わすれてた!
「あのう、敵国へ通じているのかどうかが不審だって、聞きましたけど……」
全然聞かれなかったので忘れてたノィユの突っ込みに、そうだったねとロダもヴィルもうなずいた。
皆で忘れてた!
「バチルタ家には叛意はございません! 敵国なんて見たこともないです!」
ノィユの言葉に、ヴィルも続ける。
「ヴァデルザも」
うんうん首肯したザイア陛下が「てへ♡」舌を出した。
涼やかで凛々しいかんばせなので、ちょっとかわいかった。
「……ぷ……!」
エヴィが吹いて、トートがによによして、アォナが真っ赤になって、息子のザファは恥ずかしそうにもじもじしてる。
かわいい。
ヴィルは通常営業を見守る瞳だった。尊い。
「だって、ヴィルとエヴィに逢いたいよ。ノチェとユィクの子どもが見たいよ。
ちゃんと逢ってお祝いしたいから召喚するって言ったら、あちこちから叱られそうだから」
そのとおりだ!
国民の血税をぉおオオ──!
バチルタ家の憤激を見て取ったらしいザイアが首を振る。
「ちゃんと王家の資産から旅費は出すから! 民の血税には手をつけないから!」
あわあわ釈明してくれるザイアに、バチルタ家一同が胸を撫でおろした。
「報告はあがっているが、領地はどうだ」
心配してくれているらしいザイアに、両親は涙目だ。
「噴火は治まりましたが民はほんとうに大変です。何とかたすけたいのですが、バチルタ家の財力ではもう限界が──!」
両親が泣いてる。
「奮闘してくれているのは理解している。今、国庫を調整している。できるだけ早く支援をさらに拡充する」
ザイアの王としての言葉だ。
「ありがとうございます……!」
両親と一緒にノィユも深く頭をさげた。
ザイアの姿に、ミニ陛下みたいなザファが誇らしそうにちっちゃな胸を張ってる。かわいい。
王に正式に伴侶だと認可してもらえたので、早速ヴァデルザ領に帰ろうとしたのですが
「帰ったらやだぁあアア! お兄さま──! 伴侶をもらうなんて酷いことをしたんだから、ひと月は僕の傍にいてくださいィイイ──!」
エヴィに全力で阻止された。
「なるべく早くお帰りください」
トートが泣いてる。
「そんなこと言うトートは、本気で大きらいになるから!」
エヴィの大きらい攻撃が、トートに99999のダメージを与えた!
「そ、それだけは──! ご、ごめんなさいぃい! いつまでもいらしてください、お義兄さま!」
トートが号泣してる。
「じゃあ、王都の、ヴァデルザ家に──」
王都にあるというヴァデルザ家の邸に向かおうとするヴィルを、エヴィが全力で止める。
「そんな離れたところ、意味ないじゃないですか! 毎日一緒にご飯を食べて、お傍できゃっきゃうふふするんです! 伴侶をもらったんですから、僕のことも可愛がってくれないと困ります!」
論理展開の仕組みが解らない。
「わ、わかった」
ヴィルは解ったみたいだよ。
可愛い弟には弱いんですね、解ります。
ちょっとさみしいけど、突然出てきて最愛のお兄ちゃんを奪ってしまった自覚のあるノィユは、しょんぼりしつつ、ささやいた。
「……あの、僕も、可愛がってね」
きゅう
おひざに抱きついてみた。
真っ赤になったヴィルが、ちっちゃな顔をおっきな手で覆いながら、こくりとうなずいてくれた。




