呂に入ってくださって、一緒に眠ろうとしてくださるエヴィさまには、尊敬と感謝しかありません」
ヴィルとよく似た蒼い目をまっすぐ見つめて、頭をさげる。
「ありがとうございます、エヴィさま」
深くこうべを垂れてから、顔をあげる。
照れくさく熱い頬で、笑った。
沈黙が落ちた。
ちいさく、鼻をすする音がした。
「よかったね、エヴィ」
トートの手が、うつむいたエヴィの陽の光の髪をやさしく撫でた。
ほんのり紅い頬で、ヴィルが笑ってくれる。
「ノィユが、俺の伴侶に、なって、くれて……うれしい」
ぽつぽつ呟いて、広げてくれるヴィルの腕のなかに飛び込んだ。
「僕も!」
ぎゅう
抱きついて、エヴィの前だったと、わたわた離れる。
鼻をすする音がして、エヴィが顔をあげる。
ほんのり朱いまなじりで、ささやいた。
「……借金とかで、お兄さまにご迷惑をお掛けしたら、ゆるさないんだから」
「領地復興、借金返済を全力でがんばります!」
拳を掲げるノィユに、皆がやさしい顔で笑ってくれた。