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01


 拝啓。おじいちゃん。おばあちゃん。私は最初にして最大の試練を前にしました。


 そんなことを頭の片隅で考えながら、引きつった頬をぐにぐにとほぐす。目をこすって、改めて現状を確認して、思わず頭を抱えてしまった。これはひどい。

 私の目の前には、大きなドラゴン、ドラゴン、ドラゴン。いわゆる西洋のあれ。たくさん生息していてびっくりだ。妖怪としての格に当てはめれば、伝説の九尾の妖狐などといった大妖怪がごろごろといる感じ。

 そんな自分よりも格上の大妖怪の群れの中を突っ切れと? いやいや、無理だよこれは。

 半ば呆然としていると、そんな私の前に一際大きいドラゴンが降り立った。


「ようやく山から出てきたか。そろそろ引きずり出そうかと思っていたところだ」

「え……。その、私のことを知ってたんですか?」

「無論だ。この土地を管理しておられる精霊様より頼まれていたからな」

「そう、ですか。知りませんでした」


 精霊様は分かる。私のお願いを聞き入れてくれて、住まわせてくれたあの子のことだ。




 私はおじいちゃん、おばあちゃんの引っ越し先を探して土地神様とか他の神様を訪ねて回ったのだけど、とある神様からこの世界の精霊様を紹介されて、会わせてもらった。見た目は私とそう変わらない人間の子供の姿だったのだけど、間違い無く私よりも圧倒的に格上の子だった。紹介してくれた神様が敬語を使うほどだったし。後になって聞いてみれば、その世界では大精霊と呼ばれる方々が土地神様に当たるらしく、その子がまさにそうだったらしい。最初に説明してほしかった。


 いや、うん。力を隠されていたせいで、私と似たような子だったと思ってしまって。かなり失礼な態度というか、友達みたいな感覚でお話してしまって……。その子は嬉しそうだったし、友達になったんだけど。なってしまったんだけど。それ以来紹介してくれた神様にまで敬語で話されるようになって、どうしてか聞いてそれが発覚して、まさしく肝が冷えた。生きた心地がしなかった。


 ともかく、その精霊様が管理しているこの場所に、精霊様の力で建物ごと転移してもらった。ちなみに私たちのためにわざわざ住みやすい山を作ってくれて、さらには周囲に守ってくれる子たちまで配置してあげるとのことで。

 ああ、つまり。このドラゴンたちが、守ってくれる子だったってわけかな。

 うん。教えてほしかったよ。旅の初日で死ぬ覚悟をしたから。


「えっと……。この山を守ってくれてたんですか?」


 念のためそう聞いてみると、おっきなドラゴンは頷いた。正解らしい。


「そうだ。正確に言えば、精霊様に住処の引っ越しを命じられたのだがな」

「命じ……、強制?」

「うむ。強制だった」

「ごめんなさい!」


 何やってるの!? いや、私のためにしてくれたってことは分かる! 分かるんだけど、後から私が怒られるやつじゃないか!

 背中に冷たい汗を感じていると、おっきなドラゴンは笑ったようだった。


「気にするな。引っ越しといっても、元の住処からそれほど離れているわけでもないし、報酬も頂いている」

「そうですか……。じゃあ、えっと。ありがとうございました」

「うむ」


 私がお礼を言うと、おっきなドラゴンは満更でもなさそうに頷いた。なんだか見かけよりもずっと気さくらしい。怖いと思ってしまったけど、失礼だったかもしれない。


「ただな。人間が亡くなったあとも山に閉じ籠もっていて、精霊様が心配されていた。故にそろそろ引きずり出そうと思っていたのだ」

「あ……。すみません。そうですよね……」


 声をかけてくれたら良かったのに、と思ってしまったけど、あの子は私が山にいる間は関わらないようにするからゆっくり過ごしてねと言ってくれていた。おじいちゃんたちが亡くなった後も、その約束を守っていてくれたらしい。

 ちゃんと謝らないと、と思っていると、唐突に背中に重みを感じた。


「反省してる?」


 そんな、ちょっと高い声。振り返ると、そこにいたのは精霊様だった。精霊様が私に抱きついていた。


「あ、えと、その……。ごめんなさい。ご心配をおかけしました」

「む……」


 あ、ちょっと怒った。不機嫌になった。なんで?


「ねえ、すずちゃん。私たち、友達だよね?」

「えと……。はい」

「なんで敬語?」

「そ、それは、その、大精霊様ですし、あのですね……」

「友達、だよね?」

「あう……。うう……。わ、分かったよ、アーちゃん」

「よろしい」


 にっこりと笑う精霊様改めアーちゃん。改めて思う。すごい子と友達になっちゃったなと。

 アーちゃんはこの側にある大きな大樹、世界樹の精霊だそうで、この周辺の広い土地も管理している大精霊だ。薄緑色の髪は足下まで伸びていて、瞳も同じ色でちょっと神秘的だ。衣服はさらに薄い緑色のローブ。たまにローブの中に髪をかくしてフードを被って、人間の街に遊びに行くのが趣味だと言っていた。

 ちなみに当然だけど名前はアーじゃない。最初の音はアーだけど、あまりに長い名前だから覚えていない。本人も名前なんて覚えなくていいからアーちゃんと呼びなさいと言ってくれた。


「すずちゃんはちっちゃくてかわいいなあ! なでくりしちゃう!」

「いや、アーちゃんも見た目変わらないよね!?」

「年齢も含めてだよー」

「年齢言われると、まあ、うん……」


 私が座敷童として生まれてからそろそろ五百年。それなりに長く在ると思っているけど、アーちゃんと比べるとかなり若い。だって、アーちゃんはこの星が作られてから間もなくに神様に生み出されたらしくて、その年齢は億単位だ。アーちゃんから見れば私は赤ちゃんもいいところだ。

 でもだからこそ。アーちゃんは対等な存在がいなくて、すごく寂しかったらしい。だから、知らずとはいえ対等な相手として話してしまった私がすごく新鮮で嬉しかったと言っていた。


「精霊様」


 おっきなドラゴンが声をかけると、アーちゃんがおっきなドラゴンに視線を向けた。


「なによ、クロスケ。体ばっかりでっかくなりやがって。私はとても不満です」

「それは、その、大変申し訳なく……」


 クロスケと呼ばれたおっきなドラゴンが動揺している。改めて、格の違いを思い知る。本当に、私の友達はすごい精霊だ。


「クロスケ?」

「そう。この子の名前。私がつけてあげたの!」

「あ……、そう、なんだ……」


 クロスケさんを見る。哀愁の漂う目でこちらを見ていた。何も言うな、触れてくれるな、という意志が感じられた。私の友達はネーミングセンスが壊滅しているらしい。

 確かにクロスケさんの鱗は真っ黒だけど、クロスケって。私が言うのもおかしいけど、クロスケって。


「どうしたの?」


 アーちゃんが首を傾げて聞いてくる。私は笑顔で何でも無いと返事をするしかできない。ごめんね、クロスケさん。私には何もできないよクロスケさん。だから頑張ってねクロスケさん。

 同情と、あと少し面白くて心の中で名前を連呼していると、背中に感じていた重さがなくなった。アーちゃんが私の手を取って歩き始める。どこに行くのかな?


「あの、アーちゃん?」

「お茶会しましょう! ずっと待ってたからね!」

「あ……。うん」


 アーちゃんの考えが分からないけれど、別に急ぐ旅でないのも事実。久しぶりに会った友達とお話するのもいいかもしれない。


壁|w・)こんな感じで続いていきます、よ。


誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。

ではでは。

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