なかよしだよ
ザイア陛下みずからが城のなかへと案内してくれる事態に仰け反っているのは、ノィユと両親だけらしい。
ぷるぷるしてるバチルタ家をちらりと見たエヴィが、形のよい唇を開いた。
「トートは陛下のご学友から側近になったから親しくさせていただいているんだ。そのよしみで、僕にもお兄さまにも目をかけてくださって、もったいないことに仲良くさせていただいている」
ビビるバチルタ家が憐れになったのか、解説してくれた。やさしい。
エヴィの言葉に、ザイアが手を挙げる。
ペンやカトラリー以外持ったことのないような、なめらかな手かと思ったら、剣だことペンだこの見える、ごつごつした手だった。
「こんな職業をしてると、忌憚なく物を言ってくれる者は少なくてな。家格を慮ることなく進言してくれるトートの存在は、とても貴重なんだ。下ネタにも付きあってくれるし」
「陛下──!」
真っ赤になったトートが、ばたばたしてる。
え、無害な愛らしい顔をしておいて、トート、下ネタを陛下とお話してるの!?
き、聞きたすぎる──!
もだもだしそうになったノィユの隣から凍気があふれ出た。
「へぇえぇえ? どんなお話をしてるのか、すっごく興味があるよ、トート」
愛らしさ全開のはずのエヴィの顔が、すさまじいことになってる。
展開してゆく異次元に真っ青になるトートに、ザイアが笑った。
「俺を振ったエヴィの伴侶になったんだ。これくらいの意地悪は当然だろう」
「ぐ──!」
トートが詰まって、エヴィは申しわけなさそうに目を伏せる。
「だって陛下は何人も伴侶をお持ちになるでしょう。……そういうの、僕、だめで」
「エヴィひとりにすると言ったが?」
「子宝に恵まれなかったら絶対に、すぐ次がいらっしゃるでしょう? 僕は体質で、おそらく無理だろうって。トートはそれでもいいって言ってくれたから。……ちゃんと、申しあげましたよ?」
ぷくりとふくれるエヴィに、ザイアは笑った。
「ふたりの困る顔が見たくて、つい」
なんとなく陛下の気質が解ってきた気がする!
ザイア陛下が案内してくれたのは、謁見の間のさらに奥にある、窓のない部屋だった。誰にも聞かれぬよう密談をする部屋なのだろう。
つややかな飴色の猫足の円卓のうえには、ヴィルとノィユの伴侶契約書が並べられていた。
駆け寄ったエヴィが、伴侶契約書を熟読してる。
蝋燭に灯る橙の火が、辺りをやわらかに照らしだす。
皆に続いて入った侍従が椅子を引いてくれ、お茶とお菓子を持ってきてくれた。
侍従がいなくなると、ザイアが卓のうえの契約書に指をすべらせる。
「しかし驚いた。よくエヴィの猛攻を振りきって伴侶を持てたな、ヴィル」
「僕が離れて暮らしてるのをいいことに、転がりこんだんです! 僕はまだ完全に認めたわけじゃありませんから──!」
エヴィの絶叫に、ザイアは喉を鳴らして笑った。
「借金か」
「それもありますけど! 3歳ですよ!? お兄さまが『ちいさい男の子が大すき』とか言われるなんて、あんまりです──!」
ものすごい目でにらまれたザイアが声をたてて笑った。




