05
すぐに別の、今度は短い金髪の女の人がやってきて、変態さんの頭を思い切り殴った。
「当たり前だ! いきなり女の子を抱き上げる奴があるかい! 変態呼ばわりも仕方ないよ!」
「ええ……。俺なりに優しくしたつもりだったんだけど……」
「なお悪いわ!」
そんな二人のやり取りを見ている間に、あれよあれよと人が集まってきた。私の目の前に、クッキーやお茶……紅茶かな? たくさん置かれていく。
「新人さんいらっしゃい! お茶置いておくね!」
「僕からはクッキーを上げよう。この街の名店のクッキーさ。なに、高いものじゃないとも」
「ここまで疲れてない? 肩でも揉もうか?」
なんだかすごく歓迎されているのは分かるけど、理由が分からない。私が固まっていると、私の対面に座っていた女の人がこほんと咳払いをした。途端に静かになって、みんなが散っていく。
「ごめんなさいね、驚かせて。私があなたの担当になるケイトよ。よろしく」
「あ、はい……。よろしくお願いします」
「ギルドは初めて? 冒険者は分かる?」
「いえ、その……。分かりません……」
登録しに来たのに何も知らないのは、やっぱり失礼じゃないかな。そう考えて、ちょっとだけ気持ちが沈んでしまう。けれどケイトさんは特に気分を害した様子もないみたいで、それどころか微笑んで私の頭を撫でてくれた。
「気にしなくていいのよ。むしろ知ったかぶりせずに、正直に知らないと答えたのは偉いわ。それじゃあ、簡単に説明するわね」
すごく優しい人だ。嬉しくなってお願いしますと答えたけど、どうしてか周囲の人が手で目を覆った。どうしよう、急に不安になってきた。で、その不安は、的中した。
すごく、すごく長い説明だった。最初の冒険者がギルドを立ち上げたところから始まって、今までの歴史を懇切丁寧に話してくれる。面白いのだけど、今はそれを求めてないです。むしろ多分兵士さんが外で待っていると思うので、後日にしてください。なんて言えるわけもなく。
ケイトさんが話し終わったのは、他の大勢の人まで聞き疲れてきた頃だった。
成り立ちとかは正直私自身あまり興味がないので、要約してまとめると。
冒険者っていうのは、本当に何でも屋らしくて、最初に登録する時に何ができるかも記録するそうだ。まあこれは、戦うことはできるか、という方が重要らしい。私みたいに荒事が苦手なら、最初からそんな依頼は回さないようになるとのことだ。
次に受ける依頼の傾向を決めることができて、採取とか探索とか斥候とか、色々ある。いくつでも選んでいいらしいけど、私はとりあえず採取だけにしておいた。
ちなみに戦闘も種類があって、討伐とか捕獲とか救出とかあると聞いた。興味なかったので聞き流した。
冒険者には経歴や経験を踏まえてランク付けされるらしくて、上は一等級、下は五等級と五段階になっているらしい。私みたいな初めての人やまだ成人してない幼い子は五等級からとなる。
肝心の身分証になるギルドカードだけど、カードに魔力を登録すると、本人やギルドしか情報を表示できないようになる。カードに血を垂らせばすぐにその血から情報を読み取って登録されるんだとか。すごい技術ですねと答えたら、精霊が作って提供してると聞いて驚いた。何やってるのアーちゃん。
というわけで、早速登録することに。ケイトさんが持ってきた真っ白なカードに血を垂らす、んだけど……。
「指先をちょっと切る程度でいいから」
「は、はい……」
ケイトさんが持ってきた小さいナイフの先を、人差し指に当てる。ちくりとした痛み。すぐにナイフを離すと、ぷっくりと血が出てきた。
今更だけど、妖怪の血で登録できるのかな。不安になってきた。
カードに血を一滴垂らす。すぐにカードが仄かに光った。
「はい。ありがとう。確認してくるから、待っててね」
ケイトさんが奥の方へと歩いて行く。登録そのものはできたらしい。とりあえずは一安心だ。
ケイトさんが去ってから、また人が集まってきたのには驚いたけど。なんだか白い法衣のお姉さんが側に来て、指を軽く撫でてくれた。それだけで傷がふさがってしまう。これが魔法なのかな。
「驚いてるわね。魔法は初めて?」
「はい。びっくりしました」
「ふふ。興味があるなら教えてあげるから、声をかけてね」
なんだかお姉さんは嬉しそうだ。
まあ、私が驚いたのは、私に効いたことなんだけど。まさか妖怪に有効だと思わなかったよ。魔法の原理が少し気になる。いや、それを言えば私の存在そのものがあやふやになるんだけど。
「ねえねえ! どこから来たの!?」
男の子が駆け寄ってきた。私よりも幼く見えるから、多分十歳かそれぐらいかな?
「北の方だよ」
「北!? じゃあ、ドラゴンとか見たの!?」
「あー……。うん。まあ、見た、けども……」
どうしよう。あの時の兵士さんからの反応を考えると、うかつなことは言えない気がする。
私がどう答えようかと悩んでいると、最初に声をかけてくれた男の人が男の子の肩に手を置いた。
「まあ落ち着けよ。ほら、クッキーやるから。友達と食べな」
「わ! ありがとう、おじさん!」
「おじ……」
男の子に悪気はないんだろうなあ……。だからこそ、男の人はかなりショックを受けてるみたいだけど。でも私の視線に気が付くと、男の人はばつが悪そうに頭をかいた。
「まあ、なんだ。あいつも悪気があるわけじゃないんだ。だから、その、えー……」
察した。兵士さんの時と同じだ。私の家族がドラゴンに襲われたとか、そんな勘違いをしてる。正した方がいいのかもしれないけど、妖怪とか異世界とか、そこから話さないといけなくなるし、まず信じてもらえないと思う。気を遣わせないようにしてる、と思われるのがおちじゃないかな。
「気にしてません」
「そ、そうか。悪いな」
無難にそう返事をしておくと、男の人は安堵で笑顔を見せてくれた。やっぱりこの人は、すごく優しい人だ。
それにしても、どうなってるのかな。みんながすごく優しい。今も私の周りにたくさん集まってるし、すごく気にしてくれているのが分かる。なんとなく、もっと粗雑な人たちのイメージがあった。
間違い無く悪い意味での先入観だ。反省しよう。
「失礼します!」
そう考えていると、ケイトさんがこちらへと駆けてきた。すごく慌てていて、なんだろう、とても焦っていると分かる。私の目の前まで来ると、笑顔を浮かべた。ただし、かなり引きつったものだけど。なんなの?
「お待たせ致しました。ギルドマスターがお会いになるとのことなので、申し訳ございませんが一緒に来ていただけますか?」
「え? あ、はい」
急に敬語になってる!? 私何かした、か、な……。
さっきのカードか……。情報を読み取るなら、多分、余計なことまで出てきたんだね……。
周りの様子をちらっと見たけど、誰もが困惑しているから、新人がギルドマスターに呼び出されるのはすごく稀なことなんだと思う。
私は隅にある扉からカウンターの中に通されて、さらにその奥の扉に案内された。
その扉の中は、いわゆる応接室みたいになっていた。部屋の中央にはテーブルとソファがある。ずっとあの家で暮らしていた私にとっては、知識はあっても実物を見るのは初めてだ。ソファはテーブルの奥とこちら側、二つあって、奥のソファに白髪のおじいさんがいた。
壁|w・)本当はすげー展開とかつえー展開はしたくないのですが、見た目子供の主人公が旅をできるようにするには、協力者が必要なわけで。ギルマスさんに白羽の矢が立ちました。
がんばれギルマス、胃薬はない。
誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。
ではでは。