お勉強だよ
「こちらこそ、どうぞよろしくお願いいたします!」
バチルタ家一同で頭をさげる。
ノィユの角度もそろってきたよ。
「本日はどのような御用で」
「借金を返す知恵を得るために、図書館で領地のことをお勉強したいのです!」
手を挙げるノィユに、両親もこくこくしてる。
「なるほど。では、誓約書に魔紋をお願いします。図書館の本を盗まず、傷つけず、汚さない、もし損壊、窃盗した場合は、弁償すると」
「ひぃい!」
見慣れているのだろう、借用書みたいな誓約書に母がビビってる。
「だ、大丈夫だ、慎重に扱おう!」
父が励ましてる。
「横でご飯を食べたり、お茶を飲んだり、本を無理に引っ張ったり、盗んだりしなければきっと大丈夫です!」
胸を叩いてみた。
「丁寧に扱ってくださるなら、だいじょうぶですよ。ここに当主さまの魔紋を」
にこにこしてくれるネニがやさしい。
「は、はい……!」
誓約書に魔紋を請求されることに慣れているのだろう、母が涙目だ。
「はい、確かに誓約書に魔紋をいただきました。これで館内の書をすべて見ていただくことができます。バチルタ家の領地のことでしたら、何冊か心当たりがあります。ご案内しましょう」
微笑んだネニが、館内へと導いてくれる。
衛士さんたちが槍を掲げて見送ってくれた。
高い天井の図書館は、ちいさな文字も見えるようにだろう、明かり採りの窓がたくさん開いて、陽の光が降りそそぐように設計されている。
でもネメド王国の本は殆ど手書きなので、文字はほどよいサイズだ、と思う。
磨き抜かれた白い床は、歩くとコツコツ音をたてた。
不審な侵入者を防ぐ意図もあるのかもしれない。
天井にまでそびえる棚には、分厚い本が隙間なく詰まっていた。
「世界中の本を集めた、ネメド王国が誇る王立図書館です。バチルタ家の領地に関する本は、こちらですね。頑張ってください」
ネニが応援してくれた。やさしい!
「おかあさまとおとうさまは領地について熟知しておられると思いますが、僕には圧倒的に知識がありません。僕が読む間に、おかあさまとおとうさまは本を斜め読みして、知らないことがあったら書き出してください。あと、僕が解らない文字を教えてください」
「わ、わかった!」
母がひきつってる。
……どうしてかな? 理由を考えると、こわいんですけど……!
「……ぼ、僕は、難しい本は、ちょっと……」
父はたぶんノィユと同レベルだ! 理解した!
「じゃあ僕と一緒に勉強しましょう、おとうさま!」
「わ、わかった……!」
涙目な父が、かわいい。
分厚い本は難しい字の羅列だったので大変だ!
涙目の父と一緒に涙目な母に教えを請い、文字を勉強しつつ本を読みこんでゆく。
「なにこの文字!」
「潰れてるよね」
「なんで東北部の資料だけがないの?」
ノィユと両親が困っていたり、うなっていたりすると
「難しい字の本は、こちらがよくわかります」
「バチルタ家領東北部の詳細は、こちらの本が詳しいです」
重そうな衣をずるずる引きずって、とてとてやってきたネニが、かゆいところに手が届く本を置いてくれた。
やさしい!
めちゃくちゃ仕事のできる3歳児!
これがほんものだ!




