遊戯の始まり
「こいつがこのダンジョンのボスね」
ルネッタが目の前の扉の前に立ちはだかっているゴーレムを見上げて言う。
「いつも通りちゃちゃっと倒しちゃおうぜ」
ルイが拳を打ち合わせる。
「援護します」
紫苑が杖を掲げる。
「よし、それじゃあいこうか」
俺は剣を抜き構える。
「一撃目は俺がもらうぜ!」
そう言って駆け出したルイを追いかけて俺たちはゴーレムへと立ち向かった。
* * * * *
俺の名前はシュウ。
俺たちは自称神を名乗る者によってこの神の遊戯盤と呼ばれるこの世界に連れてこられた。
まあ俺たちと言っても数百万にも及ぶ人が連れてこられているので特別選ばれたというわけでもない。
ここの世界は神が暇つぶしに作った世界であり、四封という4体の神の使いを倒すことで神のもとへたどり着く様子を見て楽しみたいらしい。
だが、実際は何度も大規模な召喚により多くの人が連れてこられたが、まだ最高でも過去に四封は2体までしか倒されていないらしい。
四封は召喚のたびにリセットされ、他にも神獣が7体いるらしい。
この世界には魔法がある。
もとの世界にはもちろん魔法なんてものはもちろんなかったことにより、この世界に適応するために記憶の一部を無くしてしまったりや髪の色などが変わってしまうこともあるらしい。
まあらしいというより、実際に俺の記憶の大半は無くなっており自分の名字なども思い出せない。
「そんな難しい顔してどうしたの?」
そんなことを考えていたら桜色の髪を肩あたりで揃えた少女が俺の顔を覗き込んでいた。
「あぁ、少しな。たいしたことじゃないから大丈夫だよ」
俺は彼女、桜野 紫苑に答える。
「それじゃあ行こうか」
そろそろ集合時間になるだろう。
俺と紫苑は宿を出る。
「おーい、シュウ。そろそろ今日の狩りに行こうぜ」
そう言って宿を出たところで俺を呼んでいるのはルイ・トレーノだ。
彼は元気な赤髪の武闘家で戦いではいつも先陣を切って行く。
記憶を失い行く当てのなかった僕を仲間に入れてくれたおっちょこちょいなところもあるが頼れるパーティーのリーダーだ。
「はやくはやくー」
そう言って隣で手を振っているのはルイの双子の妹であるルネッタ・トレーノだ。
彼女も兄と同じく明るく、人見知りの紫苑をカバーしてくれている。
「おまたせ」
僕たちは4人でパーティーを組み、最初に召喚された飛鳥という国で活動している。
この世界では東西南北に4つの国と中央に神国の計5つの国がある。
東西南北の国にはそれぞれ塔があり、四封を全て倒すと神国から神界に繋がる道が開けると言われている。
飛鳥は中でも元の世界で言う和の雰囲気が感じられる国だ。
記憶の大半が無い僕にとってそこは少しだけ安心ができた。
「それで今日はどんな依頼を受けるの?」
「うーん、そうだな」
僕の質問にルイが少しだけ考える。
「ここら辺の魔物にもだいぶ慣れてきたし面白い依頼があれば受けるし無ければいつも通り魔物の討伐だな」
「せっかく異世界にこれたんだしなんか冒険とかしてみたいなー」
ルネッタの言う通りせっかくのファンタジー世界だ。
冒険という言葉に心が惹かれる。
「でもあんまり危ないのは…」
「塔に行くわけでもないし大丈夫だって。俺たちもこっちの世界に来て一ヶ月以上も経つんだし何かあったら俺が守ってやるよ」
紫苑が少しだけ不安そうな顔をしたがルイが心配ないと胸を叩く。
「そろそろギルドだね」
「何か面白い依頼があるといいなー」
ルネッタが一足先に掲示板を見に行く。
僕たちも後ろから掲示板を見るが特に面白そうな依頼はなかった。
「いつも通りだね」
「まぁ現実には面白い話はそんなに転がってないわね」
僕たちはいつもと同じ依頼をとろうとする。
「そういえば聞いたか?一昨日、森の奥で洞窟が見つかったらしいぜ」
そんな時、後ろで別パーティーが話しているのが聞こえた。
「何その話、詳しく聞かせて」
ルネッタが面白そうだと話を聞きに行った。
僕たちもルネッタの後をついていく。
「あぁ、ルネッタか。なんでも筑紫の森の北東の奥あたりで怪しい洞窟を見つけたらしいぜ」
「へー、あんなところに洞窟があったんだ」
「普段は誰もそんな奥まではいかないからな。見つけたパーティーはすぐに戻ってきたらしいが昨日行ってみるって言ってたパーティーが戻ってきたのを見てないから行くなら気をつけな」
「そうなんだ。話聞かせてくれてありがとう」
「もし、行くなら気を付けろよ」
「うん、じゃあね」
話を終えたルネッタがこちらに戻ってくる。
「筑紫の森の奥か」
「せっかくだし行ってみない?」
「知られていない洞窟なんてわくわくするな!」
ルイとルネッタは洞窟に行きたそうだ。
「うーん、でも危なくないかな」
「紫苑は心配し過ぎだって。危なそうだったらすぐに帰ればいいし。シュウはどう思う?」
危険もあるかもしれないが、僕は洞窟に行ってみたい。
「安全第一で危なさそうだったらすぐ逃げるって事でどうかな」
「それなら」
紫苑もうなずく。
「よし、それじゃあ洞窟に行ってみるか」
こうして僕たちは準備を整え、洞窟に行くことにした。