第1話 秋子
初めてまともに書いた作品です、生暖かく見守っていただければ幸いです。
1話は秋子視点。
「あっ!おもいだした!?」
金曜日の放課後ちーちゃんのお家で宿題を片付け他愛も無い事をお話している時だった。何を思い出したかって?そりゃあ唐突に思い出すものと言ったら前世の記憶でしょ?え?そんな事無い?まあ前世の記憶なんてそう思い出すものでもないと思うので適当いいました。
「あーちゃん、急に大声出されるとびっくりだよ」
この子はちーちゃん、千秋であだ名がちーちゃん、腰の辺りまで伸ばしたさらさらの綺麗な髪の毛の女の子、今日は夏らしく黄色いブラウスを着ていて、白いスカパンを履いている、うんかわいい。
私の方は、薄茶色なくせ毛の気味のセミロング、ちーちゃんのさらさらヘアーが羨ましい。ちーちゃんと違ってあまりおしゃれさんではない私は、水色の半袖シャツにショートパンツスタイルだ。お胸の方は私のほうが……これ以上は考えるのは辞めておこう、うんまだ中学生だからねこれからだよこれから。
ちなみに、私はあーちゃんこと秋子、秋に生まれたから秋子となんとも安直なと思ったけど、同級生のキラキラな名前を見てると、私の名前なんてまだまだ良いと痛感した、むしろ両親に感謝したくらいだよ。
そう例えば小学校1年の同じクラスに居たんだけど、愛妥武くんと依歩ちゃん、阿部留くんと加院くんとか、なんかよくわからないけど、突っ込んではだめな気がした。4人共いつの間にか転校していったけど元気にしてるのかな?
ちーちゃんとの付き合いは、ホント生まれた時かららしい、同じ病院で1日違いで生まれてそれからの付き合い。
それに小学校に入る少し前の引っ越しでお家がお隣さんになるとか、これはもう運命だよと当時は思ってた。後で教えてもらった事だけど、うちのママとちーちゃんのママが子供の頃からの親友同士で、家を買う時はお隣になるようにしようと考えてたみたい。そんな理由で中学1年生となった今でも誰よりも仲のいい親友だと思ってる。
ちなみに、ちーちゃんも秋生まれ、名付けの真相は聞いてない、誕生日はちーちゃんのほうが11月11日で、私が11月12日なので1日しか違わない。小学校の低学年くらいまでは、1日違いなのによく、わたしのほうがお姉さんよとマウントを取られていたのは今でも覚えている、その話をするとちーちゃんは恥ずかしそうにする。
「ごめんねちーちゃん、私も急だったからびっくりしたんだよ」
「んーいいけど、それで何を思い出したの?」
さてここはどう答えたものか、正直に言うのはなんかその、頭のおかしい子って思われそうだし。
「あーちゃんがおかしいのはいつものことだよ」
心の声が漏れていたようだけど、そう言われるとちょっと切ない。
「そんな事無いもん、私普通だもん、普通……だよね?」
かわいく首を傾げながら、え?何この子自分のこと普通だと思ってたの?って顔するのやめて、さすがの私も傷つくから。
「はははー、冗談だよー、あーちゃんはおかしくないよー」
涙目の私を慰めるように、よしよしと頭をなでてくる。
こほんとわざとらしく咳払いをし気を取り直し、腰に手を当て正直に答えることにした。
「ちーちゃん、私は私の前世を思い出したんだよ!」
「あーちゃんの前世?それってミジンコさんとか、ダイオウグソクムシさんとか、そんな感じ?」
「ちーちゃん……実は私のこと嫌い?私本気で泣いちゃうよ?何処からそのチョイスが出てくるのかわからないよ」
「え?ミジンコさんもグソクムシさんもかわいいよ?」
そう言いながらベッドの上にあるぬいぐるみの中から、グソクムシのぬいぐるみを抱きかかえる。そうだった、ちーちゃんはそのちょっとなんというか、いわゆるキモカワ系が好きなんだった。でも好きだからって私の前世がそれってひどくない?あ、でもミジンコさんは少し可愛いかも、話がずれた。
「そうじゃない、そうじゃないよちーちゃん!私の前世は、前世は……んー魔王?」
「あーちゃんお熱でもあるの?宿題のし過ぎで知恵熱でも出たの?魔王だったとかいきなりファンタジーだね、あーちゃんはいつの間に異世界転生者になったの?」
「宿題やったくらいで知恵熱なんて出ないよ!なんかね、なんとか魔王って言われて喜んでたみたい、あとね子分に猿とか犬がいたみたいだよ」
「犬さんと猿さんがいるなら鳥さんが居たら桃太郎さんだね」
「それにね異世界じゃないと思うよ、神社燃やしたり寺燃やしたりしてたら魔王って呼ばれるようになったみたいだし、桃太郎さんでもないかな?鬼退治にはいってないと思うし、でも鳥さんは居なかったけど蝶々さんみたいな名前の人は出てきたよ」
鬼退治には行ってないはず、鬼みたいで怖そうな人は一杯部下に居たみたいだけど、他にも色々浮かんでくるけどなんかすごく危ない人な気がしてきた。
とりあえず適当に面白そうな話をして有耶無耶にして置くことにした。相撲大会を開いたとか、能を偉そうな人たちの前で自ら舞ったとか、そんな感じのお話を。浮かんでくる記憶はすごく断片的で、映画の名場面を集めたようなそんな物になっていた。
「えっとそれであーちゃんはどうしたいの?その記憶を持って世界征服でも目指す?魔王さんならすっごい魔法が使えたりできたりしないのかなー」
「この思い出した前世の記憶でなにかしたいとかないかな、魔法とかは使えなさそうだし」
少し前世の記憶の詳細を知ろうと、上の空だったんだと思う。気づくとちーちゃんに抱きしめられてた、顔は見えないけど泣きそうな顔をしてる気がした。気づかないうちに何度も呼びかけられていたみたいで、少しバツが悪い。
「その記憶であーちゃんがあーちゃんでなくなるのは私いやだな、あーちゃんは私の知ってるあーちゃんのままがいい」
ちーちゃんの声は震えていた、私は大丈夫だよーと言いながら背中をポンポンなでなでしながら考えた。
思い出したと言っても、記憶であって人格的なものは付随してないので大丈夫だと思うけど、あんまり深く知ろうとしないほうがいいのかなとも思う。もし歴史学者なんかが聞いたら、色々はかどるんだろなーとは思うけど。
「うん、そうだね、こんな訳の分からない記憶なんて丸めてポイッしちゃお、考えなければ無いものと一緒だよ、だからねちーちゃん落ち着いて」
私の言葉を聞いて落ち着いたのか少し離れてお互い向かい合う、さっきまで感じられたちーちゃんの体温が名残惜しい。離れたはずなのに妙にちーちゃんの顔との距離が近い気がしてなんだか照れてしまって頬が熱い気がする。
「私はあーちゃんが大好き、だから勝手に何処かに行ったりしないでね?」
生まれてからの親友として私もちーちゃんが好きだよと答えるとちょっと悲しそうな顔をした後に笑顔を見せてくれた。ちーちゃんは笑ってる方がやっぱりかわいいよ、そう言ったらなぜかため息をつかれた、なんで?
少し気まずく思っていると、なんかちーちゃんの顔が近、近、近いよー。恥ずかしさのあまり自然と目が閉じていた、すごく近くにちーちゃんの息遣いを感じる、目を閉じたせいで心臓が凄くドキドキしているのがわかる。
コンコン
部屋の扉がノックされた音に驚いて「んへあぅえ」なんて変な声が出ていた。とっさにちーちゃんと離れ扉の方を見るとそこにはちーちゃんのママさんがいた。
まだちょっとほっぺが熱い、それを冷ますようにふるふると首を振ってみる、少しは冷めたかな?
ちーちゃんのママである千冬さんが私とちーちゃんを見てニヤリという感じの笑みを浮かべている。
「秋ちゃん晩ごはん食べていくでしょ、ついでにお風呂も入っていきなさい、綾子さん夜勤で今日は帰って来ないって言ってたわよ」
「あっ忘れてた!今日ママ夜勤で帰ってこないんでしたパパも遅いって言ってたし、千冬さん晩ご飯とお風呂お呼ばれしてもいいですか?」
「お互い様だし言いっこなしよ、宿題も終わってるようだしすぐに準備しちゃうね、お風呂湧いてるから先に済ませちゃいなさい」
ちーちゃんと同時にはーいと返事をして、お互いそのシンクロ具合に私たちは自然と目を合わせ笑い声をあげていた、やっぱりちーちゃんは笑っている方がかわいいと思った。