正月の悪夢
ぼくが目を醒ますと、そこにはいつもの天井があって、僕はそっと胸を撫で下ろす。
口の中が妙に乾く
先程、夢の中で心臓を刺されたあたりが
じんじんと脈打つ…
痛い。
今日もループする夢を見た。
いや、もしかすると前世の記憶だったりするのかもしれない…。
夢の内容はこうだ
・毎回、ランダムで誰かが死ぬ。その過程を違うシチェーションで何度も何度も繰り返す。
・背丈2メートルほどの怪物と5.6人の人間が殺し合う。
・人間は同じなのだが、人格が毎度変わる。
男気があったり、乙女だったり、敵だったり、味方だったり…
自分も周りの様子からして立場が変わったりする。
冷酷、お茶目、ナルシスト、人気者、嫌われ者…
・場所は倉庫。迷路の様に入り組んでおり、怖いほどに広い。走り続け、怪物からの攻撃を避けないとやがて殺される。
・怪物以外にも、人間を殺す奴がいるので、身を守ることに努めなければならない。
・怪物は一度では…死なない。
何度も何度も負荷を与えないと自分がやられる
・殺す道具はその都度変わる。アイスピックだったり、家庭にあるような包丁。木を尖らせたものや、よくわからない形状をしたものまで何でもありだ。
しかしそれらは一貫して殺傷能力が高い。
・そして技術、判断力、瞬発力が高くないとあっという間に殺される。
大まかに言うとリアル人狼みたいなものだ。
怪物を殺すまで終わらない悪夢…
たとえ自分が死んでも、また戦う場面から繰り返される。
そして嫌と言うほど残酷な裏切り、殺し、仲間割れ…
無駄な犠牲を見てきた。
やっと解放された感覚に浸っていたが…
最後の夢は何だったかと思い出す
もう思い出したくもなかったが。
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"暗闇の中
僕は、照明弾に照らされる怪物の様子を見ていた
『今回は協力型か…』よかった
いつもは仲間が協力することなど全くなく、人間側は各々動いているからだ。その為、人間側で殺し合う事になるケースがほとんど
しかし今回は協力して怪物退治に勤しんでいた
僕は、手に持った鋭い【何か】を強く握りしめ、死ぬ覚悟で怪物に飛び込んだ
が、しかし……目を疑う
今回、怪物は初めて道具を持っており
攻撃を跳ね返してきたからだ
ーーーーー先の尖った太い丸太、アレで刺されでもしたら終わりだ…
僕は、より一層血の気を増して殺しにかかる…
もう誰かが死ぬのを見たくはないと…
……確かここで場面が飛んだ
怪物の動きを封じ込めた後、僕はトドメを刺そうとした。
しかし怪物は屈強な腕を後ろに…
丸太を振り下ろした
『サクッ…』
え?
怪物の後ろにいた見覚えのある少女が、今回初めての犠牲者となった
しかし“そんなこと”よりも…
怪物が、目の前の獲物ではないものを攻撃した事の方が僕にとっては理解ができなかった
なぜ…?
“なぜ?”
こんなにも人がいる中、一番遠いあの子が狙われる?
思考により手が止まった僕を見て、怪物は口を開き、にこりと笑いあげた
『本当の終焉だ』
そう言うと他のものがトドメを刺し、怪物は倒れた
初めて言葉を発し、我々に主張した…
本当の終焉?何だそれは
僕は手に持っていた○○を、落とした
○○…?…
何故これは丸太の形状をしている…?
何かがおかしい…
皆が少女に駆け寄る中、僕だけは違和感に気がつく
なぜ、“ループ”しない?
最後に少女の顔を見ると安らかな笑顔で僕を見ていた
それは見覚えのある顔だった
そして…”
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夢が覚めた。
心臓を刺されたあたりが痛い…
そうか、あの時の痛みは
少女の痛みが僕に伝わってきたのか…
そこまで思い出すと、
僕は過呼吸寸前だった呼吸を一度止めた。
「ヒュッ」
待てよ、と。
妙な胸騒ぎがする。
何故僕は…何を持ってた…?
だんだん嫌な確信へと変わっていく
あの少女の顔は…あの少女は…
僕の一番大切な人によく似ていた。
その後ベットからすぐに飛び起き、
僕は急いで電話をかける
『繋がらない…』なんで?どうして?
大丈夫よな。な?
たかが夢だ…そうだ大丈夫。たかが悪夢…
『本当の終焉とはなんだろう…』
その後も彼女と連絡はつかず、
僕は時折、心臓が溢れるように痛くなった。