おでかけです
見送ってくれるヴィルに、ロダに、エヴィに手を振った。
「はあ──! 離れるのつらい──!」
顔を両手で覆うノィユの隣で
「僕も──!」
一緒に号泣してくれるトートがいい人だ。
「しゅ、出発してよろしいでしょうか?」
御者さんが戸惑ってる。
「やってくれ」
トートの声に、ノィユと両親を乗せた馬車が走り出す。
ああ、最愛の伴侶が、ちいさく、遠くなってゆく──!
「ヴィル──!」
車窓から身を乗りだして、涙ながらに手をふるノィユに
「最期の別れじゃないから」
恥ずかしそうな赤い頬で、おかあさんが腰を抱いて落ちないようにしてくれる。
やさしい。
父が肩を揺らして笑ってる。
すんすん鼻をすするノィユの頭を、母の、父の、トートの手がなでなでしてくれた。
やさしい。
朝の貴族たちの出勤時間は民も解っているのだろう、道の中央を空けてくれていて、さくさく馬車が進んだ。
王宮の近くにそびえる、巨大な白亜の建物が、王立図書館だ。
「帰りも迎えにくるから」
「ありがとうございます!」
「お気をつけて、いってらっしゃいませ!」
バチルタ家一同に見送られたトートが王宮へと向かう。
残されたノィユと両親は、天高くそびえる書の宮を見あげた。
図書館の前には槍を掲げた衛士までいる。
本は大変貴重で高価なので、護衛が必要らしい。
朝からお疲れさまです。思いつつ、ノィユは手を挙げた。
「バチルタ家です、本を見せてください」
いちおう貴族の家紋を掲げたノィユに、顔を見合わせた衛士たちは槍を交差させた。
ガシャン──!
鋼の音が鳴り響く。
「借金まみれの家だな!」
「本を盗んで売り払う気だろう、だめだだめだ!」
バチルタ家の悪名が轟いている!
門前払いを喰らいました。
たぶん、入れてはいけない危険な家リストのなかにバチルタ家も入っているらしい。
ブラックリスト入り。
せつない。
「……応援してくれるって仰ったし、国王陛下にちょっとお願いしてみようかな……」
ヴァデルザ家とネァルガ家には頼れないが、国王陛下に頼ろうとする母が強い!
「だ、だいじょぶなのか?」
珍しく父のほうが心配そうだ。
「だって、これ以上ヴィルさまやトートさまにご迷惑を掛けられないよ!」
「たしかに」
うなだれた父のおひざを、ノィユの手がぽんぽん慰める。
届くのがおひざなんだよ、肩までゆかないよ、せつない!
「これから御恩を、お返ししましょう!」
ノィユの励ましに、両親は拳を握る。
「そ、そうだな、がんばろう!」
「そのためにも、ここは申し訳ないけど、国王陛下にお願いを──!」
母が、大人のお話の時にもらったらしい、国王陛下直通だという魔法陣を取りだした。
携帯電話みたいな感じで、離れたところにいる個人に声を届けて会話ができるらしいよ。
「そ、それはまさか、国王陛下の魔紋──!?」
「図書館に入る認可を、国王陛下から貰うつもりか──!?」
「待て待て待て、それ、俺らの首が飛ぶ事態じゃないか──!?」
衛士の皆さんがざわざわしてる。
「し、しばらくお待ちください!」
「国王陛下に連絡しないで!」
涙目で止められました。




