化け物になった少年と黒に染まった少女
※サラッとお読みください!
此処はどこ?孤児院やスラムの子供達が沢山集められ、檻に入れられている。私達を此処に連れてきた黒いローブを着た大人達は邪教団と言っているのを私は聞いた。邪教団は悪い神様を信仰している人達だってシスターから聞いたことがある。
毎日、少しずつ連れてこられた子供達が黒いローブの人達に連れて行かれる。私は怖くて檻の隅で震えていた。すると、私と同じくらいの男の子が私に話しかけてきた。
「大丈夫?君、出された食事も食べてないようだけど……君、名前は?」
「……エヴァ」
「エヴァか、可愛い名前だね。僕はリアム」
リアムと名乗った男の子は私達と違い、上質な服を着ている。孤児院の子やスラムの子供達とは違うのが分かる。リアムは懐から今日出された食事のパンを取り出して私に渡してくる。
私は恐る恐るリアムの顔を見ると、リアムは笑ってパンを差し出すばかりだ。私はそれを受け取りゆっくりと固いパンを食べる。
私は半分食べたあたりでリアムにパンを渡す。リアムだって今日食べてないからと。
「ありがとう、エヴァは優しいね」
「……リアムの方が優しい」
リアムをよく見ると、白い髪に真っ赤な瞳をした綺麗な子だった。もしかしたら、どこかの貴族かも知れない。
「ねえ……連れて行かれた子はどうして戻って来ないの?」
「それは分からない。でもきっと助けが来るはずだ。それまで辛抱しよう……怖いなら僕が守ってあげるから」
リアムは私の心配を払うため優しく笑い、私の頭を撫でた。それに釣られて私も笑う。
それから、私とリアムは檻の中で仲良くなり、いつも手を繋いで二人で檻の端で励まし合い、そのうち助けが来ると信じていた。
だが日に日に子供達が連れて行かれ、遂に私達の番になってしまった。黒いローブの人達に腕を掴まれ引き摺られる様に異様な場所へと連れて行かれる。リアムは私を庇う様に立ち、黒いローブの人達を睨め付ける。
私達は一人ずつ魔法陣の中へ立たされる。魔法陣の中に立たされた女の子は泣きながら震えている。黒いローブの人達は何か呪文を唱え、何か祈る様にしていた。そうすると魔法陣は怪しく光り、魔法陣の中にいた女の子は苦しみ出した。
すると女の子の身体がボコボコと音を立ててあちこち膨らみ、異形の存在になった。だが直ぐに叫び声に聞こえる咆哮をあげ、破裂した。
リアムも私も他の子供たちも震えて、動けなくなった。
「……また失敗か……神の力に耐えきれないとは……役立たずな」
また次の子供が魔法陣の中へ引き摺られといく。泣き叫びながら異形の存在になり、破裂していく光景をリアムと私はお互い震えながら見ていた。
そして次はリアムの番になった。だが、私はリアムに抱きつき、離れようとはしなかった。黒いローブの人達に噛みつき、威嚇する様にしてリアムから離れない。
「……ふむ、二人いっぺんにしてみるのも良いかも知れないな」
「しかし!!そうなれば神の力が分散されてしまいます!!」
「どうせ、今回も失敗に終わるのだ。ならば実験してみるのも一興だ」
リアムと私はお互いに抱きつき、魔法陣の中心へと来る。するとリアムが私の耳元で囁く。
「大丈夫、君は僕が守るよ……でも、お願いがあるんだ。僕には双子の弟がいるんだけど、もし弟に会ったら、ごめんと謝ってたと伝えて欲しい。喧嘩別れは辛いからね……弟の名前はルーカス」
私はリアムの言葉に頷くしかなかった。そして魔法陣が光り、私達は強くお互いを抱きしめる。何か強い力が私の中へ流れ込んでくる。バケツから水がこぼれ落ちる様に。だが直ぐにその力がリアムに流れていくのが分かった。
リアムは私の肩代わりをしている。
「ダメ!!リアム、ダメ!!リアムが壊れちゃう!!」
「約束……シタロウ?……君ハ僕がマモルッテ」
リアムの体が膨らみ黒く染まって異形の存在になっていく。私はどうする事も出来ず、リアムに流れていく力を自分に留めようと必死だった。
そして光が収まり、リアムは異形の姿のまま破裂せず、私は恐ろしい力の一端を手にしたのが分かった。
「グガアアアアア!!!!」
「リアム!!」
リアムは化け物の姿で黒いローブの人達を殺していく。黒いローブの人達を全員殺すまで、リアムは止まらなかった。
「リアム、リアム、ごめんね……私のせいだ……」
「グルルルル……」
「行こう、リアム。私の影の中へ入って……」
リアムだったものは大人しく私の影へと入り、私はリアムの願いを叶える為に歩き出した。
ーーーーーーーーーー
それから数年、私はやっと見つけた。リアムの片割れである存在を。
白い長い髪を縛り、赤い瞳をし、騎士の格好をしたリアムと瓜二つの存在。
私は影に紛れその存在に近づく。その存在は私の禍々しい気配に気づき、剣を構えた。
「隠れてないで出てこい、邪教徒が」
「ねえ、貴方がルーカス?リアムって知ってる?」
私は影からでて、黒いワンピースの姿でリアムの片割れに問う。
「リアムを知っているのか!?どこだ!!リアムは今どこへいる!?」
「……リアムがね、貴方にごめんって謝っておいてって。喧嘩別れは辛いからって……」
「……リアムは何処だ!!」
「リアムは……元気にしてるよ。だけど、貴方の前には出れないだけで……」
私は思わず俯いて声が震えてしまった。この人にリアムの姿は見せられない。見てしまったら、絶望しか残らない。リアムの片割れには辛いだろうから。
「……お前の名は?」
「……エヴァ」
「頼む……リアムに会わせてくれ……ずっと探しているんだ……」
「それが絶望だとしても会いたい?どんな姿をしていても、貴方はそれを受け入れられる?」
「どういう事だ……?だが、それでも良い……リアムに会わせてくれ……俺の片割れなんだ……」
私は唇を強く噛み、涙を流しながら謝る。
「ごめんなさい……ルーカス……リアムを守れなくて、
ごめんなさい……リアム……出てきて良いよ」
私の影から黒い手が出てきて赤い一つ目をした黒い化け物が出てくる。
「グルルルル……」
「リアム……?嘘だろう!?エヴァ!!頼む、嘘だと言ってくれ!!」
「リアムと私は邪教団に拉致されて、実験台にされたの、そしてリアムはこの姿に、私は邪神の力の一端を手にした……これが真実」
それを聞いたルーカスは泣き崩れた。私はリアムを影に戻し、リアムが昔してくれた様に優しく抱きしめ、ルーカスの頭を撫でる。
「ごめんなさい、リアムは最後までルーカスの事を考えてたよ……」
「リアム……!!リアム……!!すまない……リアム!!」
ポツポツと雨が降り注ぐ中、長い時間私達はそうしていた。
ーーーーーーーーーー
それからというもの、ルーカスは週に何回か私達が住む家へと尋ねる様になった。
「……エヴァ……リアムもそうだが……守ってやれなくてすまなかった。あと邪教徒なんて言ってしまって、すまない……」
「気にしてないよ、私達は無力な子供だった……それだけの話」
ルーカスは綺麗な顔を崩し、悲しい顔をする。リアムならなんて言うだろう。
「そんな顔をしないで、リアムはそんな事望まない筈だから。リアムは優しい人だったでしょ?それは一番ルーカスが知ってるはず」
ルーカスを椅子に座る様に言い、紅茶を出す。私達の関係はなんと言えば良いのか。リアムという存在を通して私達は交流を深めている。
「エヴァ……もし何かあったら俺を頼ってくれ。リアムがエヴァを守った様に、俺にも君を守らせてくれ」
私はその言葉にリアムの姿を重ねてしまう。私は優しく微笑み、なんの返答も返さない。
もう二度、大切な人を失わない為に。