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06


 翌日。私は日の出と共に起床した、とか言えれば格好いいかもしれないけど、残念ながらすっかり日が昇ってから起きてしまった。お昼頃というわけでもなく、朝の時間ではあるけど。

 宿でなかったら、例えばテントで寝てる時とかは、日の出よりも前に起きるんだけどね。ちょっとだけ気が抜けてる、とは自分でも思ってる。


「ニノちゃん。朝だよ」


 私が隣で眠るニノちゃんの肩を揺らすと、ニノちゃんはすぐに目を開いた。それに合わせて、私もベッドを下りる。


「お姉ちゃん、朝ご飯は?」

「え? あ……」


 そう言えば、何も聞いてなかった。下の食堂は朝からやってるのかな? やってなかったら、手持ちのクッキーでもかじるけど。

 ちょっと聞いてくるね、とニノちゃんの頭を撫でて、一階へ。やっぱりと言えばいいのか、食堂はアーシェさんとシェリルちゃんの二人で清掃中だった。これはやっぱり、朝ご飯は無理そうだね。


「あ、おはよう、すずちゃん」


 テーブルを拭いているシェリルちゃんが声をかえてきた。にっこりと、嬉しそうな笑顔。やっぱりこの宿で良かったと思う。


「おはよう、シェリルちゃん。あのね、昨日聞き忘れたんだけど、朝ご飯はここは使えないでいいのかな?」

「え? あ……、そっか。言い忘れてたね。ごめん、掃除があるから、朝と昼は予約制なの」

「そっか」


 予約さえしておけば用意はしてくれるってことだね。じゃあ明日からは予約しておこう。私はなくてもいいけど、これから成長期のニノちゃんにはしっかり食べてほしいから。


「じゃあ、明日以降の朝ご飯、お願いします」

「うん。お母さんに伝えておくね。今日の朝は大丈夫?」

「クッキーでもかじるよ」

「ああ、あれ……」


 あ、シェリルちゃんの目がちょっと物欲しそうなものになってる。分かりやすい。


「あとでシェリルちゃんにもあげるね」

「う、うん。ごめんね。ありがとう。えっと、お昼はどうしよう?」

「食べ歩き!」

「あはは。分かった」


 いつまでかかるかは分からないけど、昼は間違い無く過ぎると思う。だから、お昼も外で食べるってことでいいよね。

 シェリルちゃんには、滞在中の朝ご飯の予約だけ頼んでおいた。どんな朝ご飯がもらえるのかな。ちょっと楽しみだ。




 ニノちゃんと一緒にクッキーをかじって、少しお日様が高く昇ってから出発することにした。

 早速食べ歩きに、と行きたいところなんだけど、残念ながら先に行くところがあるんだよ。だからそんな目で見ないでニノちゃん。いつものことでしょ?


「行くところ?」

「うん。ギルド」

「なるほど」


 私とニノちゃんにとって、ギルドで依頼を受けるのはただの暇つぶしに等しい。というのも、魔力結晶を売ったお金がまだまだあるからだ。

 それじゃあどうして行くのかと言えば、以前にギルドで到着時と出発時は声をかけてほしいと頼まれたからだ。なんでも、特例を出している以上、どの辺りにいるか把握しておきたいらしい。


 これは多分、監視というよりも、心配されてるんだと思う。

 そうして案内されギルドは、良くも悪くも普通だった。今まで立ち寄ったギルドと内装はほとんど変わらない。何かこういう決まりでもあるのかな?


「シェリルちゃんは外で待っててね」

「うん。気をつけてね」


 シェリルちゃんは大人しく外へと出て行く。いい判断だ。

 少しだけ震えているニノちゃんの手を取って改めてギルドへと視線を戻すと、たくさんの視線が私たちへと向けられていた。なんだろう。警戒、かな? 多少なりとも私のことを怪しんでいるみたい。

 私たちが受付へと足を踏み出したところで、すぐに大きな男の人が立ちふさがった。


「待ちな、嬢ちゃん」


 うわあ、すごい筋肉だ。いかにも強そうな人だ。


「何ですか?」

「ここに何しに来たんだ? 依頼か?」

「いえ、登録というか、挨拶にですね……」

「は! やめとけやめとけ! お前みたいなガキ、死んじまうのがオチだ!」


 おお、これはすごい。すごく分かりやすい人だ。今までこんなことはなかったからすごく新鮮だ。ただ、ちょっとニノちゃんが怯えちゃってるから、早めに何とかしないといけないかもしれない。


「あの、とにかく受付に行きたいんですけど」

「駄目だ! お前みたいなガキ、引き受けていられるか!」


 男の人はそこで言葉を句切って、私に視線を合わせてきた。


「いいか? 冒険者ってのは楽しいだけの仕事じゃねえ。儲かるってわけでもねえ。俺たちみたいに、ろくでなしがやる仕事だ。嬢ちゃんはまだまだ子供だ。探せば、まともな仕事ぐらい絶対ある」

「あー……」


 なるほど分かった。この人、すごく優しい人だ。子供に見える私を追い返そうとしてるのは、危険な仕事をやらせないためだ。

 冒険者の人たちってどうしてこんなに優しいのかな。すごく不思議だ。

 でも、気持ちは有り難いけど、ちゃんと言わないとだめだ。


「あのですね。すごく心配してくれてるのは分かるんですけど」

「何言ってんだ、心配なんてしてねえよ!」

「私たち、昨日この街に来ました。二人だけで」


 男の人が凍り付いた。え、という口の形で固まってしまっている。周囲の人は言えば、視線はどれも興味深そうなものに変わっていた。


「てことは、嬢ちゃんが噂の特例持ちか?」

「まあ、一応、そういうことになっています」


 素直に頷いておく。男の人は大きなため息をついて、立ち上がった。


「悪い。余計なお世話だったな」

「いえいえ。本当に気持ちは嬉しかったです。ね、ニノちゃん」


 ニノちゃんへと言う。ニノちゃんはすっかり私の背中に隠れてしまっている。ひょこりと顔をのぞかせていて、男の人が小さく手をふると恥ずかしそうにしながらも手を振り返していた。

 よしよし、偉いぞニノちゃん。撫でてあげよう。え? 恥ずかしいからだめ? 残念。


「それじゃあ、通って良いですか?」


 男の人に聞いてみると、もちろんだと頷いて横に移動してくれた。うん。やっぱりいい人だ。

 受付に行くまでの少しの間も、周囲からの視線は感じた。むしろますます強くなったような。いや、気にしても仕方ないはずだけど。

 受付にいたのは、初老のおじさんだった。にこにこと笑っていて、好々爺といった雰囲気。なんとなく、私が取り憑いていた家のおじいちゃんを思い出してしまった。


壁|w・)優しい世界。


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ではでは。

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