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第3話


「ここが先輩の部屋ですかー。意外と普通ですね」


もっと何かあると思っうな顔をする。


……うわぁ、昨日たまたま部屋中ヲタクグッズを棚に片付けててまじで良かった。ちょっと見られるまずいものも多少あったからな。


「あんまじろじろ見んなって。ほら、早くやろーぜ」


俺がそう言うと、倉瀬はあからさまに視線を逸らしながら、モジモジしだした。

「せ、先輩そんな、いきなり……やらしいです……」



………はい?



………はいぃぃぃいいい!?!?



何言ってるんだこいつは!?あ、そうか……俺の言い方がまずかったのか。


「ち、ちがっ……そうじゃなくて!!やるっていうのはゲームの話で!」


俺の慌てふためいた様子を見た途端、倉瀬は手を口に抑えながら、ぷるぷると震えていた。


「ぷ、あはははは!せ、先輩動揺しすぎですー。えへへ、結構可愛いんですねぇ先輩は」


………ん?


……おいおいおいおい!!まさか、まさかこいつ……最初から俺を辱めるために。


なんてやつだ。


「あはは、すみません。冗談です。というわけで、そのアインツゲイル?というものをやってみたいのですが」


切り替えはや!まじで得体が知れないな、倉瀬萌佳。



「ま、まあいいや。よーし、じゃあとりあえずやってみるか」


俺もまだ全然ストーリー進めれてないし、この機に半分は終わらせたいとこだな。


俺はテレビ台に収納してあったハード機器を取り出し電源ボタンを押した。



壮大なBGMがなり、少し鳥肌が立つ。ゲームを買う前からサンプルを何度も聞いたが、やっぱりアインツゲイルシリーズの音楽は最高だ。る。


「おー、なんか凄いですね」


日本のクリエーターの成長は今も続いている。


そして俺はセーブデータのロードボタンを押した。


これで、途中から始めることができる。


今回は1番最初の街からのスタートだ。


「おー、綺麗な街ですね」


「そうだろう!始まりの街からこのクオリティはやば


「そうともさ。このシリーズはシナリオもいいけど、特に音楽やグラフィックに力を入れてるからな」


シナリオも去ることながら、現代RPGはグラフィックや音楽が昔のそれとはレベルが違う。


よな!」


「そ、そうなんですか?」


彼女は少し困惑した表情を浮かべる。


……あ、そうだったよな。知らないんだもんな。いかんいかん、俺1人だけ熱くなってても意味が無い。今日は倉瀬さんにゲームの面白さをたっぷりと知ってもらわねば。


「よ、よし倉瀬さん。早速、やってみようか」


「え、でもやり方とかわからないですよ」


「それはやりながら教えるから。習うより慣れろってやつだ。ほれ」


俺はコントローラーを彼女に渡す。


「わ、分かりました」


ちょうど始まりの街にいるし、近くの初心者向けの雑魚モンスターしかいない草原で試しにやらせてみよう。


「よーし、じゃあここのスティックで草原まで動いてみて」


「は、はい」


彼女は恐る恐るスティックを倒す。そして画面中央に映るアバターが動くのを見た途端、彼女は目を輝かせた。


「お、おぉ、動きましたよ!」


「うん、動いたな」


まじで初心者だな。移動だけでここまで驚くやつは初めて見た。


───草原に到着し、すぐに雑魚モンスターのスライムと遭遇した。


「よし、次はこのボタンを押して攻撃だ」


「え、えっと、これですか」


攻撃ボタンを押すと、アバターが装備していた大剣が、スライムに向かって振り下ろされた。


その一振りで、スライムのHPは全損し、光のエフェクトと共に消えていった。


「せ、先輩!倒しましたよ!」


「うん、倒したね」


そりゃ倒せるわ。だってそこそこ鍛えた俺のアバターだもの。


コントローラーを持つ彼女の手は、少し震え、瞳はどこか不思議なものを見ているような……そんな目をしていた。


「なんかこれ、いいですね」


「そうか!倉瀬さんも分かってきたじゃないか!俺は嬉しいよ!」


さっきまで何も知らなかった彼女がゲームという新しい世界に輝きを見出した。なんだろう……俺も嬉しくなってくる。くぅぅっ、なんか涙でそう。


「そうなんだよ!この爽快感と達成感……1度味わったらもう止められないよね!特にこの限界までこだわったモーションとか………」


圧倒されているような表情を続ける倉瀬を見て、俺は途中で根本的なことを思い出した。


「あ………わるい。こんなこと言われたって、ウザいだけだよな」


「え、別にそんなことは……」


「いやいいんだ。自分でわかってるから……」


ゲームのことになるとすぐに熱がはいりすぎてしまう。悪い癖だ。


「いえ、本当にそんなこと思ってないですよ。単純に凄いなぁと思っただけです」


彼女の眼差しに嘘の色は見られなかった。


「……まじか?」


「はい。まじです」


「そ、そっか。そっか……」


俺は内心、安堵していた。これまで何人ものやつにひかれてきたからな。


でもまあ、これからはもう少し自重しよう。せっかく1人の女の子がゲームの楽しさに気づいたんだ。俺のせいで台無しにしたくはない。


「それより先輩。ちょっと思ったんですけど」


「ん、どうした?」


「この、私が動かしてるのが、先輩の作ったキャラなんですよね?」


「あ、ああ。そうだけど……」


今作はバリエーションが多すぎて、キャラメイクだけで2時間費やしてしまったからな。まあ、これからずっと使っていくアバターにはこだわりたいよな。


「これって、言わば先輩なんですよね?」


おお、なかなかセンスを感じる発言だな。


「お、おう。その通りだ。これはもう1人の俺と言っても過言じゃないな」


「そうなんですね。でも……じゃあなんでこのキャラクターは女の子なんですか?」


これまで触れずにいた話題に俺は一瞬ぴたりと体が固まった。


「そ、それはまあ、なんだ……うーん……」


RPGとかの、アバターを作るゲームでは、自分の理想のビジュアルにしたいと思うのはもはやゲーマーのさがと言ってもいい。


同じ思考回路を持つゲーマー同士なら、普通はお互いに詮索しないのがマナーというものだ。


しかし、彼女はそんなこと知るわけも無い。


やりにくいな。


「ほらさ、ゲームの中でぐらい、自由に理想像をつくりたくなるもんなんだよ」


「ということは、先輩は女の子になりたいんですか?」


「い、いや、そういう訳じゃないんだけど……」


うーん……やりにくい。まじでやりにくい。


なんか適当な言い訳でもつけてこの話題を終わらさなければ。


「あ、えーっと……そうだ。自分が女の子の視点になることで、女の子の気持ちを理解しようという、そんな……感じで……」


あれ?今何言ったんだ?俺。


咄嗟のことで、自分でも何をどう言ったのか把握出来ていなかった。


「そうなんですか……じゃあ先輩……」


倉瀬はそう呟きながら顔を近づけてきた。


「えっ!?ちょっ……」


鼻先があたりそうなぐらいまで顔の距離が縮まる。


な、なんだこれは!?!?


落ち着け。こんな時こそ状況を冷静に判断するんだ。


俺がなんでアバターを女性にしたのかという話をしてたら、急に美少女が顔近づけてきて、めっちゃいい匂いして、吐息がくすぐったくて、あとめっちゃいい匂いして……うん、冷静に考えてもどういう状況かさっぱりわからん。


「じゃあ先輩、今私が考えてること、わかりますか?」


「……っ!?」


なんだよ、その質問……俺が変なこと言ったからか?


彼女の顔は少し赤くなっていて、呼吸もなんだか荒々しい感じがする。


おいおいこれって……まじなのか?


だって、これまでの流れと様子だけ見たら、倉瀬が俺のことを好………


いや、ここであからさまに見せておいてひっかけ、なんてこともあるかもしれない。


こいつは何を考えているのかわからないんだ。今朝の二の舞にはなりたくない。


「そ、そうかわかったぞ」


俺はテーブルの上に置いてあったエアコンのリモコンを手に取り、冷房に設定して起動させた。


「あ、暑かったんだろ。それでちょっと顔赤くなってたんだな!」


ちょっと苦しいかもしれんが、条件は満たしているだろう。


すると、彼女はまた頬を小さく膨らませながら、ジト目をしてきた。え、なにそれ可愛い。


「……むぅ」


「な、なんだよ」


「別にぃ……正解ですよー。先輩つまんないですね」


おお、まじで正解した。でもなんで正解したのに俺、罵られてんの?



「ま、まあいいや。そんなことよりほら、続き始めるぞ」


「はーい」


コントローラーを彼女に渡し、俺たちはアインツゲイルを再開する。



────この日から、俺は倉瀬萌佳と一緒にゲームをするようになった。

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