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第2話 千秋

2話は千秋視点。

 おっふろーおっふろーと口ずさみ、秋ちゃんは専用の衣装ケースから下着と寝巻きを用意してる、普段からよくお泊りするので、お互いの家に着替えやパジャマの予備を置かせてもらっている。


 今日は私の家でお泊り予定だったので、わざわざご飯とお風呂のために家に帰る必要がなくなったからか秋ちゃんは上機嫌だ。私も着替えの準備をしながら、先程のやり取りはちゃんと取り繕えたのかなと自問した。


《ふむ、この娘っ子は存外鈍そうだしの大丈夫であろう》


 私の自問に答えたこの声は帰蝶きちょうと名乗っている。いわゆる私の前世の人格らしい。そうなのだ秋ちゃんが前世の記憶を思い出したように、私も実は前世の記憶を思い出していたのだ、それも1年ほど前に。


 最初は頭がおかしくなったのかと悩んだ、親にも秋ちゃんにも打ち明けられないでいた。そんな日々を送っていた私に語りかけてきたのが帰蝶さんである。


《しばらく観察しておったが、お主は難儀な性格をしておるの、必要のない記憶ならさっさと捨て去ればよいものを、それができる事もお主はわかっておろう》


 最初は幻聴かと思ったけど、ちゃんと受け答え出来ているし、私の知らないような事にも答えてくれる。それに前世の記憶と言っても帰蝶さん自身も印象深い事以外は抜け落ちていると言っていたし、所詮その程度のものとも言っていた。


 しばらく対話を続けることで、この人が私の前世なんだと自覚した途端、ずっと燻っていたもやもやが晴れていくのがわかった。


 帰蝶さんの人格を消す消さない、表に出ないようにするしない、何度も何度も話し合った結果、今の形に落ち着いた次第である。


《妾は1度死んだ身ゆえ、今を生きるお主に影響を与えるのは本意でないのじゃがな、お主が望む限りはお主と共に歩ませてもらおうかの》


 そんなこんなで、帰蝶さんとの生活は1年続いている。大変だったのは帰蝶さんとの出会いで変わってしまった私自身の性格を、いかに周りにバレずに取り繕えるかだったけど。ただの小学6年生だった私の中に、人生を全うした人の人格が入れば変わってしまうものだと思う。


「ちーちゃん何してるの?お風呂いくよー」

「まってよあーちゃん、すぐ準備するから」


 勝手知ったる他人の家のように先にお風呂場に行く秋ちゃん、私もいそいそと着替えを準備し脱衣所へ向かう。向かっている途中でママに手招きされたので近寄ると耳打ちされた。


「千秋ちゃん焦ってはダメよ、少しずつ少しずつ慎重にね」

「も、もう何を言ってるのよママ、あーちゃんとはまだ何もないからね!」


 ちょっと怒ったようにそう言って私は急いで脱衣所に向かう。


「あらあら、懐かしいわー、私も綾子ちゃんと───」


 ママの独り言を聞き流しながら脱衣所に駆け込むと目の前に肌色が飛び込んできた。秋ちゃんの裸を見た事と、部屋での行為がママにバレてた事の恥ずかしさで体温が一気に上昇するのがわかった。


《母上殿は少し扉を開けてそなたらの行為を覗いておったわ》


 気づいてたなら言ってほしかったし、止めてほしかった。


《妾が気づいたときには手遅れじゃったしの》


「ちーちゃん遅いよー、ほらほら早く脱いでお風呂入ろう」

「ま、まってあーちゃん、自分で脱ぐからね、や、あ、だめ、くすぐったいよ」


 私の衣服を無理やり剥ぎ取った秋ちゃんは満足したのか早々とお風呂場に入っていった。中からはシャワーの音が聞こえる、はぁと1つため息をついてから散らかった衣服をまとめて洗濯かごに入れておく。


 脱衣所に備え付けているリングゴムで髪を上にまとめてから風呂場へ行くと、秋ちゃんが湯船に浸かってはぅー気持ち良さそうにしている。


 とりあえず軽くシャワーを浴び、秋ちゃんの横へ並ぶように湯船に浸かる、お湯の温度はぬるめになっている、私と秋ちゃんが一緒に入ると長風呂になるのでママがそうしてくれている、二人で入るお風呂は少し狭いけど嬉しい、入浴剤でお湯が乳白色なので肌は見えない。


「よいしょっと、ちーちゃん先に体洗うね」


 湯船から立ち上がった秋ちゃんの小ぶりなおしりが見えた。


「はーい、そうだ背中洗う?」

「えー、いいよだってちーちゃん最近背中洗うと見せかけて胸揉んでくるんだもん」

「あれはねあーちゃん、揉んでるんじゃないよ、マッサージだよマッサージ、マッサージすると大きくなるってママから聞いたからだよ」


 秋ちゃんが自分の胸に手を当て小声で「マッサージあれはマッサージ、マッサージなら……でも」と呟いてるのが聞こえた。そんな秋ちゃんを見てかわいいなーと思った。


 やっぱり今日はいいと断りを入れ髪を洗い始める秋ちゃんに私は尋ねることにした、帰蝶さんと共に気になっていた秋ちゃんの前世の事を。


 本当はあのまま全部忘れてくれたらいいんだけど、下手に聞いて前世の人格が出てきたら嫌だけど、帰蝶さんが言うには相手が誰かがわからないまま放おって置くのも駄目らしい、もしもの時は帰蝶さんが何とかしてくれるとも言ってくれた。


「ねえあーちゃん、さっきのは前世の話なんだけどね、そのあーちゃんの前世ってなんて人なの?」


 髪を洗い終わり、体を泡だらけにしながら秋ちゃんは考えるような仕草をしながら答えてくれた。


「あーその結構有名な人だよ、中学校の教科書にも載ってたし、えっとなんだったかな?なんかすごく長い名前で確か、たいらのあそんおだかずさのすけさぶろうのぶなが、だったかなすっごく長い名前だよね?」


 私は何を言ってるんだこの子はという顔をしていたと思う。


《ふむ、それは殿の姓名で間違いないようじゃの、お主にわかりやすく言うと織田信長のことじゃな、つまりこの娘っ子は妾の夫と言うことになるの、これはまた愉快なことじゃ───》


 帰蝶さんがまだなにか言っているけどよく聞こえない、お湯に浸かっているのに一気に体温が下がった気がした。


 織田信長、歴史に詳しくない私でも知っている、それに前世の帰蝶さんの記憶にも度々出てくる人だ。そんな人の人格が出てきたら秋ちゃんはどうなってしまうのだろう、すごく不安になってしまってとっさに湯船から上がると、秋ちゃんに背後から抱きついていた。


「わっ、ちーちゃん急にどうしたの?まだ私泡だらけだよ」

「うん……」


 しばらく無言でいると、秋ちゃんがちょっと困ったように「先に泡流すね、それとちーちゃんの背中洗ってあげるからお椅子に座ってね」とこちらを振り返りながら言ってきた。


 再度「うん」としか言えなくて流されるように秋ちゃんと入れ替わり風呂椅子に座った。


《少しは落ち着いたかえ?妾の声が聞こえなくなるほど思い詰めよって、殿の事は妾に任せればよい、それにの殿はぞんがい身内や女子供には優しいたちでの、この娘っ子に成り代わってどうこうはせぬじゃろうて》


 帰蝶さんに心のなかでお願いしますと言って顔をあげると鏡に映った私の顔はなんとも言えない酷いものだった。


「よし、じゃあまず頭から洗うからね」

「頭はいいよ、髪長いし大変だし……」

「いつもちーちゃん自分で洗っちゃうから一度やってみたかったんだよね、ほら前向いて目をつぶってシャワーかけるよ」


 言われてみれば、秋ちゃんに髪を洗ってもらったことは無かった気がする。リングゴムが外され、丁寧に備え付けのブラシで予洗いしてくれるのが、頭から伝ってくるお湯の心地よさと合わさって妙に気持ちよく感じる、その気持ちよさに浸っていると「よしっとそれじゃあ少し髪を絞るよ」と秋ちゃんの声が聞こえた、その楽しそうな声を聞くとなんだか嬉しくなってきた。


「ちーちゃん、こんなものでいいかな?いつもちーちゃんがやってるようにしてみたんだけど」

「うん、ありがとうそれで大丈夫だよ」

「よし、それじゃあ次はシャンプーだね」

「えっとシャンプーの前にね、毛先にこのトリートメント付けてもらってもいいかな?」

「ほうほう、やっぱり髪が長いとやることが増えちゃうんだね、私なんか」


 秋ちゃんは毛先にトリートメントを軽く付け、その後シャンプーで髪を泡立て始めた。髪をかきあげ頭皮をマッサージするように丁寧に洗ってくれる、普段自分でやっていることを秋ちゃんにやってもらうのはこんなに心地良いものだったのかと思った。


 しばらく髪を洗ってもらう心地よさに浸っていると「お客さまー痒いところはありませんか?」と気取った感じの秋ちゃんに「ふふふ、なにそれ」と笑いながら答えていた。


「ちーちゃんやっと笑ってくれたね、笑ってるちーちゃんがやっぱり一番いいよ」


 少し目を開け鏡を見てみると、鏡越しに笑顔の秋ちゃんが見えた。その後は泡立ったシャンプーを流し、トリートメントを付けてもらい、髪が湯船につかないように頭にタオルを巻いて二人して一度湯船に浸かることにした。


 しばらく無言の時間が続いたけど、タイミングを見計らって「トリートメント流して体洗っちゃうね」と言いながら湯船から出て頭のタオルを外し風呂椅子に座った。


 横目で見た秋ちゃんは目を閉じなにか考えてるようだ。まずはシャワーで髪に残っているトリートメンを軽く流し、髪の水気を絞り頭に再びタオルを巻く、次にボディーソプを泡立てた全身を洗い、泡を流して再び湯船に浸かる。


 湯船に浸かっても秋ちゃんは考え事をしたままで、その何とも言えない沈黙が嫌でそろそろ上がろうかなと考えていると、秋ちゃんが私の手を握りしめてきた。


「あのねちーちゃん、私じゃ役に立たないかもしれないけどね、聞くことだけならできるからなんでも言ってほしいな、ちーちゃんには笑顔で居てほしいからね。それにね一年くらい前から少しちーちゃんの様子が変わってたのは分かってたんだよ。これでも私ちーちゃんの幼なじみで親友だと思ってるからね、今まで何も聞かないようにしてたけど、今日の前世のお話してからそれ関係なのかなって思ったの」


 秋ちゃんの言葉を聞いて目が潤んできた。こんなにも秋ちゃんは私のことを分かってくれてたんだという嬉しさに涙腺が緩んでしまったみたい。


 それから私はぽつりぽつりと1年前に起きた、前世の記憶の事や帰蝶さんの事を話していた、秋ちゃんは所々で相槌を打ちながら最後まで聞いてくれた。すべて語り終わり吐き出すものを全て吐き出し、溜まっていた何もかもが洗い流されたような気分になっていると、秋ちゃんが膝立ちになり私の頭を抱き締めてきた。


「ちーちゃん頑張ったんだね、話してくれてありがとうね、もし私の中の記憶の信長さんが出てきても私は引く気はないからね、頑張って追い出しちゃうよ、ちーちゃんの話だとそれが出来るって事だしね」


 秋ちゃんは私を励ますようにそんな事を言ってくれたけど、その時秋ちゃんの胸に抱かれながら、私が思っていた事は秋ちゃんのお胸事情が残念すぎる事だったのは秘密にしておくことにした。


 ピロリンピロリンと呼び出し音が聞こえる、ご飯の準備が出来たので上がるようにとの催促だろう。私を抱きしめていた秋ちゃんが離れるのに寂しさを感じた。


 秋ちゃんは温まり直すように一度湯船に肩まで浸かると「ちーちゃんお腹すいたし上がろっか」との言葉に「うんそうだね」と返しながら私は秋ちゃんに抱きつき耳元で「ありがとうね、秋ちゃん大好きだよ」と呟くように言って離れた。


 ちょっとびっくりしたような顔の秋ちゃんが見える。私の心臓がドキドキしているのがわかる、そして私は秋ちゃんの唇に触れるか触れないかのキスをしていた。


 気恥ずかしさと、やってしまったという思いと、嫌われたらどうしようとか、女の子同士なのになどが頭に浮かび思考がぐちゃぐちゃになって、とっさに逃げるように湯船から上がり脱衣場に向かおうとした。


 その時、秋ちゃんに腕を掴まれ立ち止まる事になった私に向かって秋ちゃんは「わ、わたしも……ちーちゃんのことだいすきだよ」と顔を真赤にしながら言ってくれた。


 私はなぜか「うん…」としか言えず、湯船から上がってきた秋ちゃんに抱きつき泣いていた。

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