うばいあい
燃える頬でもだもだするノィユの頭をカッ飛ばすように、大浴場の扉が開いた。
「僕も一緒に入るんだからァア──!」
エヴィの絶叫が、湯気のたちこめる浴場にこだまする。
あちこちに紅い痕のある、細い腰の色っぽい、大変に艶やかなお姿だが、ちゃんと腰にタオルを巻いてくれてた。よかった。
「間違いがないか心配なので、僕も一緒に入ります」
トートまでやってきた!
なんか噛み痕っぽい、痛々しそうな痕があるけど、トートがとってもうれしそうなので、よいと思う。
やっぱり鍛えられた逞しい身体をしてる。細マッチョ? 脱いだらすごい。
腰にタオルを巻いてくれてた。
伴侶になったふたりきりで、はじめてのお風呂♡ が早くも頓挫しました。
せつない。
「ふぇ」
「ヴァデルザに、帰ったら、ふたりで、入ろう」
ヴィルが頭をなでなでしてくれるのに、ちょっと泣きそうになってた目を擦って、こくこくうなずく。
「ちょ、ちょっと! えろいことしたらだめだからね! 契約違反だからね! えろいことしないって契約書に書いてあるから、認めてあげたんだから! お兄さまに手を出したりしたら、許さないんだからぁああァア──!」
エヴィの圧がすごい。
「どうどう、エヴィ、お風呂で絶叫すると鼻血ふくよ。お義兄さまの前だよ、落ち着いて」
お背なをぽふぽふしてあげてるトートに、エヴィがこっそり感謝してる。
幻想で鼻血噴いて倒れるとか、さみしいよね!
「お兄さま、お背中お流しします♡」
エヴィの目が♡だ。
「ふぇ! ヴィルのお背なは、僕が──!」
あわあわ手を挙げたら
「届かないじゃん」
斬って捨てられた。
しょんぼり。
「まあまあ、届くところはノィユが、届かないところはエヴィが洗ってあげたら?」
栗色の髪をふわふわ揺らしてトートがとりなしてくれる。
やさしい!
「ふ、ふんだ!」
目を逸らしたエヴィが、ヴィルの背中からすこし身体をずらしてくれた。
「さっさとしなよ、3歳児!」
「は、はい!」
あわあわしたノィユは、こくこく頷いて、石鹸をわしゃわしゃタオルで泡立てた。
ふわふわになった泡で、そうっとヴィルの背にふれる。
「かゆいところ、ない?」
「平気」
「えへへ。ヴィル、お背なも、きれいね」
しっかり、みっしりした筋肉は、なめらかに指を押し返す。
ふわふわの泡で包んで丁寧に洗ったら、くすぐったそうにヴィルが笑った。
「あぁあアア! はい終わりィイ──!」
絶叫したエヴィに押しのけられたノィユは、しょぼんとしつつ、でもエヴィに頭をさげる。
ほんとは絶対分けあいたくなんてないのに、ギリギリしてる気持ちを押しこめて、ぽっと出のノィユに譲ってくれる、そのやさしさがどれだけ貴重なのか、ヴィルを独占したくてたまらないノィユには、沁みるようにわかるから。
「あの、ありがとうございます、エヴィさま」
「わ、わかればいいんだよ、ふんだ!」
ほんのり赤い頬を逸らしたエヴィが、ヴィルの背に指をすべらせる。
「後は僕がお流ししますね」
うっとり♡の目でヴィルの背中にふれるエヴィに
「エヴィ──!」
トートが泣いてる。
お背なを奪いあわれたヴィルは、お椅子に座って赤い顔でうつむいてた。
かわいい。




