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07

「こんにちは。別の街から来たので、挨拶に来ました」

「ああ、わざわざありがとう。わしがここのギルドマスターだ。気軽にマスターさんと呼んでおくれ」

「はあ……」


 なんだろう。すっごく軽い人だ。少し困惑しながらも、ニノちゃんを前に出す。


「あの、初めまして。ニノです」


 ぺこりと頭を下げるニノちゃん。マスターさん? だらしなく頬が緩んでますよ?

 でも気持ちは分かる。ニノちゃんはかわいいからね。先に言うけど、あげないからね。


「うむ。紹介状は持っているかな?」

「あ、はい。これです」


 差し出したのは、最初の街でもらった紹介状だ。なんだかんだと、今もお世話になっている大切なものだ。あの街にいたギルドマスターのガントさんはどうやら立場としては上の人のようで、これを見せるとみんな態度が変わるほどだ。

 マスターさんは紹介状を読むと、少しだけ目を見開いた。興味深そうに私を見てくる。そんなに見ても何もしないよ。


「ふむ。ありがとう。これは返しておくよ」

「ありがとうございます」

「いつまでこの街にいるのかな?」

「一週間ぐらい、ですね。一通り観光して、次に行きます。どこか面白い場所はありますか?」


 私がそう聞くと、マスターさんはすごく難しい表情になった。周囲を見てみても、誰もが目を逸らしてしまう。その質問には答えられない、と言いたげだ。

 秘密とか後ろ暗い話とか、そんな雰囲気じゃない。ただ単純に、とても言い辛そうにしているだけ。これはやっぱり、シェリルちゃんが言っていたので同じなんだろうね。


「うむ。ないのう」


 きっぱりと。そう言われてしまった。


「ここは観光地には適していないからのう。あくまで中継地点として発展しただけの街だ。ああ、だが、それだけに、食事は楽しめると思うよ。多くの国の食材が集まってくる」

「なるほど。じゃあ、食べ歩きをします」

「うむうむ。そうしなさい」


 マスターさんと冒険者さんたちに頭を下げて、ギルドを出ようとする。そうすると、たくさんの人が自分たちのお勧めのお店を教えてくれた。安くて美味しい、もしくは量が多いお店や、ちょっと高いけどすごく美味しいお店とか。たくさんのメモ書きを渡されてしまった。一週間で全部回れるかな、これ。


 ニノちゃんが串焼き肉が食べたいと叫んだせいで、串焼き肉のお勧めもたくさんだ。ニノちゃんはどうして串焼き肉にこだわるのか、私には分からないよ。いや、美味しいんだけどね?

 ギルドから出ると、シェリルちゃんが駆け寄ってきた。私が持ってるメモに驚いて、経緯を聞いてまた驚いた。


「冒険者さんって気さくな人が多いんだね。もっと怖い人ばっかりかと思ってたのに」

「あはは。そうでもないよ。優しい人が多いから。それに、私とニノちゃんも一応は冒険者だよ」

「あー。そっか。それを聞くと納得しちゃう」

「うんうん。……あれ? これって納得して良かったのかな」


 なんというか。喜ぶべきなのか、怒るべきなのかよく分からないそんな感じ。

 とりあえずお昼はこのまま食べ歩きに行くことにした。




「けぷ……。ど、どうしてそんなに平気そうなの……?」

「さあ?」

「もぐもぐもぐもぐ」

「ニノちゃんはまだ食べてるし……」


 ギルドから出て、のんびり食べ歩きをしてそろそろ夕方。ずっと食べ歩きをしていた。

 あまり期待してなかったんだけど、どこもすごく美味しいお店だったよ。冒険者さんたちのお勧めはもちろんだし、ニノちゃんが匂いに引き寄せられちゃった結果立ち寄った屋台の串焼きもすごく美味しかった。


 全部のお店で一人前を食べているんだけど、シェリルちゃんは早々にダウン。今はもうついてくるだけ。ニノちゃんは逆に、今も両手に串焼き肉を持ってもぐもぐしている。

 ニノちゃんは見た目に反して健啖家だ。街から街への道中は控えめなんだけど、街に入ると食いだめでもしているのかと思うぐらいにたくさん食べる。どう見ても胃袋の限界を超過してると思うんだけど、獣人さんの体ってどうなってるんだろう?


 まあ、私も人のことは言えないけど。ニノちゃんと同じぐらい食べてるし。ただ私の場合は、精霊たちと同じで食べた栄養のほとんどはこの世界に還元してるだけのことだ。だから私は実はどれぐらいでも食べていられるのだ。

 こうして見るとシェリルちゃんだけがまともな人間なのでは……?


「さてさて、次はどこに行こっか、ニノちゃん」

「もぐもぐもぐー?」

「まだ食べるの!?」


 驚くシェリルちゃんの目の前で、ニノちゃんがくわっと口を開いて串焼き肉を全部食べてしまった。ぺろりと口の周りを舐め取って、私が持ってるメモをのぞいてくる。シェリルちゃんの頬が引きつってるけど、気にしちゃいけないのです。


「あ、ニノちゃん。聞いておいてなんだけど、次で今日は最後にするから、酒場に近いところにしようね。情報収集するよ」

「もぐ!」

「口の中を空にしなさい」


 もぐ、とニノちゃんが頷いた。さっきからニノちゃんはもぐしか言ってない気がする。

 私が酒場近くのお店を探していると、シェリルちゃんが不思議そうに聞いてきた。


「情報収集?」

「うん。ニノちゃんの故郷や両親を探してるの。まあ、手がかりはほとんどないんだけどね」


 手がかりは、以前ニノちゃんに描いてもらった風景画。あと、ニノちゃんに似ている狐人さん。風景画はぼんやりしてるから分かりにくいし、ニノちゃんもまだ子供だからニノちゃんに似た大人の狐人さんっていうのも分かりにくい。

 私も、そして今ではニノちゃんも、正直あまり情報には期待してなかったりする。こうして旅を続けていれば、いずれニノちゃんの故郷にたどり着くだろう、としか思ってない。それでも、もしかするかもしれないから、こうして情報収集はするようにしているのだ。


 ちなみにどうして酒場かというと、仕事が終わった後の冒険者さんがよく集まるからというのと、お酒が入るからかみんなの口が軽くなるから。お酒を飲めない私たちでも結構いい場所だ。

 というわけで、酒場の煮物が美味しいというメモがあったので、その酒場に向かう。


 その酒場は私たちが入ってきた門に近い場所にある建物だった。木造二階建てで、他の建物よりもちょっと小さく見える。もうすでに飲んでいる人もいるみたいで、扉の前に立つだけで陽気な声が聞こえてきた。

 酒場はどこの街もこんな感じ。夜はいつも陽気な声が聞こえてきて、気持ちが明るくなる。つまりは酔っ払いも多いってことなんだけど、泥酔している人には近づかないのできっと大丈夫。

 だから、そんなに怯えなくて大丈夫だよ、シェリルちゃん。


「シェリルちゃんはもしかして酒場そのものが初めて?」

「う、うん。私の家でもお酒は出すけど、料理がメインの食堂だから……」

「なるほどー。それじゃあ、仕方ないかな」


 私とニノちゃんも初めて入る時は緊張したものだ。今となってはニノちゃんも臆することなく入っていくけど。二人でおっかなびっくり入っていた頃もそれはそれで楽しかった。


「大丈夫だよ。でも念のため、私から離れないでね」

「う、うん」


 頷くシェリルちゃんを連れて、中に入る。

 入って左側にカウンター席がって、丸テーブルがいくつかあるお店だった。カウンター席はまだ空いてるけど、丸テーブルはもう全部埋まってしまっている。結構人気の酒場なのかな。


壁|w・)明日と明後日は多分お休みなのです。


誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。

ではでは。

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