第3話 ◯◯と◯◯
3話は三人称の練習。
「ふむ、そこにいるのは帰蝶か、久しいの」
「まっことお久しゅうございますね、息災でありましたか殿」
「息災なものか、あの禿頭め儂を裏切りよって、天下を目前とし油断したわ」
何処ともしれない暗闇の中、二人の男女が会話している。男性の方は織田信長、女性の方は帰蝶である。
そんな二人と離れた場所には女の子が二人手をつないで立っている、秋子と千秋の二人である、眠っているのか目を閉じ微動だにしない。
「殿は今の状況をどう認識しておられますか?」
「ふむ我は死したことは分かっておるが、ここがどこかは皆目わからぬ、お主がここにおる事もわからぬ、そこなおなごの事もわからぬ、つまりは何もわからぬわ」
ふははははと何が楽しいのか豪快に笑った後真剣な顔をし「で、ここはどこで何が起きておる?」と帰蝶に問いかける。
一方帰蝶は「まっ事殿は殿のままですね」と笑いながら語りだす。ここが秋子と千秋の心の中であり、夢を仲介して帰蝶が場を整えたのだと。
信長も帰蝶はとうの昔に死んでいる事、秋子が信長の現世であり千秋が帰蝶の現世である事や、帰蝶自身が千秋と過ごした1年の事などを語って聞かせた。
「ふ…む、であるか、儂は既に儂の人生を全うした、その残り香のような儂が儂の現世とは言え、おなごに干渉しようなど思わぬわ、このまま消える事に是非も無し」
「ふふ、やはり殿はお優しい、おなごを犠牲にしてまで現世に留まる気がないのは分かっておりました」
「たわけが儂は儂じゃ、今更おなごになってやりたいことなど無いわ、だが……我が現世に一言だけ言っておきたいことはあるがな」
「それはどのような事で?少しの間語り合うくらいならば、我が現世殿も許してくれると思いますが」
帰蝶はそう言うと秋子と千秋に近寄り二人の頬に手を当てると「二人共少しようございますか?別れの挨拶をしとうございます」と呼びかけている、しばらく呼びかけを続けていると二人は目を開け周囲を見回した。
「ここどこ?」「帰蝶さんがいるー」と二人共まだ眠そうな反応である。
「千秋殿、殿との話はつきました、殿が別れを前に自らの現世である秋子殿と少し話したいとのことです、よかろうか?」
「えっ秋ちゃんと話したいって、大丈夫なのかな」
「私の前世さん?私も少し話してみたいしいいんじゃないかな?」
二人の了解が得られた所で帰蝶は、信長に手招きをし来るように促している。信長はゆっくりと歩き秋子の正面で腕を組み立ち止まった。秋子は秋子で負けないぞ感を出すように両手を腰に当て少しふんぞり返るように信長を見上げている。
「お主が我が現世か……なんとも、本当におなごか?」
「ど、どこ見て言ってるの、正真正銘の女の子です!」
「それに比べ帰蝶の現世は出会った頃のあやつにそっくりではないか」
「そうなんだ、ならちーちゃんは将来美人さんになるね」
「そうなるであろうな、それに比べお主は……まあ良い我はお主の中から消えることにした、だが1つだけ心残りがあるお、お主にはそれを叶えてもらいたくてな」
「なんか色々失礼なことを言われている気がするけど、それで何を叶えてほしいの?私に出来ることならいいけど」
「そう我の心残り、それはの天下統一「いや無理だから」じゃ……たわけが最後まで聞け、天下統一と言うよりは、天下一を目指してほしいのじゃ、我は天下統一の半ばで倒れた、そんな我に変わり現世のお主には何でも良いから天下を取ってもらいたいのじゃ」
「そうなんだ……うん、分かった、私は走るのが好き、だからね走りで日本一を世界一を天下一を目指すよ」
「そうか、なら我が叶えられなかった天下統一の夢お主に託すとしよう」
そう言うと信長は、千秋との別れを済まし離れて待っていた帰蝶のもとへ歩いていく。
「殿、よろしいのですか?」
「うむ、我が夢はあの者に託した、もう思い残すことは無いわ、お主も別れは済んだか?」
「それはようございましたね、妾の方も別れは済ませました」
「そうか、では行くとしようか」
「はい、どこまでもお供させて頂きます」
信長と帰蝶は暗闇の先にある光へ向かって歩いて行く、そして光に溶けるように消えていった、それと同時に秋子と千秋も闇に溶けるように消えた。
そして現世の千秋の部屋で目を開ける二人。
「ちーちゃんは帰蝶さんとなんのお話してたの?」
「出会ってからの一年間の思い出話とかかな」
「寂しくない?」
「寂しくないって言ったら嘘になるけど、私には秋ちゃんがいるから大丈夫だよ」
「ち、ちーちゃん……」
頬を赤く染め自然と交わされる触れるか触れないかの軽いキス。手を繋ぎ眠りに落ちる二人を月が照らす。その月明かりの中2頭の蝶が月へ向かいどこまでも戯れながら飛んでいくのであった。
カクヨムに投稿済み、なろう初投稿初作品、長編書くための練習がてら書いてみました。
目標設定が1万文字以内に納めるという事でかなり四苦八苦しました。
最初は信長やらお農さんやら出すつもりはなかったのですが、気づいたらこうなってた。
あと1話と2話の文字数バランスが悪いなと、このあたり今後の課題。
2話がお風呂シーンだけで終わったのは想定外な上に長過ぎて、3話がホント短く納めるのに苦労しました。
これ書いたお陰で途中まで書いてた長編一度リセットして書き直し中。
やっぱり一度何かを完結させるのは大事だなと思った次第です。
しばらくは練習的な短編をボチボチ書いて、その合間に長編を書き溜めようと思います。
長くなりましたがここを見られた皆々様、今後とも宜しくお願いします。