びんぼうだよ
「……え、いや……草……? ……な、生食……!?」
ネニがドン引いてる。
「えと、あの、も、申しわけございません、貧乏で」
とりあえずノィユは謝ってみた!
「……っ!」
夜の海の瞳に滲む涙を拭ったネニが、ふところを探る。
「ぼ、僕も、あまりお小遣いを持っていないのですが、すこしなら買えると思います。一緒にお店に──」
跳びあがったノィユは、ぶんぶん首を振る。
「ネニさまにお恵みいただくなんて、畏れ多いですから! 最近豪華な食事が続いていて、胃がびっくりしているので、ちょうどよいデトックスなのです」
にこにこするノィユに、ネニが首をかしげてる。
「……でとっ……す?」
「身体に溜まった老廃物を排出させるために、食事を抜くんです。胃腸を休息させ、体脂肪の燃焼を促進、腸内環境を改善する効果が期待できるのです! あ、でもやりすぎは死ぬので、無理したらだめなのです」
とうとうと語るノィユに、ネニだけじゃなく両親も、あんぐり口を開けてる。
「……さ、3歳……?」
本物の天才のネニが、ぽかんとしてる!
「ネニさまこそが真の天才です! 僕のはちょっと違うので」
中身30代なだけなので!
「というわけで、バチルタ家は元気にお勉強をつづけようと思います!」
締めくくるノィユに、両親もこくこくうなずいた。
「わ、わかりました。あの、でも、お腹が減ったら、言ってくださいね」
「ネニさま、やさしい──! ありがとうございます!」
バチルタ家一同で、ぴしっと頭をさげる。
ふうわり朱くなったネニが、ふるふる首を振ってくれた。
「ああ、この空腹、なつかしいなあ」
「そうだよ、お腹減ってるって、ふつうだよね」
「最近ちょっと、食べすぎでしたね」
おかあさんも、おとうさんも、ノィユも、うむうむした。
聞こえたらしいネニが、泣きそうになってる。
腹減りのおかげで、お勉強もはかどりました! ……たぶん。
茜に変わりゆく陽の光が射しこんで、図書館の閉館時間が迫ったことを知らせてくれる。
お日さまが昇ったら朝の鐘、中天にきたら昼の鐘、沈んだら夜の鐘を王都では鳴らしてくれるみたいだ。
朝の鐘から1刻で就労開始、昼の鐘でお昼休憩開始、夜の鐘の1刻前に就労終了みたい。1刻は太陽の高さで測るんだよ。30度くらいが1刻だ。ハイテク! この世界ではね!
「もう終わりだ──!」
あわあわしたノィユと両親は、閲覧させてもらった本を傷つけないように丁寧に元の場所に戻した。
一日、分厚い本と格闘して理解したことは、とにかくバチルタ家領は『火山で大変!』ということだった。
ネメド王国では麦が主食なのだけれど、火山灰土壌では育ちにくいらしい。生育しにくく、収量も少なく、品質も低下、民の暮らしも領主の暮らしも大変厳しくなる。
他にもネメド王国でよく食べられたりお酒に加工されたりする果樹が育たないとか、貧しい人の栄養源になるはずの豆が育たないとか、踏んだり蹴ったり!
しかも火山地域で危険なので、民の流出が止まらない。
特に産業もなく、鉱石もなく、農業は悲惨の、ないない尽くし!
ときどき噴火してめちゃくちゃ危険、作物が育たない、人が出てゆくの三重苦だ。ネメド王国で最も税収の少ない領地となっている。
最貧だ!
「あぅあ……」
しょんぼり肩を落としたノィユは、うなだれた。