もしゃもしゃ
ノィユの計画は、簡単だ。
「お金持ちの伴侶になって、実家を救済してもらう!
いや潰れゆくバチルタ家はそのままでもいいから、とにかく、両親と僕にご飯を……! ごはんをください──!」
涙目なノィユに、両親も思うところがあったのだろう。
いや、ないと困るよ、頼むよ!
3歳のノィユに縁談を、という無茶振りに応えようと奮闘してくれたらしい。
いや、真実は春の王家主催の舞踏会に列席し
『誰か3歳の子どもに食事を食べさせてあげてください……!』
哀願してくれたらしい。
可哀想に思って、縁を結んでもいいと申し出てくれる家があったという。
「ど、どちらのおやさしい方が──!」
前のめりに聞くノィユに、おかあさんが目を逸らした。
「……え?」
おとうさんが、もごもごしてる。
「…………ぇえ……?」
くしゃりと顔をゆがめた月の精霊さんみたいなおかあさんが、のたまう。
「……王国の北の端の端、隅っこの辺境にお暮らしの……」
陽の精霊みたいなおとうさんが決意したように、キリっと顔をあげた。
「おじいさんだ!」
おかあさんも、こっくり頷く。
「まっしろで、もしゃもしゃしてた」
…………………………。
まっしろ。
もしゃもしゃ。
「せ、背筋は、ぴんとしてたぞ!」
おとうさんの励ましが、遠い。
「その方以外に、沈没してゆくバチルタ家と縁を結びたいと言ってくれる方は……いらっしゃらなかった」
おとうさんの肩が落ちる。
「……泥船だからな」
おかあさんの肩も落ちた。
「だからノィユ、身売りなんていう哀しいことはもう考えないで──」
おかあさんの言葉を遮るように、ノィユは拳を掲げる。
「僕、だいじょうぶです! 下のお世話をして、ごはんが食べられるなら、喜んで!」
おかあさんも、おとうさんも、あんぐり口を開けた。
「……そ、そんなに、辛かったのか……!」
「ごめんな、ノィユ……! ほんとに、ごめん……!」
ぎゅうぎゅう抱きしめてくれる両親は、やさしさと愛にあふれている。
虐待されて苦しい思いをする子どもたちが沢山いることを思うと、奇跡のようにありがたいと思う。
胸はいっぱいになるけど、お腹は膨れないんだよ──!
というわけで、身売りです。
ごはんのためなら、何だってやってやるぜ!
固く拳を握りしめたノィユが商会の荷車にお慈悲で乗っけてもらって何度も何度も乗り換えてようやく辿り着いたのは、ネメド王国の最果てにある、急峻な山並みの向こうは敵国という恐ろしい辺境だ。
しかも領地のほとんどを占める深い森には、魔物が出るという。
モンスターだよ。
ふつうの獣と違って、魔力を帯びて知性を持って人間を襲ったり喰らったりするものをこの世界では魔物と定義している。
ふつうの獣に比べて強いしでっかいしこわい。らしい。
もしかしてこれRPGゲームなのかな?
前世は運動めちゃくちゃ苦手だったんだけど、この地で生きるには勇者にならないと無理とか……?
ど、どどどどうしよう……!
下のお世話をする心構えは万端だけど、魔物と戦う心構えはなかった──!
血の気の引くノィユと一緒に、付き添いで来てくれた両親の顔も青くなってる。