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【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします  作者:   *  ゆるゆ
本編

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28/87

愛しかない




 ぽくぽく軽やかな蹄鉄の音をたてて、地上をふつうに駆けてくれる馬さんに、ノィユは思わずほっとしてしまった。


 飛んでない。

 胃がひっくりかえらない。


 うれしい。


 いや、ツーとホーはめちゃくちゃ可愛くて、ものすごく頑張ってくれたけど!

 めちゃくちゃありがたいけど!

 ごめんよ!


 思わず泣いて謝ってしまった。


 向かいの席で、すべてを理解したようなロダがにこにこしてる。




「詐欺じゃないって言うんだよね?」


 エヴィの追及は真剣だ。


 最愛の兄に寄ってきた借金まみれ伴侶なんて、あやしさ全開どころか斬って捨てたいレベルだと思う。


 ほんとうに申しわけない。



 それでもヴィルの伴侶は譲れない!



 発言の許可を貰ったものとして、ノィユは深くうなずいた。


「僕は、誠心誠意ヴィルに、ヴァデルザ家にお仕えし、その繁栄に貢献したいと心から願い、尽力するつもりです」


「お兄さまを下位貴族が呼び捨てにするなんて! きぃいいいイイ──!」


 ハンカチを噛むエヴィに、トートがちょっとうれしそうだ。


 エヴィの最愛のヴィルに伴侶ができてうれしいんですね、わかります。

 ロダがによによしてる。



「俺が、呼んで、ほしいと、言った」


 ほんのり朱いまなじりで告げるヴィルに



「ぎぃいいぃイィイイ──!」


 愛くるしいエヴィのかんばせが、すさまじいことになってる。



「エヴィ、お義兄さまの御前だから、その顔は」


 トートに、ぽふぽふされたエヴィが


「は!」


 あわあわ天使なかんばせに戻った。


 ロダの肩が、ふるえてる。




「……俺は、見慣れて、るけど。変わらない、トートに、ありがとう」


 ヴィルは見慣れてるんだ!



「い、幾らお義兄さまとは言え、僕のほうが家格が上なのですから、呼び捨てにするなんて……!」


 真っ赤な耳で抗議するトートの声がちいさくなる。



「……うれしぃ、じゃ、ないです、か……」


 デレた!



 ロダがによによして、エヴィの唇がとがる。



「トートも、お兄さまがすきなんじゃん」


「ぐ──!」


 否定しないよ!



「ちょっとそこの! によによしてないで、どうして借金がすさまじいことになったのか、ちゃんと説明しなさい!」


 火の粉が戻ってきた!


 わたわたしたノィユは、慌てていずまいを正し、バチルタ家の借金事情を説明した。


 


「あんぽんたんなの?」


 エヴィの感想に、バチルタ家一同で、うなだれる。



「……誠に、申しわけございません……」


 家族皆で、頭を下げた。



「まあでも親友のくだり以外は、情状酌量があるかなあ。あんぽんたんだけど」


 あんぽんたん光線に刺された両親が泣いてる。



「お兄さまに借金の迷惑は掛けない、ヴァデルザ家の財産目当てじゃないっていうのが、きみたちの主張?」


「……え、えと、あの……ご飯を食べさせていただけるということで、大変、大変に喜んでしまいましたが……」


 涙目な母が、真実を語ってる。


「お、お肉を恵んでくださって、あまりの歓喜に号泣しました。そ、それは財産狙いということになってしまうのでしょうか……!」


 父も泣いてる。


「最初は僕、ご飯を食べるために、身売りするつもりだったんです、ごめんなさい──!」


 ノィユも深々と頭をさげる。


 あんぐり口を開けそうになったエヴィとトートが、慌てたように口を押さえた。




「ヴィルにお逢いした後は、愛しかないです!」


 拳をにぎって宣言した。



 頭のうえで、ヴィルの耳がほんのり赤くなってる。かわいい。









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