なかみはね
眉をひそめるトートに、微笑んだノィユは首をふる。
「援助の無心じゃありません。ささいなものでも、贈り物はうれしいんです。エヴィさまの、おすきなお菓子とか、ご存知ですか?」
きょとんとしたトートは、ほんのり赤くなった頬でうなずいた。
「……え……う、うん」
「何でもない日でも『あなたのために』ってお菓子を買って帰ると、エヴィさまはきっとお喜びになると思います!
……あ、でも、浮気をすると急に贈り物をする男がいるみたいなので、それをご存知だと浮気を疑われてしまいます……そこは気をつけてください……」
「びみょうな助言だ!」
そのとおりだ!
「ちょこっとでも、お役に立てたらと思ったんですが……ごめんなさい」
しおしおしょげたノィユの頭を、トートのごつごつの手が、ぽふぽふしてくれる。
「気持ちはとてもうれしいよ、ありがとう。
折角だからお菓子を買って帰ろうかな。お義兄さまのおすきなお菓子はわかる?」
「…………あ」
知らない。
しょんぼり落ちたノィユの肩を、トートの手がやさしく叩いた。
「色々買って帰って、何がすきなのか、お話するといいよ」
微笑んでくれるトートに、うなだれる。
「トートさまのためを思って申しあげたのに、僕のためになってます」
栗色の瞳が、やわらかに細くなる。
「誰かのためを思ってすることは、結局は自分のためなんじゃないかなあ」
「それとはちょっと意味が違うような?」
顔を見合わせて、ふたりで笑う。
「……ノィユが、僕のわからない話をしてる……!」
父が涙目だ。
ごめんよ、父。まだ21歳な父には、ちょっと大人なお話だったかな?
中身たぶん30代だから、気にしないでおくれ!
「……この間まで、お菓子を夢見る3歳児だった気がするのに……」
そう、お菓子は夢でした。
食べたことなかったよね!
前世を思い出したんだよ、ごめんよ、母!
嘆きと驚愕の両親と、申しわけなくてしょんぼりなノィユを見比べたトートの瞳が面白そうにひらめいた。
「もしノィユのおかげでバチルタ家が復興したら、きっとすごいことになるね。
伴侶になってくださいって、殺到するよ」
喉の奥でトートが笑う。
「僕にはもう、すばらしい伴侶がいます!」
とろける頬で、笑った。
トートが連れていってくれたお菓子店で、トートのお金でお菓子を買ってもらって、ヴィルにあげるのは、なんだかとっても間違ってる気がする!
いつか、自分の力で稼いだお金で、ヴィルのすきなお菓子を焼いてあげたいな。
そのためにもできるだけはやく、借金を返すんだ。
がんばろー!
拳をにぎりつつも、今日はトートに寄生です。
ごめんなさい。
お菓子の誘惑には、あらがえませんでしたぁあ──!
「ヴィル、何がすきかな? しょっぱいの? チーズのパイとか最高だよね! でも意外に甘いのすきだったりして、苺のタルトとか? さっくさっくのココナツクッキーとかも、めちゃくちゃ美味しいよね!」
期待に燃える頬と、たぶんきらきらになってるだろう目で、帝都の一等地に建つ立派な店構えのお菓子屋さんに入ったノィユは、店に並ぶお菓子にぽかんと口を開けた。




