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お飾りの夫になるか、それとも?

後編です。これまた長くなってしまいました。

 別荘を去る準備をしているところへ、第四王子から王都に戻る前の保養地最後のパーティを開くので是非お越し頂きたいとのお誘いが届いた。お忍びを隠す事をやめて、開き直った王子の誘いを断れるはずもない。ジェインは帰都を延期してパーティに参加することにした。


 パーティと言ってもこの保養地に滞在している仲良しを招いた気軽なものなので、ドレスコードや身分など気にする事はないとの仰せである。とはいえ王族に招かれているのだから余りに無様な格好では行けないし、ましてや妙齢の女性が1人で参加するのも気が引ける。そこで護衛のパーシーにエスコートを頼む事にした。パーシーの恋人には悪いが仕方ない。支店長も考えたが、彼は彼で招待を受けているから御夫人と一緒に参加するようである。


 商会では、お嬢さまの装いに不備があってはならないとばかりに、とっておきのドレスと装身具が用意されていた。気軽にという言葉をどこまで信じて良いものか、相手は王族だしこちらはモリア伯爵家を代表するのだ。ドレスと装飾品の宣伝も兼ねているので気合いが入っていた。新作デザインのドレスの色は、光沢のある淡いグレーで、ジェインの瞳の色を彷彿させるものだ。若い女性が纏うシックな色合いを来季の流行にさせる目論見もある。

 そして装身具はこれまた見事な宝石を使った逸品であるが、実はそのネックレスを巡ってひと悶着あった。


 支店長室でジェイン用のドレスとアクセサリーを確認をしていた時に、たまたまやってきた王子の愛人が強引に支店長室に乗り込んできたのだ。そして目ざとく見つけた大粒のブラウンダイヤのネックレスとイヤリングを譲れと、強請ってきた。

 これは売約済みであるからと支店長が頑なに断ると、第四王子の覚えが悪くなってもよいのか?と恫喝してきたので、殿下はそのような公私混同をなさるような方ではありませんと応戦した。いくら王子のお気に入りの愛人でも、それはこの保養地だけの期間限定の話。その辺りを弁えない人間は淘汰されるのだと、愛人はわかっていないようだった。

「あたしにこんな恥をかかせてタダで済むと思わない事ね!」と捨て台詞を残しプリプリ怒りながら出て行った。


 支店長はジェインに要らぬ心配を与えないよう黙っていた。これらはお嬢様の為にと贈られたものであり、間違っても愛人が手にして良い品物ではない。


「お嬢様、愛されておいでですね」

 侍女のアンがひときわ大きく透明なブラウンダイヤのネックレスに感嘆する。

 お父様が用意してくれていたのね、とジェインは嬉しく思った。ただ色がね、婚約者の瞳の色だというのが少しだけ残念な気がした。彼の瞳は琥珀に喩えられる事が多いが、ジェインはブラウンダイヤだと常々思っていた。明るすぎず暗すぎず深い色は、心が落ち着く穏やかさがある。父が選んだとしたらその意図は推して知るべしである。



 王家所有の瀟洒な屋敷は保養地の最奥にあった。周りは森に囲まれており静寂で澄んだ空間である。

 ジェインは気心の知れた親戚でもあるパーシーにエスコートされていた。


「やあ、モリア伯爵令嬢、よく来てくれた」と、満面の笑みのエドワード第四王子に迎えられた。


 ぱっと見たところ、招待客は20名程。いずれも商会の上客達だ。流石に貴族ばかりが集まっていた。

 パーティルームは色とりどりの花で飾られ、軽食やデザートが並ぶ一角があり、給仕が飲み物を運んでいる。皆に行き渡ったところで王子の挨拶があって、歓談が始まった。ジェインは顔見知りの伯爵夫人とドレスの流行について話していたら、後ろから声をかけられた。


「ちょっと貴方、そのネックレスどうしたのよ」


 あら殿下の愛人だわ、しかし名前も知らない相手である。どうしたものかと曖昧な笑みを浮かべていたら、相手は更に噛みついてきた。


「モリア商会にあったやつでしょう?何故貴女が待ってるの?あたしが先に目をつけていたのだから譲りなさい」


「これは父からのわたくしへの贈り物ですわ。商品ではございません」


「気に入ったのよ。貴女みたいな小娘には不似合いよ」 

 愛人は手を伸ばしてジェインの胸元に輝く大きなブラウンダイヤを奪い取ろうとした。


 どうしようも無いほど不躾で失礼な物言いと無礼な態度にジェインはかちんと来た。第四王子のパーティで揉め事は起こしてはいけないと理解っていても、これは我慢ならないと、父親譲りの気の強さでもって言い返した。


「貴女から見たら小娘かもしれないけど、父モリア伯爵が選んでくれた最上の品、身に纏う人の品格を問われる品と言ってよろしくてよ。貴女にその資格があるとお思いになって?」


「あらそうなの。あんたがあの商会の娘なの?へぇ、なるほどねぇ。そりゃあホールデンも嫌になるわけね。こんなに貧相でみっともなくて、そのくせ気の強い娘が婚約者だなんてね。所詮あんたなんてお飾りの妻になるだけなのに惨めね」


 ジェインは彼女が自分とホールデンを知っている事に驚いて咄嗟に言い返せなかった。


「あら、王都のカフェで負け犬のごとく去っていったのは、あんたじゃなかったかしら?」


 その言葉はジェインに嫌な記憶を思い出させた。まさかこの人がホールデンと一緒にいた愛人なの?だけど彼女は、今は第四王子に囲われてここにいる。ホールデンから王族に乗り換えたのかしら。


「つべこべ言わず渡しなさい。こんな見事なブラウンダイヤ滅多にお目にかかれないからね。

 あ、代金はもちろんエディが払ってくれるわよ。エディは王子様なんだもの、こんなちんけな石くらい目じゃないくらいの金持ちよ。

 それにホールデンもじきにここに来るから、彼の口から直に聞くと良いわ。あんたは愛されていないってね!」


 ジェインは怒りでわなわなと体が震えた。何故こんな目に遭わねばならないのだ。悔しい。

 パーシーが咄嗟にジェインを庇うように立って、お嬢帰ろうと小さく告げた。売られた喧嘩とはいえ相手は王子の愛人だ。今後の商売を考えると分が悪い。それにホールデンがここに来るとあの女は言った。まさかと思うが王子とホールデンと愛人は三角関係なのだろうか。頭にカッと血が上る。

 嫌だ、ホールデンと愛人がいちゃいちゃしてる所など見たくはない。


 王族に招待されて早々に帰るなど不敬極まりないが、ジェインはこれ以上耐えられなかった。売り言葉に買い言葉だ、ジェインは思わず口にしてしまった。


「ホールデン・アドラー様との婚約は、あちらの有責で破棄いたしますわ。ここにいらっしゃる皆様と殿下がきっと証人になってくださいますでしょう。

 殿下、誠に申し訳ございません。わたくし体調が優れませんので、このままお暇いたします」


 第四王子は頷いた。

「済まない、モリア伯爵令嬢、この埋め合わせは必ず」


 パーシーに支えられてホールを出て行こうとしたジェインに、愛人はさらに罵声を浴びせた。

「ほんとみっともないわ。負け犬の遠吠えね。そんなだから婚約者に相手にされないのよ。短気で浅慮、まるでお子様ね」


 招待客達は黙って成り行きを見守っている。支店長が拳を握りしめているのが目に入った。彼はジェインに向かって大きく頷いた。パーシーに庇われるように室内から出て行こうとし、女がしつこく絡んでこようとしたその時。


「みっともないのはお前だ!アイリーン・ドーズ。結婚詐欺、窃盗、暴行、殺人罪で、お前を捕える」


 そう大きくはないホールに声が響きわたって、室内に騎士が数名現れた。彼らはアイリーンを取り囲むと有無を言わさず目と口を覆った。アイリーンは暴れていたが騎士には叶わない。やがて意識を失ってぐったりしたところを、騎士の1人が肩に抱えて出て行った。

 突然現れた騎士の中でとりわけ背の高い男がフードを跳ね除けて、王子の側に立った。それはジェインの婚約者ホールデンだった。


 ジェインは驚きで声も出ない。ただホールデンと無言で見つめあっていたが、先に目を逸らしたのはジェインだった。 

 客人達はまるで置物のように静かに佇んでいたが、第四王子の鶴の一声でパーティが再開された。


「アクシデントがあったが、五月蝿い羽虫は取り除いたから安心して過ごしてくれたまえ。

 ああ、騒がせたお詫びとして皆へは王家秘蔵のワインを用意しよう」


 そして第四王子はジェインを見遣ると、

「聞きたい事が山ほどありそうだね。今、これからにする?それとも日を改めようか?

 モリア伯爵令嬢へはワインだけでは足りないな。君たちの結婚の際は是非私も招待しておくれ。その時はこれまでの心労へのお詫びも兼ねて、何か気の利いたものを祝いに贈らせてもらおう」

と、茶目っけたっぷりにウィンクをした。



「つまり、囮捜査だったと?」


「まあ、そういう事になる。

 結婚詐欺を働いていた女に目をつけられた男が、財産を譲ると遺言を書いて不審死をとげる事件が相次いで起きたんだ。彼らはいずれも家族縁者がいなかった。中には下位貴族もいて断絶した家もある。

 彼らが詐欺にあった事は突き止めたが、肝心の詐欺師の女が巧妙に立ち回り、偽名と変装で逃げてなかなか尻尾を出さなかった。ある程度絞り込んで目をつけていたのが、あのアイリーン・ドーズという女だった。

 仮面舞踏会で思わぬ大物を釣り上げた女は、危険を冒してもその大物に狙いを定めたんだ」


「大物ってまさかの殿下?」


「そう。殿下は国の大事な任務の中枢におられて、そもそも仮面舞踏会で女と出会ったのも、詐欺師捕縛計画のうちだった。女は歳を重ねてそろそろ結婚詐欺も厳しくなってきたから、出来るだけど大物を釣り上げてとことん貢がせて、最後にはどこかの愛人に納まってやろうと考えたらしい」


「で、貴方はどういう役割だったの?恋人になって情報を聞き出す役だったの?」


「信じて貰えないかもしれないけど、あの女アイリーンの事はただ見張っていただけなんだ。殿下との連絡役として。

 ある程度の情報は教えて、殿下に捨てられても俺に寄生すれば良いと思い込ませた。あの女から過去の結婚詐欺のやり口を聞き出し、殺人或いは殺人教唆の証拠を掴むのが、俺の役割だった」


 ジェインは無言で頷いた。

 彼らは予定より少し遅れて王都に戻ってきた。保養地を離れる前に、ホールデンがモリア家の別荘を尋ねて来ていたが、戻ってから話を聞くからと、ジェインは逃げたのだった。その後も体調不良を言い訳にホールデンに会う事を避け続けてきた。

 しかしいつまでも逃げているわけではいかない。今後について話し合わなければならない。


 あの女が捕まった時に、それを指図していたのがホールデンだった事から、おそらくは何かの役割を持って接触していたのだろうとはわかっていたが、それでも雨宿りのカフェで耳にした言葉が、小さな棘のように抜けないままだった。


「極秘の任務内容が言えなくて、君に会えなくなるから遠征だと告げた。嘘をついて済まなかった。カフェでも…申し訳なかった」


「何に対して謝ってらっしゃるの?我慢しているのを黙っていたこと?」


「…あの女が側にいて、腕とか肩とかに触れるんだ。

 俺は鳥肌がたった。本当にきつかった。

 あの女の香水の臭いも吐きそうで。あれを我慢と言わず何と言えば良い?

 あの女は勝手に、俺が君に対して我慢していると思い込んだようだが、俺は吐き気を我慢するのに必死で頭が回らなかったんだ」


「そうですか。そこにたまたまわたしが居合わせたのね。隣の席にホールデン様がいる事に気がついて、盗み聞きしてしまったのよ、はしたない女だと、さぞかし呆れた事でしょうね」


「まさか!俺は君のその判断力と冷静さを、誇らしく思っている。寧ろ、大切な婚約者にそんな事をさせてしまった自分が不甲斐ないんだ」


 ジェインは核心について聞けない。怖いのだ。

 我慢が誤解だとわかったが、愛している人がいるとホールデンは言った。それがあの詐欺師の女でなかったとしたら、一体誰なのだ。


「ではもう演技は必要ない、という事ですわね。ホールデン様の事情は理解しました。ですから、本当に愛している方とご一緒になれば良いかと思いますの。

 貴方様は今回のご活躍で叙爵されると聞きました。それならわざわざうちに婿に来られなくても、騎士団をお辞めにならなくても、本当にお好きな方を娶られるべきですわ」


 ジェインは改まった口調で、いかにも貴族令嬢らしく振る舞おうとした。皮肉っぽいのは仕方ない。こんな結末が待っているとは思いもよらなかったし、今後の自分自身の身の振り方を考えねばならないのだ。


 無意識に胸元のブラウンダイヤを弄っていた。今日は大事な話し合いをするのだからと、気合いを入れて父から貰った逸品を身につけてきた。成金伯爵風情と思われても構わない。だってこのアクセサリー達は、父からの愛と信頼の証だから、いわばジェインにとって身を守る防具と言えた。


「それ、身に着けてくれているんだ。殿下のパーティでも見たけれど本当に君に似合ってる。贈って良かった。俺の色を纏う君を見るのは嬉しい」


「は?」

 思わず真顔で間抜けな声を出してしまう。


「あの、これは父からの贈り物ではないのですか?」


「残念ながら俺が贈ったものだよ。君が保養地に来ているのは知っていたけれど、商会でも一度も会えなくて落ち込んでいたら、殿下がいよいよ最後の断罪をするためにパーティを開くから、ジェインを誘うと言ってくれたんだ。

 だから王都のアドラー家に保管していたあの装身具を急遽持って来させて、モリア商会で預かって貰ったんだ。あの女に見つかると面倒だから」


「待って!じゃあ、うちの商会の人たちは貴方が殿下の護衛として保養地に滞在してると知っていたというの?」


「ああ、そうだよ。王都のモリア伯爵も保養地の商会の人間も、みんな知っていた。君の護衛と侍女には知らせなかったけどね」


 ジェインはショックを受けた。親切にしてくれた支店長や商会員達は、第四王子とその連れの話をする時どんな顔をしていただろうか?

 たしか、殿下もそうだが護衛の男がかっこいいとか言っていたような?

 それに自分にメイクをしたり、可愛い服を勧める時に何と言われただろう。


『こんなに愛らしいお嬢様の姿を見れば、()()を忘れちゃうかもしれませんわね』とか『お互いがいつもと違うスタイルでいつもと違う場所で偶然出会う、なんてロマンティックなのでしょう!』

『新たな恋が始まりそうですわ』だとか、わけのわからない事を言うとは思っていたけれど、第四王子の護衛としてこの地に滞在するホールデンの事が念頭にあったのだなと、今になってわかった。


「なんて事なの!みんなで騙されていたのね。支店長ったら、ぬけぬけと素知らぬ顔をしていたなんて。お父様もお父様よ」


「そこは俺に怒るところだろう。俺が一番悪いんだ。君を騙して誤解させて本当に申し訳ない事をしてしまった。信頼を失っても仕方のない迂闊な発言は、たとえそれが本意ではなかったとしても酷い裏切りに思われても仕方ない事だ。

 あの女の見張りが仕事とはいえ、君を不安にさせてしまい心から反省している。

 5年もあったんだ、君との間に決して他人が入り込めないような信頼関係を築くべきだった。それにはちゃんと愛を伝え続けなくちゃならなかったんだ。

 俺が不甲斐ないせいでジェインには辛い思いをさせてしまった。

 お願いだ、もう一度チャンスを与えてはくれまいか。どうかこのまま婚約を続けて、俺の妻になってはくれないか。愛しているんだ、ジェイン」


「わたしを愛していると言うの?」


「君を愛している。君だけをずっとずっと愛しているんだ。初めて君を商会で見かけた時から。だから父に頼んでこの婚約を結んで貰ったんだ」


 初めて聞く話だ。ホールデンがわたしを愛している?それを信じていいの?


「君を傷つけて、後から言い訳をするような男は嫌だと拒絶されても仕方ない。顔も見たくないと言われたら俺は諦めるしかない。ジェインが嫌がる事はしたくはないんだ」


 ホールデンは、覚悟はしていると言った。そしてしょげた大型犬のように力なく肩を落とした。

 そんな婚約者を見たジェインはちょっとだけ腹がたった。何故だかわからないけれど。


「ホールデン様、嘘をついて騙しておきながら、随分と諦めが早いのね。わたしへの思いはその程度って事なのかしら」


「まさか!君を諦めたくないから、縋っているんだ。この5年間の思いをこんな事で失ったとしたら、俺は殿下を一生許さないつもりだ」


 ここまで必死になるホールデンを初めて見て、なんだかもうどうでも良いというか、いや、どうでも良くはないからここはひとつビシッと決めなければ。


「ひとつ確認させて欲しいの。

 貴方はお飾りの夫になる覚悟はあって?わたしは、いえモリア家としては我が商会を貴方に任せるつもりはないわ。伯爵家はわたしが継ぎます。だから貴方は伯爵にはなれないわ」


「俺は君を妻にしたいだけで、伯爵になる為に結婚したいわけじゃない」


「よろしくてよ。安心して、貴方と結婚はします。これから新たに婚約者を探すのは大変ですもの。

 だから貴方は、一生を懸けてわたしの信用を得られるように、わたしをとことん愛し抜かなければならないわ。

 わたしが貴方を信じて貴方を愛していると告げる時までお飾りの夫として過ごす、その覚悟はあって?」


 随分と酷い事を言っている自覚はある。

 彼は仕事だったのだと理解もしている。愛していると、欲しかった言葉も受け取った。

 だけど、なんと言えばいいのだろうか、最初から愛していると言うのならもっと早くにその言葉をくれても良かったのではないかと思うのである。

 つまりジェインは拗ねていて、意固地になっているだけなのだ。


 ホールデンはぱあっと顔を輝かせた。


「ありがとう、ジェイン。俺はお飾りの夫にならぬよう一生君に愛を捧げよう。心もこの身も全て君の物だ。だからどうか君の側にいる事を許して欲しい」


「…その言葉に嘘はなくて信じていいのね?」


「勿論、愛している、ジェイン」


 不覚にも泣きそうになったジェインは、そっと包み込まれる様に優しく抱き締められた。

 ホールデンの匂いがする、と思った。



 ホールデン・アドラーは結婚詐欺師の女を捕まえた功績で男爵位を得た。その爵位を持ってモリア家に婿入りした。モリア伯爵の正式な後継者はひとり娘のジェインである。

 そして2人はよく話し合って、ホールデンは騎士を続ける事になった。第四王子が彼を手放さなかったというのも理由の一つだ。


 彼らの結婚式に主賓として出席したエドワード第四王子は、気の利いたお祝いとして、王家秘蔵の品々とともに、ホールデンの爵位を男爵から子爵へと引き上げた。貰った方が真っ青になったが、王子はこれで埋め合わせになったかな?と微笑んだ。


 ジェインはホールデンの仕事については干渉しないと決めていたので知らなかったが、いわゆる特務機関を率いる第四王子にとって、同級生でもあり気心がしれて信頼できるホールデンは、絶対に失いたくない仕事仲間だった。

 その後、公爵となった第四王子とモリア家は末長いお付き合いになる。


 ジェインは元々素質があったのだろう、父の手解きで類稀な経営手腕を発揮し、モリア商会はジェインの代で更に大きく成長した。


 凄腕の商会長として名を馳せたジェイン・モリア女伯爵には、背の高い夫が常に寄り添っていた。事情を知らない他国の人間が、女だと舐めてかかったら、夫から目付きだけで殺されそうな視線をよこされて肝を冷やすなどという事もあった。

 夫のホールデン・モリア子爵は元第四王子直轄の特務騎士団に所属し、国内の難事件に関わる仕事をこなした。

 商会の仕事には直接は関わらなかったが、いざと言う時に妻を守り補佐出来るようにと、商会に関する勉強を続けており、妻のジェインに教えを乞う事もあったという。


 お飾りの夫から早々に脱却したホールデンとジェインは、息子2人と娘2人に恵まれた。

「お飾りの夫だから白い結婚よ」などといきがっていたのもほんの僅かの間の事。新婚期間中に愛を囁き続けられたジェインは、すぐに夫に陥落した。


 そんなわけで、子宝にも恵まれ仕事も順調、ジェインは最高に幸せである。

「ねぇ、旦那様、愛しているわ」

「なんだい?我が愛しの妻よ」

 子ども達が成人になっても口から砂糖を吐きそうなほど甘々な2人だった。



 




お読みいただきありがとうございます。

すれ違いとか誤解からの溺愛、大好物なのでこんな話になりました。

元第四王子とは子ども同士が結婚して親戚になっちゃう裏設定。エディはホールデンが大好きなのに、結婚詐欺の女を籠絡せよ(ただし体は清い関係で)と指示する腹黒。誤解され可哀想なホールデン。絵心があるので、趣味で描いた絵がモリア商会で売り出されちゃったりします。

などと考えてたら、作者にとっては楽しい作品になりました。

皆様にもお楽しみいただければ幸いです。




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― 新着の感想 ―
[良い点] これ子供の代の話が面白そうですね!! 有能で家族を大事にしてるのになんか得体のしれない父親から決められた婚約者は父の部下の娘…息子のほうが面白いかな、的確な愛情表現がうざいくらいなのに学園…
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