愛です
両親と一緒に、ヴァデルザ家にお邪魔できることになりました!
なんてやさしいヴィルとロダ!
間違いなく天使だ!
最愛のヴィルと一緒とはいえ、両親と遠く離れるのはかなりさみしかったので、とても心強い。
うれしかったので、おどってみた。
ヴィルとロダが、ちいさきものを見る目になってる。
両親も一緒に踊ってくれた。
ロダとヴィルが、楽しいものを見る目になってる。
大切な、ノィユとヴィルが伴侶になった契約書は、契約した瞬間に複製が王宮へと魔法陣で送られ認可の魔紋が送り返されることになっている。
今の陛下は仕事が早いらしいので、だいたい翌日か、混んでいても数日中には魔紋が送られてきて正式に伴侶となれるだろうということだった。
「俺たちの時は、翌日だったね」
母の言葉に、父が頷く。
「すぐ認可されるんじゃないかな」
「お、来たようです」
貴族の家には設置が義務付けられている、王命を拝したりするための魔法陣が輝いて、ぺろんと紙を吐き出した。
「おお!」
出てくるの、初めて見た!
王の魔紋ってどんななのかな。
覗き込んだノィユと一緒に、送られてきた紙に目を落としたロダの眉がしかめられる。
簡単な文字は両親に教えてもらったノィユだけれど、難しい字は読めないので、何と書いてあるのか今ひとつ解らない。
「どうした?」
覗き込んだヴィルも、眉をしかめた。
「何か、よくないことが?」
心配そうな両親に、ヴィルが吐息する。
「……その……」
口ごもるヴィルの代わりに、ロダが口を開いた。
「畏れながら。借金まみれのバチルタ家と敵国との境界にあるヴァデルザ家の伴侶契約が、敵国の息が掛かっていないか、不審であるとの仰せです。その、ヴァデルザ家領も、さほど裕福ではありませんので……敵国に融資してもらう見返りとして、敵国軍を通すための契約ではないかと」
「………………は!?」
あんぐり口を開ける父と一緒に、ノィユも口を開けた。
母がわなわな震えてる。
「こ、この泥船を救ってくださるヴィル様に、何たる疑いを──!」
血管がビキビキ切れそうな月の精霊みたいな母に、ロダもヴィルも、おののいてる。
「うちは不審満開だけど、天使なヴィルさまに、なんということを──!」
陽の精霊みたいな父が、号泣してる。
不審満開と言われた母が、ちょっとさみしそうになってる。
おかあさんの肩をぽふぽふしたノィユに、おかあさんがちょっと涙ぐんでる。
「敵国に自国を売るなんてことはないと信じているが、どうしてそうなったのか皆さまで説明に来てほしいとの仰せです。王都召喚ですね」
ため息と一緒にロダが眉を下げた。
「……書類でいいでしょう。王都まで出るのに、金がいくら掛かると思ってやがる、あのボンクラ──!」
拳を握る母の血管が今にも切れそうで、ヴィルとロダが心配の目になってる。
やさしい!
「また商会に頼み込んで、荷台に乗っけてもらって、荷の上げ下ろしをすればいいんだね」
にこやかに微笑む父に、荷物と一緒に来たことを思い出してくれたらしいロダの凛々しいかんばせが、ひきつってる。
「ご本人から、お気持ちをお聞きになりたいと。通常成人となってからの契約が多く、その、ノィユさまがまだ3歳なのに、正式な伴侶となられましたので……ないと思うが身売りではないかと……」
来る前は、身売りな気持ちでした。
今は、愛だ!
「愛です!」
むんと拳を握ったら、紅くなったヴィルが、恥ずかしそうに笑ってくれる。
「……俺も」
ちいさな、ちいさなささやきが、卒倒しそうなくらい、うれしい。