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獣人さん三人を保護して、お家に帰宅。今は暖かくした家の中で熱いココアをちびちびと飲んでる。駆けつけてくれたルーシアさんにも出してあげた。寒かっただろうからね。
獣人さんたちは男、女、男の子の三人。親子らしい。旅商人だと言っていた。いつもならこの山は通らないけど、近道をするつもりで通ったらあの有様、だそうだ。
「なるほど……。それは大変でしたね……」
話の聞き役はルーシアさん。見た目なら一番大人だからね。獣人さんたちも、ルーシアさん相手の方が安心のはずだ。
「まだお疲れでしょう。一先ずはしっかりとお休みください。滞在中の食事などはこちらで提供させていただきますので」
「ありがとうございます。何とお礼を言えばいいのか……」
「お気になさらず。困った時はお互い様ですから」
ルーシアさんが笑顔で言うと、獣人さんたちはみんなふかぶかと頭を下げた。
獣人さんたちにはそのまま新しく作られた客間で休んでもらうことに。明日にはもう少しお話を聞けるかな?
ちなみに客間は、獣人さんたちがココアを飲んでいる間に精霊さんたちがあっという間に増築していた。獣人さんたちは気付かなかったみたいだけど、私たちにはこんこんばきばき作業の音が微かに聞こえていたのだ。
そのせいか、ルーシアさんはずっと頬を引きつらせていた。慣れてください。
「すずちゃん。これで良かったのですね?」
「うん。ばっちり」
食事の提供とかは、私が前もってルーシアさんに伝えておいたものだ。アーちゃんにも許可をもらってる。明日から食事担当の精霊さんが増員されるそうだ。
獣人さんが客間に行った後にアーちゃんが戻ってきたのでごめんねと謝ったら、むしろ暇つぶしが増えるとのことだった。私はどう反応したらいいのこれ。
「えっと……。アーちゃん、私に手伝えることがあったら、言ってね?」
「なんと!? すずちゃんは久しぶりの精霊たちの暇つぶしを奪っちゃうの!? 鬼畜だね!」
「なんでそうなるの!?」
いや、そうなるのか? どうしよう、分からない。もう何が正解か分からない。
私があたふたと混乱していると、アーちゃんは楽しそうに笑った。
「あははー。冗談だよ、すずちゃん。必要な時はお願いするよ」
「う、うん……。お願いね?」
あいよー、と軽い返事をしてアーちゃんが消える。うん……? 何しにきたのあの子?
とりあえず私たちも今日は休むことにした。色々あって疲れたからね。ニノちゃんの尻尾をもふもふして癒やされよう……。
翌日。私は多分日の出と共に起床した。相変わらずの吹雪なので多分だ。今、朝だよね? 間違いないよね?
普段なら朝食の支度をするんだけど、ここでは必要ないので少し暇ができる。一緒に寝ているニノちゃんを起こさないようにベッドから抜け出して、手早く着替える。
ルーシアさんはリビングで見張りをしている。数日なら寝なくても問題ないらしいから、あの獣人親子を見張るのだそうだ。
気にしすぎじゃないかな、と思う私は、気楽すぎるのかな。
ニノちゃんはもうしばらく寝ていると思うから、私は先にリビングに行くことにした。
リビングではルーシアさんが本を読んでいた。分厚い、難しそうな本だ。私は見たこともない本だけど、ルーシアさんの持ち物かな。
「おはよう、ルーシアさん」
「おはようございます、すずちゃん」
ルーシアさんがふんわり笑って挨拶してくれる。ルーシアさんも随分と緊張が和らいだみたいで、私としても一安心だ。みんな仲良くのんびりしたいからね。
「それ、ルーシアさんが持ってきた本? 重たそうだね」
「いえ。退屈だと思っていたら、世界樹の精霊様が持ってきてくれました。暇つぶしを持ってきてあげたぞどやあ、と」
どうしよう。その時の光景がありありと思い浮かべてしまう。私やニノちゃんだけじゃなくて、ルーシアさんにも同じ態度らしい。慣れないと大変そうだ。
「ルーシアさん。頑張って慣れてね」
私がそう言うと、ルーシアさんは苦笑して肩をすくめた。
「気にしないことにしました。気にしたら負けかな、と」
「お、おお……。すごいね。切り替えが早いのはいいことだと思うよ。うん」
私たちと一緒に来てくれるならアーちゃんとも長い付き合いになるけど、この様子なら大丈夫そう、かな?
「ところで、ルーシアさん。本当に寝なくても大丈夫なの?」
「はい。もちろんです。それよりも、誰も起きていない間に、すずちゃんに話をしておかないといけないことがあります」
「話?」
「はい。あの獣人さんたちについて、です」
なんだろう。わざわざ早朝に話すということは、ニノちゃんにも聞かれたくないってことかな。
私が不思議に思っていると、ルーシアさんが姿勢を正した。真面目な話みたいだ。
「まず、最初に。あの方々は、本当にぎりぎりの状態でした。発見があと一日遅れていれば、三人とも亡くなっていたでしょう」
「そうなんだ……。昨日見つけられて良かったね。本当に。でも、そこから持ち直せたんだから、ルーシアさんのお薬は本当にすごいんだね」
「まあ、その……。はい。もちろん精霊様たちが手伝ってくれたというのが大きいですよ」
あ、照れてる。顔を赤くしてはにかんでるルーシアさんがかわいい。是非ともニノちゃんにも見せてあげたかった。
「えっと……。それで?」
「はい。世界樹の精霊様から伺ったのですが、精霊様たちは彼らの馬車があそこにあることは知っていたそうです」
「なにそれ」
それが本当なら、やっぱりちょっと、もやっとする。もっと早くに助けてあげたかった。
でも、ルーシアさんが続けた内容は、予想の斜め上のものだった。
「精霊様たちも、まさかまだ生きているとは思っていなかったそうです」
「え……。死んでる、と思ってたの?」
「そうみたいですね」
精霊さんは、あんまり人間に興味がない子が多い。だから、いつの間にか馬車があっても、特に気にしないらしくて、気付いたらあった、とのこと。だから中に人がいたとしても、もう死んでいるだろうと思って気にも留めなかったらしい。
「そんな中、三人揃ってぎりぎりの状態で発見される……。すごい偶然ですね」
にっこりと、ルーシアさんが笑ってるけど……。目が笑ってない。怖い。
「る、ルーシアさん? 何を言いたいの?」
「ここからは、私と、世界樹の精霊様と二人で考えた推測なのですが……」
なんだろう。ちょっと怖いので、私も姿勢を正しておこう。
「すずちゃん。座敷童とはどういうものか、世界樹の精霊様からお伺いしました」
「あ、うん……。えっと、それで?」
「はい。家そのものにかける加護だとお伺いしましたが……。この家に、かかっていませんか?」
言われて、はっとする。そういったことは全く意識していなかった。
いや、そもそも、私は別に意識的に加護とやらをかけてるわけじゃない。多分、私の特性のようなものが、加護という形で表れているんだと思う。
「えっと……。ルーシアさんには分かるの?」
「はい。あなたが滞在した場所で、いくつかの家や宿に加護がかかっていましたよ」
ルーシアさん曰く、フロストさんの家とか、シェリルちゃんの家とか。フロイちゃんの病気はルーシアさんが治してくれたと聞いたけど、ルーシアさんはフロストさんの家にかかっている加護に導かれたとのことだった。
ふむう……。なんだかちょっとびっくりだ。加護ってそんなにすごいものなんだ。
「それでですね、すずちゃん」
「うん」
「この家にもかかっているんです、加護」
「え? ……え?」
「事実です」
いやいや、まさかそんな。だって、ここはアーちゃんが用意してくれた、仮のお家で。ただ、それだけで……。
「あの獣人の方々は、狐人ですね。ニノちゃんと同じで」
「そう、だね……」
「ニノちゃんにとっての幸運、ということでは?」
ああ、そうか。そう、なるのかな……。
つまりは、あの人たちは。
「ニノちゃんの故郷を知ってる……」
「可能性ですけどね」
ああ、でも。そう言われるとしっくりきてしまった。
うん。どうやら。
案外早く、ニノちゃんとはお別れしないといけないみたいだ。
いいことだ。うん。いいこと、なんだけど。
ああ、それでも……。
寂しく、なるなあ……。
壁|w・)ニノちゃんの故郷の手がかりが舞い込んできたところで、第三話は終わりです。
第四話はニノちゃんの故郷に向かいます。多分。
第四話は……ええっと……、半年、ぐらい……? を目処に書けたらいいなあ……?
ぶっちゃけ、第四話よりこそこそ書いてる令嬢さんの方が書き終わるかもです。
両方とも書いていますですよ……!
誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。
ではでは。




