貧乏です
ノィユの家は、貧乏だ。
ひと口に貧乏といってもピンからキリまであると思うのだが、その日のご飯に困るくらいは貧乏だ。
ごちんと頭を打って生死の境を彷徨った3歳のノィユは前世の記憶、日本で生まれて死んだ記憶を思い出したが、チートなスキルもなく、ステータスオープンもできず、魔法もあんまり使えず、小説や漫画やアニメ、BLゲームやオンライン小説にも心当たりなく、前世に特筆すべき技能など何もなく(運転免許さえなかった。自転車には乗れる! えへん!)つまり、貧乏を回避する策を、何も持たなかった。
水とカビの生えたパンがあれば、上々の食事だ。
一日一食、パンが食べられたら上出来で、いつもはその辺に生えている野草や茸のスープや木の実で凌いでいる。
ダイエットじゃない。
デトックスでもない。
身体にめちゃくちゃいいのかもしれないけど、こればっかり食べてたら真剣に死ぬ──!
肉をください──!
肉を……!
涙目で拝んでも、こんがり焼けた肉は降ってこない。
3歳にして、ノィユは悟った。
いや遅いだろとか聞こえない!
『弓矢で鳥を射落とせよ』とか、無茶言わないで!
あれ、ものすごい技だから! 3歳児に無理だから!
これでもノィユのバチルタ家は、最底辺だがネメド王国の貴族の端くれだ。
どうしてこんなに貧乏まっしぐらなのか、両親に聞いてみたノィユは
「先代が阿保で、借金は返さないでいいものと思って、家人に内緒で莫大な額を借り入れていた」
「相続放棄して破産しようとしたけど、国が許してくれなかった」
「親友の保証人になったら、莫大な借金を背負わされて逃走された。親友じゃなかった」
お約束借金あるあると
「火山の噴火で領地が甚大な被害を被った。領民をたすけるため国庫に借金を」
まっとうな借金の三重苦を聞かされた。
「え、国は支援してくれないんですか──!?」
愕然とするノィユに、両親は肩を落とす。
「してくれてるけど、追いつかないんだ。それで、国庫に借金を」
……なるほど、そこは仕方ない。お金が降りてくるのに時間がかかるとか、その間に領民が餓えて死ぬとかあってはならない。それはまっとうな借金だけれども!
「……絶対に他人の保証人になるなって、おじいちゃんの遺言はなかったんですか……」
「……おじいちゃんが借金しまくりだったから……」
切ない両親の涙目に、うなだれるしかなかった。
今現在、領地からの収入はほぼゼロだ。
多少はあるのだけれど、すべて復興支援に注ぎ込まれている。
領地を経営しているからと国から貰えるお金は、すべて利子の支払いで蒸発する。借金の元本は全く減らない。
死にそうなほど切り詰めて節約して、利子だけを払うので精一杯!
「これぞ貧乏!」
泣き崩れた。
3歳なのに。
こんなに借金まみれなバチルタ家だが、世界に誇れることが、ひとつだけある。
顔面だ。
さらさら流れる月の髪に、淡い緑の瞳がひらめく母のかんばせは、月の精霊と称えられる。
きらきら流れる陽の髪に、あざやかな青の瞳で微笑む父のかんばせは、陽の精霊と讃えられる。
魔法で子どもができるから、ふたりとも男だよ。
ジェンダーフリーで結ばれることが当たり前の世界で両親の血を受け継いだノィユは、さらさらの月の髪に、きらきらの紫の瞳に、ふくふくほっぺの3歳児だ。
前世の記憶を思い出してから、鏡を見たノィユは仰け反った。
「なんだこれ──! 人生に勝った──!」
両の拳を突きあげて喜んだが、人生に勝っているはずの両親が借金三重苦でうめいていることを思い出し、我に返った。
顔面は、使いどころを誤ると、あんまりたすけにならないみたいだ。
3歳にして悟ったノィユは、潔く決意した。
「おかあさま、おとうさま、僕、身売りします!」
両のちっちゃな拳を突きあげるノィユに、両親があんぐり口を開けてる。
はじめまして!
もしくは、お久しぶりです! * です。
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