おかしだよ
「……こ、これ、は……?」
茫然とするノィユに、トートは微笑む。
「お菓子だよ。見たことなかった?」
栗色の髪をふわふわ揺らしたトートが、並んだお菓子のなかから、ひとつを選ぶ。
「これを5つ」
「かしこまりました」
丁寧にお辞儀をしてお菓子を包んでくれる店員さんを見ながら、ノィユはトートの衣の裾を引っ張った。
「あ、あの、ど、どういうお菓子なんでしょう」
店員さんに聞こえないよう、ちいさな声で聞いたノィユに、トートが答えてくれる。
「砂糖菓子だよ。遥か南の国でしか採れないという砂糖だけれど、最近、大根からも採れることが発見されてね、砂糖で菓子を作るという夢が実現したんだよ! ネメド王国が世界に誇るお菓子が、この砂糖菓子だ!」
誇らしげに胸を張るトートと一緒に、店員さんも胸を張ってる。
「世界でも最先端であり、最高のお菓子であると自負しております」
店員さんの小鼻がふくらんでる。
……な、なるほど。
えーと、前世でいうと、お砂糖で作ったお菓子、というより、なんかもう、砂糖を固めただけっぽいよ!
白い花とか、鳥とか、色んな形にする技術は凄いけど、飴細工ほど繊細でなく、色彩豊かでもなく、ただほんとに、砂糖だ──!
あんぐりするノィユに、両親が微笑んでる。
「王国の最先端にびっくりしたのか」
母が頭をなでてくれる。
「ノィユも驚くことがあるんだなあ」
父がにこにこしてる。とてもうれしそうだ。
…………うん。とっても驚いたよ。
「エヴィは白い花のお菓子がお気に入りなんだ。お義兄さまには、鳥がいいんじゃないかな。ロダにも買っていってあげよう。ノィユもすきなのをひとつ選ぶといいよ」
栗色の瞳で微笑んでくれるトートが、太っ腹だ!
たぶん陛下への態度から考えるにトートのふつうは素っ気ないと思われるので、これはきっとエヴィ効果な気がします。
エヴィのついでに、エヴィの周りの皆にもやさしくしてくれるアレですね。
おこぼれを、ありがとうございます!
「……あ、ありがとう、ございます……」
砂糖そのものっぽいけど、高そうだよ!
丁寧にお礼を言ったノィユは、そうっと聞いてみた。
「あ、あの、原材料の砂糖は、手に入るものですか?」
「もちろん。でもこの形にするのが、ネメド王国の秘法なんだよ」
トートがめちゃくちゃ誇らしそうだ。
……確か卵白とか混ぜる? いやふつうにちょっとの水と熱して溶かしたあと型に流して冷やせば固まるんじゃ? 飴細工とか、もっとすごいことができるんじゃ……?
さらに前世の記憶を頼りに、がんばってお菓子をつくれば……?
も、もしかしてこれは、借金返済の一助になるのではないでしょうか──!
ノィユの小鼻も、ふくらんだ。
前世は電子レンジマスターで、カップラーメンを作るのが精々だった気がするが、今世は顔面力の違うノィユだ! 意外に手先が器用で、意外にお菓子が作れるかもしれない!
きゅ、と拳をにぎるノィユに、両親もトートも、ちいさきものを見る目をしてる。
「ノィユはどれにする?」
ふわふわの栗色の髪を揺らして目の高さをあわせるように屈んでくれるトートが、やさしい。




