伴侶特典だよ
はらはらしながら見守ってくれていたのだろうノィユの両親が、親指を立ててくれる。
やさしいけど、それは食事の際の所作としてはだめなんじゃないかな!
こくりとうなずいて、ちっちゃな×をちっちゃな指でつくるノィユに、両親はあわてて親指をひっこめて、おすましした。
そうしてると顔面最強伴侶なので、精霊さんの絵画みたいになるんだよ。すごい。
エヴィの絶叫も落ち着いたので、ごはんです!
「はぅ……!」
お野菜おいしい!
カビが生えてない! 黄変してない! 褐色にもならず、傷んで溶けたりしてないよ!
しゃくしゃく!
『うま──!』
叫びたいのをこらえた。
そうです、お野菜は美味しいのです!
ちょっと涙ぐんだら、両親も涙ぐんでた。
ロダとヴィルがかわいそうな子を見る目になって、頭をなでなでしてくれる。やさしい。
お野菜をもぐもぐしっかり食べたら、お肉、お肉です──!
おっきいお皿に、ちっちゃいお肉がちょこんと乗った、お上品の極みみたいなのだけど、お肉──! きゃ──!
よだれじゅるじゅるでいただきました。
口に入れた瞬間、あふれでる肉汁!
「はぅあ──!」
泣いた。
両親も泣いてる。
トートとエヴィが、ドン引いてる。
ロダがかわいそうな子を見る目になってる。
ヴィルがやさしい目で、お背なをぽふぽふしてくれる。
エヴィはヴィルには突っこまないみたいだよ。
ハンカチを噛みたそうにギリギリしてた。
ごめんなさい。
ネァルガ家は高位貴族なだけあって、お邸の敷地も広大だ。
ふつう高位貴族は王宮の近くに邸宅を構えるものだけれど、静かな郊外がいいと、わざと離れたところに居を構えているという。
その分、広やかな敷地に馬が走れる馬場があり、厩舎も家庭菜園も鍛錬場まで充実している。
お邸もひと部屋ひと部屋が大きく造られていて、天井が高く、窓も大きく、風と光がよく通る。
さらにお風呂まで巨大だ。
まるでプールだよ、すごい!
魔法で水と火を操って沸かしてるから、エコなんだって。
ネメド王国では魔力の潤沢な家、もしくは魔道具が買える裕福な家では、でっかいお風呂が標準装備みたいだ。うらやましい。
ノィユはほんのり熱い頬で、ヴィルを見あげる。
「……正式に伴侶になったから……いっしょにお風呂、入りたい」
きゅ
ヴィルの手を握って上目遣いで『一緒にお風呂』という大歓喜な伴侶特典をおねだりしてみた!
ふわりと朱くなった頬でうなずいたヴィルが
ぎゅ
ノィユの手を握りかえしてくれた。
脱ぐ前からすごいのは見て解るヴィルだけど、脱ぐとさらにすごい。
ひとつひとつの筋肉がなめらかに艶やかに隆起して、あざやかな曲線をえがき、細い腰へとつながる。
しゃっと腰にタオルを巻かれてしまった。
しょんぼりしつつ、ノィユも腰にタオルを巻く。
間違いがあると、ヴィルが犯罪者になっちゃうから、気をつけねば。
主に、というか間違いなく、襲いかかるのはノィユだ!
危険を回避するために、あえてここは3歳児としてはしゃいでみました。
「わー! ヴィル、泳げるよ!」
駆けだそうとしたノィユの腰を、伸びたヴィルの腕がひょいと抱きあげる。
「ころぶ」
お風呂なので、素肌です。
お肌とお肌が、しっとりふれる。
「きゃ──!」
鼻血が、あふれそうです。