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02

 そのままアーちゃんに連れて行かれたのは、山から一キロほど離れた場所。そこに、ぽつんとテーブルがあって、何か形容しがたいものがお茶やクッキーを用意していた。

 こう、なんだろう。草の蔓で編まれて無理矢理人型にしたような、人形? 正直気味が悪い。

 思わず頬を引きつらせてしまうと、アーちゃんがごめんねと苦笑い。


「あれは私が作ったリーフゴーレムなの。私のお手伝いさんかな。草と蔓とかで作ったから、その、見た目は悪いけど……」

「えっと……。か、かわいい、よ……?」

「うん。気を遣わなくていいから。私も失敗したと思ってるし」

「あ、うん……。ごめん。気持ち悪い」


 だよね、とアーちゃんは笑いながら、テーブルへと向かう。もちろん手を引かれている私も一緒だ。私たちがテーブルに近づくと、リーフゴーレムが椅子を引いてくれた。


「ご苦労様」


 アーちゃんがぱちんと指を鳴らすと、リーフゴーレムは形を崩してしまった。後に残ったのは葉っぱや蔓といった植物の残骸だけ。これらがリーフゴーレムを形成していたと思うと、この世界はちょっと不思議だ。

 アーちゃんの向かい側の椅子に座って、アーちゃんが手ずから紅茶を淹れてくれる。すでにポットに入っていたものではあるけど。でもやっぱり精霊様にやらせるのはだめだと思って代わろうとしたけど、アーちゃんは笑いながら、いいからいいから、と座るように促してきた。


「はい。紅茶と、クッキー。食べて食べて」

「う、うん……」


 クッキーを手にとって、かじってみる。優しい甘さと、さくさくとした気持ちの良い食感でとても美味しい。ついつい二つ三つと食べてしまうと、アーちゃんに笑われてしまった。

 見られているんだった。いくら友達だからといっても、もう少し緊張感ぐらいは持たないと。少しだけ反省しておく。


「気に入ってもらえて良かった。クッキーなんて久しぶりに作ったからね」

「え? アーちゃんが作ったの?」

「そうそう」


 人間に教わったんだ、と自慢気に教えてくれる。人間の街に行くのが趣味、というのは本当みたいだ。私もおじいちゃんやおばあちゃん、それよりも前の住人さんを見て覚えたものはたくさんあるので、何となくアーちゃんの気持ちも分かる。

 もしかしたら私がアーちゃんに気に入られた理由って、それがあるのかも。


「それじゃあ、本題だけど。すずちゃんはこの後はどうするつもりなの?」


 さくさくクッキーを食べながら、アーちゃんが聞いてくる。なんだろう、真剣なお話のはずなのに、クッキーが台無しにしているような気がする。


「最初はもう消えちゃおうと思ってたんだけどね。おじいちゃんとおばあちゃんが、この世界を見て回って、お話を聞かせてねって言ってくれたから、旅でもしてみようかなって思ってる」


 消えるの部分でアーちゃんが酷く顔を曇らせて、その直後に顔を明るくして、すごく分かりやすい。なんとなく、私も嬉しくなる。

 格上の誰かが友達になろうって時は、同情とかそういった理由が大半を占めているものだと思う。でもアーちゃんは、私のことをちゃんと対等な友達と見てくれているのが分かる。友達なんて初めてだから、なんだか心がぽかぽかしてくる。


「そっか、旅かあ……。すずちゃんさえ良ければ、私のお手伝いでもしてくれないかなって思ったんだけどな」

「あ……。うん。ありがとう……」


 それはとても、とっても光栄なことだけど。私はもう、旅をするって決めたんだ。いつか、妖怪としての生を終えて、あっちに行ってから、おじいちゃんとおばあちゃんと楽しくおしゃべりするために。

 もちろんアーちゃんのお手伝いでも色々とお話できることはありそうだけど、それでも私は、せっかくなら自由に世界を見て回りたい。


「うん。すずちゃんの気持ちを尊重するよ。でも、大丈夫?」

「なにが?」

「この世界、私が言うのもなんだけど、地球以上に危険だよ?」


 科学技術の代わりに魔法技術が発展していて、そしてそれらは多くの場合、下手な科学よりも危険なもので。さらに言えば、地球と違い魔獣と呼ばれる危険生物がたくさん生息していて。


「死ぬよ?」

「…………」


 絶句。声が出ない。山を下りてドラゴンがたくさんいるのもどうかと思ったけど、ドラゴンほどではなくてもそれに匹敵する驚異はたくさんあるらしい。

 もしかしなくてもこれ、旅とか無理じゃないかな……?

 私の表情が沈んでしまったためか、アーちゃんは仕方ないなと笑って、


「ごめんね。脅しすぎたよ。すずちゃん、自分の能力忘れてない?」

「私の能力?」

「うん。ここでも妖怪の能力、姿を消す能力は通用するから」


 アーちゃんが言うには、私も持っている妖怪共通の能力、姿を消す能力はここでも類を見ないほどにすごいものらしい。アーちゃんはさすがに気付くけど、なんとクロスケさんだと気付けないのだとか。

 もちろん姿を消すといっても、実際にその場所から消えてるわけじゃないから、広範囲を巻き込む魔法を使われたら危険だけど。


「そしてそんな時のために、すずちゃんに特別プレゼントをあげる!」

「え……。な、なに?」

「ちょっと待ってね! 今作るから!」


 今作るの!? さすがにちょっと予想外だ。

 そうしてアーちゃんがどこからともなく取り出したのは、白銀に輝く大きな塊。見た感じだと固そうなので、金属なんだとは思うけど、金属に詳しいわけではないので種類までは分からない。


「これはね、ミスリルだよ。地球にはないんじゃないかな。魔力が関わる稀少金属だし」

「そ、そうなんだ……?」


 ゲームではちょくちょく見かける名前だけど、実在する金属ではなかったはず。それがあっさり出てくるなんて、やはり異世界なんだなと実感する。

 アーちゃんがミスリルの塊をちょんちょんと指先で叩くと、塊から細長いものが出てきた。こう、うにょうにょと。アーちゃんがまた指先でそれを叩き、次の瞬間には白銀のペンダントに。

 これが、魔法。少し憧れる。私も使えるようになるかな。


「最後にこれをつけて……。はい、どうぞ」


 アーちゃんに渡されたのは、ミスリルで作られたペンダント。飾りとして淡い青色の宝石がついている。


「ありがとう。この青い石にも、何か意味があるの?」

「うん。召喚石。それを握って私の名前を呼べば、私を召喚できるよ」

「え」

「ちなみにクロスケの魔力も登録しておいたから、クロスケを呼べばクロスケが行くよ」

「え」


 ……え?


 ちょっと待って。普通に、それは、だめなんじゃないだろうか。


「まあ、護身用だよ。でも気兼ねなく呼んでね! ピンチでなくても呼んでね! 待ってるから! すごく、すごーく、待ってるから!」


 あ、これ、時々は呼ばないと拗ねられるやつだ。

 なんだかちょっとやばい物を押しつけられたような気がして、私の頬は自然と引きつっていた。


壁|w・)誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。

ではでは。

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