空から落ちてきた少年
親友の夢子との通話を切って、春の陽気が沈んだ夜風を浴びる。
夜空を見上げていたら、天がピカリと光って目の前に少年が落ちてきた。
正確に言うとカプセルに入った少年だ。地上スレスレで急制動がかかったはずなのにぺしゃんこになることもなく、涼しげな顔でカプセルから出てきた。
私を見ると、
「やあ、地球の人だね。こんばんは。言葉変じゃないかい?」と言う。
ビックリして声も出ないけど、正確な日本語を話すことに気づいた。
「だ、だいじょうぶ」
何が大丈夫なのか分からなかったが取りあえず答える。
「よし、翻訳機は問題なしっと」彼はニコッと微笑んだ。
私は学校では覚えたことのない胸の高まりを感じた。宇宙人? にしてはイケてるじゃない。
「どこから来たの? 何しに来たの?」好奇心が勝った。
「遠い星から。そして、地球を研究するため。君たちの言葉で言うとリュウガクセイ?」
「ああ、留学生ね。泊まるところあるの?」
「これから見つけるさ」
ウチに来る? と、言いかけ、父と母がうんというか微妙だと思った。宇宙人とはいえ若い男女が同じ屋根の下にいるなんて。ちなみに両親はまだ帰ってきてない。父は残業、看護師の母は夜勤。
「ウチに泊めてあげたいけど難しいかな」
「いいよ。お金は準備してあるし、当座は駅前のホテルに泊まるよ。それも勉強」
「じゃあ、駅前まで送る。道分からないでしょ」
「そんなことないよ。携帯端末も持ってるし。Googleマップ対応の」
「あ、スマホ用意してきたんだ。凄いね」
「正確にはスマホの外見と機能を併せ持つ、特殊端末なんだ」
なんか光線とかでるんだろうか? と、私は思った。
「ふーん、でも送っていくね。私、散歩したかったんだ」本当は彼と長く居たかっただけ。あれ? なに、この感情。
部屋着にジャケット羽織って出かける。夜風はちょっと冷える。
「地球のよりによってなんで日本に来たの?」
「アニメみて興味持った」
言ってることが外人のオタクである。
「あと、異世界人に寛容そうな文化だと思ったから」
「そうかな。イギリスの方が変人に寛容そうだけど」
「君はさっそく受け入れてくれたよね」
彼がいい男だからだよ。あ、本当の姿はどうなんだろう。
「もしかして、変身してる?」実は、本体はグチャグチャだったりして。
「あ、この身体は君たちの言うアンドロイドだよ。身体は正確にコピーしているはず」
「ロボットなの?」
「生体アンドロイド。人間の身体をベースに強化してある。そして、得た情報を母星に送信している」
「ふーん」
「世界各地に僕のような個体が入り込んでいるけど、侵略じゃないからね。念のため」
「うん。たぶん、君たちにとってはゴリラをフィールドワークで観察するのに近いと思う」
大学の研究者がやっていることと似てるね。
「あの」彼は改まって言った。
「このことは僕たち二人だけの秘密にして欲しいんだけどいいかな?」
「うん、もちろん」
「ホントは着陸見られたくなかったけど、田舎を着陸地点に選ぶと都市に行くまで大変だからさ」
「うん、それはわかる、あ、そのスマホみたいなので連絡とれる?」
「大丈夫、表機能と裏機能があるから、表機能で普通に使えるよ」
ビジネスホテルの前で立ち止まって、IDを交換する。
「じゃあ、よろしくね」
「よろ……」彼は私の頬にキスをした。顔が赤くなった。
「これ、挨拶と聞いたけど、その反応だと違うようだね」彼はすまなそうに言った。
「たぶん、外国の習慣。日本だと恋人同士がするかな」私はぎこちなく答えた。
「ごめん」
「ううん。いい。明日からどうするの?」
「大学に入学する。そこを拠点にフィールドワーク」
「ふうん」私も勉強頑張って進学しないと。
街灯が一組のカップルを照らしている中、春の風が吹いた。




