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03


 友達と別れて、私はすずちゃんとニノちゃんを連れて歩きます。歩きながら、すずちゃんから旅の話を聞きました。

 二人はやっぱり姉妹ではないみたいで、ただ一緒に旅をしている家族ではある、のだそうです。旅の目的はニノちゃんのご両親を探すこと。ニノちゃんは違法奴隷になりそうだったのを、たまたますずちゃんが助けたのだそうです。

 すずちゃんはかなりすごい子のようです。私とあまり年が変わらないように見えるのに、そんなに怖いことに進んで関わるなんて、私にはできません。きっと悪い人をたくさん懲らしめたのでしょう。


「ん? あれ? なんか、勘違いされた気がする……?」

「どうしたの、すずちゃん」

「いや……。うん。何でも無いよ……?」


 すずちゃんが首を傾げます。本当にどうしたのでしょう。

 私ももちろん自己紹介をしました。ただ、私はすずちゃんたちと違って、話すことなんてほとんど何もありません。ただ、以前は人気の宿だったことを教えてあげると、興味を示してくれました。


「何かあったの?」

「えっと……。お父さんが、死んじゃったの。どうしても、ご飯が高くなっちゃって、そうなると、他の安い宿にみんな行っちゃって……」

「そっか……」


 それきり、すずちゃんは黙ってしまいました。うう、空気が重い……。こんな話、するべきじゃなかったかな……。

 少し重い足取りで歩いていると、不意にすずちゃんが立ち止まりました。どうしたのかと振り返ると、ニノちゃんがすずちゃんの手を引いたようです。すずちゃんと一緒にニノちゃんの視線を追えば、串焼き肉を売っているお店がありました。

 でももう閉店準備をしていて、お肉は焼いていないようです。けれど売れ残りなのか、店主さんの晩ご飯なのか、三本ほど残っているようでした。


「ニノちゃん。食べたいの?」

「うん」

「仕方ないなあ」


 ああ、うん……。すずちゃんはニノちゃんにすごく甘いと分かりました。考える素振りもなく即決していました。

 待ってて、と言い残して、すずちゃんがそのお店へと走って行きます。短く会話をして、あ、店主さんが渋い表情になりました。やっぱり晩ご飯だったようです。


 けれど、店主さんの視線がこちらへと、正確に言えば多分ニノちゃんへと向いて、困ったような笑顔になりました。すずちゃんがお金を渡して、串焼き肉をもらっています。交渉は無事に終わったようでした。

 すずちゃんがこちらへと走って戻ってきます。手に持っているのは串焼き肉が三本。全部買ったようです。あの人の晩ご飯は大丈夫なのかな?


「はい、ニノちゃん。シェリルちゃんも」

「え? 私も? いいの?」

「いいのいいの。みんなで食べた方が美味しいからね」


 そう言って、すずちゃんはにこにこ笑います。今日知り合ったばかりの私に、ここまでしてくれるなんて思いませんでした。

 三人で食べた串焼き肉は、少し冷めていましたが、いつもより美味しく感じました。




「ただいま! お母さん、お客さんだよ!」


 家の扉を大きく開け放って、お母さんを呼びます。三人だけいる食堂の常連さんが、ぎょっとしたように目を剥いてこちらを見ました。失礼じゃないでしょうか。


「おかえり、シェリル。お客さんって、その子たち? どっちのお客様かしら」


 食堂の奥、カウンターで常連さんの相手をしていたお母さんが、こちらに来ました。どことなく嬉しそうな笑顔です。


「初めまして。すずです。宿泊でお願いします」

「ニノです!」


 ニノちゃんはとても元気。かわいいなあ。思わず撫でちゃいます。ニノちゃんはちょっと驚いたようでしたけど、すぐにもっと撫でろと頭を突き出してきます。なにこの子本当にかわいい。


「なでなで」

「んふー」


 私がニノちゃんを撫でている間に、話は進んでいきます。


「宿泊? ご両親はどこかしら」

「えと、すみません。二人で旅をしています」

「二人で? もしかして噂の、特例持ちさん?」

「噂って……。まあ、はい。そうなります」


 どうやらすずちゃんは自分が噂になっていることに気付いていないみたいです。子供の特例持ちなんて本当に珍しいんですけど、気付いていないのかな?

 最後に子供の姿の特例持ちさんがこの街に来たのは、私が生まれるずっと前だったはずです。その子もここに泊まったんだよ、とお父さんが話してくれたのを覚えています。……あ、ちょっと、思い出したせいで……。


「んー……? シェリルお姉ちゃん、どうしたの?」


 ニノちゃんが首を傾げて聞いてきます。


「ううん。何でも無いよ。お母さん、お部屋はどこ?」

「そうね。三階の窓際でどうかしら」

「大丈夫です」


 お母さんがいつも持ち歩いている部屋の鍵をすずちゃんに渡します。それを確認してから、私がニノちゃんの手を取って言いました。


「それじゃあ、お客様。お部屋までご案内致します」

「おお。なんだかそれっぽい! お願いします」


 すずちゃんと顔を見合わせて、小さく笑います。ちょっと、楽しいかも。お母さんや常連さんたちもみんな笑顔です。

 私は早速二人を連れて、入口側の階段を上り始めました。


 三階まで上ると、まずは長い廊下があります。その廊下に三つの扉があって、すずちゃんたちに割り当てられたのは一番奥の部屋になります。

 ただ、一番奥の方がいいお部屋、というわけでもありません。広さや家具は全て同じです。違うと言えば、一番奥だけ窓が二つあることでしょうか。お日様の光はたっぷりと取り込めます。多分。

 そんなことを説明しながら部屋の扉を開けました。


「おー」

「わー」


 すずちゃんとニノちゃんが声を上げてくれます。気を遣ってくれているような気がするのですが。


「うん。普通でしょ?」

「うん。普通だね」

「ふつー」


 すずちゃんとニノちゃんが同じように頷いたので、私は小さく笑ってしまいました。

 部屋にあるのはテーブルと椅子、ベッドが一つずつです。あとは小さな物入れ、程度でしょうか。一人で使うと少し広いお部屋ですが、すずちゃんとニノちゃん二人なら丁度いいかもしれません。


「ベッドは一つだけしかないけど……」

「お姉ちゃんと一緒に寝るから大丈夫!」


 ニノちゃんがすずちゃんに抱きつきました。すずちゃんは困ったように笑っていますが、満更でもなさそうです。でもすぐに、ちょっと辛そうな表情になってきました。


「ニノちゃん。重い」

「お姉ちゃんなら大丈夫!」

「意味不明な信頼はやめてくれないかな!?」


 口ではそう言いながらも、すずちゃんは耐えています。うん。これは放っておいた方がいいのかな?


「ご飯はいつでも食べられるからね。ごゆっくりどうぞ」

「え。ちょっと待ってシェリルちゃん。助けて? いや待って助けて!」


 私は気にせず扉を閉めました。直後に、何かが倒れるような音。すずちゃんの怒る声とニノちゃんの謝る声が聞こえてきます。

 仲が良さそうで羨ましい、と思ってしまいました。


   ・・・・・


壁|w・)次回からすず視点に戻ります。

次回の更新は月曜日です。もしくは火曜日です。


誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。

ではでは。

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