ほんとの僕
あばばばば!
はじめての夜が不穏で終わったら大変だ!
ほんとうを告げる決意を固めたノィユは、ヴィルを見あげる。
「ご、ごめんなさい、僕、生まれる前の記憶がちょこっとあるみたいで、色々変なこと言うかもしれないけど……」
ほんとは契約する前に言うべきだったと思うけど、信じてもらえないかもしれないうえに、ふざけてると思われて不愉快にさせてしまったらと、怖くて言えなかった。
でも早く言うに越したことはない。
王の認可が出ていないから、まだ正式には伴侶じゃない。
ヴィルがいやなら、引き返せる。
もちろん、伴侶になった後でも離縁できるよ。
「……生まれる、前の記憶……?」
ぽかんとするヴィルにうなずく。
「僕ね、魔法がなくて、その代わりに科学が発達した世界で生まれて、生きて、30代くらいで死んだっぽいの。だからヴィルと同い年くらいだよ!」
前世の脳力が全然ないから、チートなんて欠片もないけど。
同い年くらい! たぶん!
だから歳の差あるかって言われると、?? なんだよね。心としては!
「……その世界で死んで、この世界で生まれた?」
ふしぎそうにヴィルが首をかしげる。
この世界に、輪廻転生の観念はない。
夢物語に聞こえるだろうに、頭から否定することなく、ヴィルはノィユの話を聞いてくれる。
「契約の前に話せなくて、ごめんなさい。……ふざけてるって思われるかなって……もしヴィルが、こんな気持ちのわるい僕がいやだったら──」
「そんなわけ、ない!」
ぎゅっと抱きしめてくれる腕が、あったかい。
広い背中に回す指が、うれしい。
「……夢みたいな話なのに、僕のこと、信じてくれるの……?」
藍の瞳が、まっすぐ見つめてくれる。
目を見て、うなずいてくれた。
「ノィユは、賢過ぎるから。……天才だと、思ってた」
「まさか!」
笑ったノィユは、ヴィルの胸に頬を寄せる。
「経験も知識も何にもないけど、僕、ヴィルと同い年くらいだからね」
「わかった」
ちいさくヴィルが笑う。
「ちょっと、気が楽に、なった」
「え?」
「……ちいさな男の子が、趣味なのは……ちょっと……」
もごもごするヴィルが、かわいー!
「じゃあ僕、はやくおっきくなっても、だいじょうぶ?」
「おねがいする」
ヴィルが笑って、ノィユも笑う。
「……初めて逢ったなんて、嘘みたい」
ごつごつのヴィルの指をつかまえる。
剣だこの手を、そっとなでたら、ヴィルの指につかまえられた。
「……俺も」
ちっちゃな指を、愛しむようになでてくれる。
みあげる藍の瞳は、星の空みたいだ。
そっと、目を閉じたら
ふわりと、かんばせが近づく
ちゅ
あまやかな音をたてて、くちびるが、頬にふれる
燃える頬で、ヴィルを抱きしめて
その頬に、そっと、くちびるを、押しあてた。
ちゅ
あまい音が、からまる指が、かさなる瞳が、燃えるように熱い。
「……ちゅう、はじめて」
ささやいたら、ぎゅうぎゅう、抱きしめてくれる。
「…………………………俺も」
耳まで真っ赤なヴィルが、世界一かわい──!
「はじめて、ぜんぶ、一緒にしようね」
きゅうう
抱きついたら、紅い耳で、真っ赤な頬で、ヴィルがノィユの胸に顔を埋める。
「……ノィユのほうが、大人だ……」
「同い年なんだから、一緒だよ。ね?」
「……大人の対応……」
拗ねたみたいなヴィルに、声をたてて笑う。
「ヴィル、かわいー! だいすき!」
ぎゅううう
抱きしめたら、抱きしめてくれる。
「……俺も」
どきどきして、眠りたくなくて、ずっと話していたいのに
あったかい指がつながって、あったかい胸に、腕に包まれたら
やさしい睡魔が降りてくる
「……ヴィル……」
むにゃむにゃしたら、頭のうえでヴィルが笑った。
「おやすみ、ノィユ」
そっと
そっと
やさしいくちびるが、おでこに、降ってくる
おかえしをしたくて、手をのばしたら、ねだるようにかがんでくれた。
ちゅ
ヴィルのおでこに、くちびるをくっつけて、笑う。
「おやすみ、ヴィル」
からめた指まで、愛しくて
はじめての夜が、やさしく、やさしく更けてゆく。




