断言した!
王さまに呼ばれたので、仕方なく! 王都にゆくことになりました。
「馬車とか宿とかご飯とか、めちゃくちゃお金かかるのに! 気軽に呼びつけるなよ!」
拳で床を叩いて号泣するノィユと両親に、あんまり慌てなさそうなロダが、わたわた慰めてくれる。
「王の召喚ですので、旅費は国費から支払われるかと」
「民の血税を、そんなことに使うなんてぇエエ──!」
災害で苦しんでいるバチルタ家領の民が、同じく苦しむ皆のためにと納めてくれる税は、ほんとのほんとに血税だ。
バチルタ家の嘆きが止まらない!
「……俺も、不服、だが、ノィユが、伴侶と、なることを、正式に、認めてもらう、ためなら、我慢、しようと、思う」
とつとつと紡がれるヴィルの言葉に、燃える頬で、きゅ、とノィユはヴィルのおひざに抱きついた。
「ヴィル、だいすき!」
腕を伸ばすと、おひざなんだよ。
ヴィル、背、高い!
190センチ越えてるんじゃないかな?
「……っ!」
ひざに抱きつかれたヴィルが、真っ赤になって固まってる。
「はぅあ!」
ロダと両親が、ちいさきものを見た目になってる。
貧乏なバチルタ家には、書物もなかった。
簡単な文字は両親が教えてくれたが、それきりだ。
なのでこの世界のことを、ノィユはあんまり知らない。
「王都までゆく馬車のなかはお暇だと思うので、お勉強したいです!」
手を挙げたノィユに、ヴィルが残念そうに眉を下げる。
「酔うと、思う」
「はうあ!」
そうでした。
馬車、めちゃくちゃ揺れるのです。
本を読むとか、とんでもない。
お尻が割れる心配をするのが先だ。
「あの……本来なら参る前に勉強すべきでしたが、我が家には書を買うお金がなく(カビの生えていないパンを買うお金もない)……ヴァデルザ家のことや、ヴァデルザ家領のことを勉強したいのです」
ロダが青磁の瞳をわずかに見開いた。
「なんと……!」
「ありがとう、ノィユ」
うるうるの瞳で微笑んでくれるロダとヴィルに、ノィユのほうが、びっくりする。
「え、え? 当たり前のことです!」
ヴィルもロダも首を振った。
「ヴァデルザ家領は、北の最果て、魔物の闊歩する危険な森林に覆われ、険しい山は雪に覆われ、その向こうは敵国です。農地にも向かず、産業もなく、交易もなく、ただひっそりと三百年前に建てられた砦だけがあるのです。その、食べる分くらいは、国から支給されますし、狩りもできるのですが」
ロダの言葉に、ヴィルが目を伏せる。
「誰も、ヴァデルザ家、関わりたく、ない。知りたく、ない。それか、ふつう、だったから。
……ありがとう、ノィユ」
両の手で、ちっちゃな手を包んでくれるヴィルに、泣いてしまう。
「僕が、ヴィルを、ロダさんを、ヴァデルザ家をしあわせにします──!」
断言しちゃった!
「がんばれ、ノィユ!」
「応援してる!」
両親は応援しかしてくれないらしい。
特にアイデアはないんだね。理解した。
バチルタ家も沈没してるからね。
そっちは借金がすごすぎて、ここまでなったら破産でいいだろうと国が認めてくれるんじゃないかという希望が輝いて、どうにかしようという気力が湧かなかったんだよ、ごめんね!