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壁|w・)視点が変わっています。
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今日は一日雨だと思っていたのに、何故か快晴でした。不思議に思いながらも、私は自分の家、小さな宿の前をお掃除します。
私の家は宿を経営しています。あまり大きな宿じゃなくて、二階と三階に三部屋ずつしかありません。それでも、この街では結構評判は良かったのです。ちょっとした自慢でした。
一階の半分は食堂になっていて、お父さんが朝に狩ってきたものを使った料理を提供していました。そのため値段もあまり高くなく、それでいて美味しいと、たくさんの人が利用してくれていて、私も注文を取ったりとお手伝いをしていました。
忙しいながらも充実した毎日です。いえ。毎日、でした。
それが狂ってしまったのは、一年前から。
お父さんが朝にいつものように狩りに行って、そして戻ってきませんでした。
泊まりで狩りに行く時はいつも連絡してくれます。狩りに行く森も、それほど遠いわけではありません。早朝にお母さんは冒険者ギルドに捜索依頼を出しに行きました。
そしてその日の夕方に、報告がありました。
森の奥で、折れた剣と血まみれの服の欠片が見つかった、と。
その報告を、実際に折れた剣と服の欠片を渡されて、私たちはお父さんを諦めるしかありませんでした。おそらく、魔物に襲われて、殺されてしまったのでしょう。
死体は、見つかっていません。けれどこれは当然のことで、ほぼ間違い無く、食べられてしまったためです。
その日以来、私とお母さんは二人で宿を切り盛りしています。私もお手伝いしています。ですが、どうしても、経営は芳しくありません。
食堂を利用してくれる人は、昔からの常連さんのみになりました。お父さんが狩ってくることができない以上、食材の仕入れ値が高くなってしまって、値段での優位性はなくなっちゃいました。味は、決して悪いというわけではないのですが、やっぱり一流の料理人がいるお店と比べると劣ってしまいます。
宿の方も食堂がそんな状態なので、自然と減っていきます。他の食堂がついている宿の方に行ってしまうのです。私たちの宿を利用してくれる時は、他の宿がいっぱいだった時です。
それでも、できるだけ掃除をしたりサービスに力を入れて、固定客も、少しだけいます。でもやっぱり、利便性にはかないません。宿を利用する人にとって、この街はただの通過点。サービスの質なんてそれほど求めない、とまで言われました。
この先を考えると不安しかありません。お母さんも私に、他の宿へ勤め先を探しに行った方がいいと言ってきます。けれど私は、この宿を捨てたくないんです。大事な大事な、思い出の詰まった家なのです。
どうにか、ここを守るための方法を考えないといけません。そんなことを毎日考えて、今日も考えて、家の中に入ります。
「お疲れ様、シェリル」
食堂の掃除をしていたお母さんが声をかけてくれます。私と同じ赤い髪です。
「他にすることはある?」
「今は特にないわね。部屋の掃除も終わってるし……。遊んできていいわよ」
「えっと……。いいの?」
遊んできていい、というのはとても嬉しいのですが、本当にいいのでしょうか。もっとお手伝いできることがあるなら、した方がいいのでは。
「いいのよ。子供は遊ぶものよ。ほら、行きなさい」
「う、うん……」
こういう時に無理に手伝おうとしても、怒られるだけです。私は街の広場に行くことにしました。
街の広場は、ちょっとした騒ぎになっていました。子供たちがたくさん集まっていて、私の友達もそこにいます。
「どうしたの?」
友達の女の子に声をかけると、その子は私を見て、興奮したように言ってきました。
「旅をしてる子がきたの!」
「え? ん? いつものことじゃん」
ここは大きな街と街の間、中継点になっています。なので、行き来する行商人さんも訪れますし、その子供ももちろんいるものです。
私が首を傾げると、その子は続けました。
「違うのよ! その子、子供二人で旅をしていて、二人ともギルドカードを持ってるんだって!」
「え、それって……」
「そう! 特例持ち!」
特例持ちというのは、そのままの意味です。ギルドから何かしらの特例が与えられている人たちです。ほぼ全てが、良い意味での特別扱いですね。
子供だけで旅をするなんて、普通は認められません。それが許されている時点で間違い無く特例持ちです。私も少し気になりました。
その子と一緒に集まりの中心を見てみると、この街では見かけない服装の二人組でした。一人は私と同い年ぐらい。もう一人は、もう少し幼いでしょうか。子供たちに質問攻めにされて、ちょっと困っている様子でした。
周囲を見てみると、大人もどうしていいのか分からないといった様子です。これは、何となく分かります。本来なら止めるべきでしょうけど、相手は私たちと同じ子供。それならこのままの方がいいのか、考えているのかもしれません。
単純に、特例持ちの子供ということで警戒しているのかもしれませんが。
その後もしばらくはずっとお話をしていたみたいですが、少しすると落ち着いたみたいで、何故かみんなで遊ぶことになっていました。意味が分かりません。
でも遊ぶのは嫌いじゃありません。むしろ好きです。私は友達と顔を見合わせて、お互いに薄く苦笑してからみんなの輪に加わりました。
ゆっくりと太陽が沈みはめたところで、一人、また一人と帰っていきます。旅をしてきた二人、すずちゃんとニノちゃんというそうですが、二人は一人一人にしっかりとさよならの挨拶をしていました。これだけで、とてもいい子というのがよく分かります。
やがて最後に残ったのは、私と友達、あと男の子が一人だけでした。
「そろそろ解散する?」
私の友達が聞くと、そうだね、とすずちゃんが頷きました。鬼ごっこ、というすずちゃんから教わった遊びをずっとしていたのですが、私はもうくたくたです。
「それじゃあ、また遊ぼうぜ」
男の子が手を振って帰っていって、
「あ」
すずちゃんが凍り付きました。不思議そうにニノちゃんが首を傾げます。
「どうしたの? お姉ちゃん」
「宿のこと忘れてた……」
「あ」
今度はニノちゃんが絶句です。
どうやら二人とも、宿を探していなかったようです。てっきり先に見つけているものと思っていたのですが。
宿。それなら私のところに、と言いたいところですけど、どうしましょう。だって、やっぱり便利なところの方がすずちゃんにとってもいいはずです。あとで文句を言われると、ちょっと悲しくなります。
そう思っていたのですが。
「あ、だったら丁度良いわ。この子の家、宿なのよ」
私の友達が私の背中を押してきました。ちょっと恥ずかしい。
「そうなの? だったらお部屋、空いてる?」
すずちゃんも乗り気になっています。これは、泊めてあげないと……!
「あ、あの、ちょっと待って!」
「ん? なあに?」
こてんと、首を傾げて聞いて来ます。仕草がいちいち可愛らしいです。
「あのね、私の家の宿は小さいし、不便だし、ご飯も今ひとつで……。それでも、いいかな……?」
もちろん来てくれた方が嬉しいです。けれど、こうして一緒に遊ぶと何も言わずに自分の家に案内するのはどうかと思ってしまいます。
すずちゃんがじっと見つめてくるので私も見つめ返すと、すずちゃんは楽しそうな笑顔を浮かべました。
「うん。決めた。君の宿に行くね」
あれ? 本当にいいのかな……?
壁|w・)今回のおうち。
誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。
ではでは。




