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どうしたのかな。試しに手を握ってみると、強く握り返してきた。もしかして、怖いのかな?
「大丈夫だよ、ニノちゃん。クロスケさんは優しいドラゴンだから」
「う、うん……」
頷いてはくれたけど、ぎゅっと私にしがみついてくる。まあ、言葉で納得できるなら、最初からこんなに怖がらないかな。
仕方がないので到着まで抱きしめてあげよう。ほらほら、怖くないよ。
「クロスケさん、お願いします」
「うむ」
未だ飛び上がってすらいないのは、きっと気を遣ってくれていたんだと思う。私がお願いすると、クロスケさんの体がゆっくりと宙に浮いた。
「行くぞ」
そしてその直後、クロスケさんの体が急加速した。到着まで、多分一時間ほど。それまでに慣れるかな。無理だろうな。
結論を言えば、慣れた。
「えー。もうちょっと空の散歩がしたい!」
「悪いが、これ以上先まで飛ぶと人間が警戒するのだ」
クロスケさんの背中で文句を言うニノちゃんと、どこか困ったような様子のクロスケさん。
ニノちゃんは十分ほどで慣れてしまって、その後は流れていく地上の景色を楽しんでいた。クロスケさんにも慣れて、鱗すべすべ、なんて言って撫でてたりしていたものだ。あまりに早い変わりように、私だけでなくクロスケさんも驚いていた。
空の旅は一時間ほどで終了。今日しっかり歩いて、明日の昼前には街に戻れる予定だ。だから早めに出発したいんだけど、ニノちゃんは空の散歩が気に入ってしまったらしい。ちょっとだけ膨れている。
「ニノちゃん。我が儘言ったらだめだからね? 街の人も怖がるから」
「むー……。はーい……」
不思議なことに、私が言うと素直に聞いてくれた。クロスケさんの尻尾で地面に下ろされる。無事に下ろしてくれた後、クロスケさんは気をつけてな、と短い言葉を残してさっさと飛び去ってしまった。
これ以上ニノちゃんに絡まれるのを嫌がったのかもしれない。でも私、知ってるよ。満更でもなさそうだったって。普段怖がられてばかりだから、嬉しかったんだよね。
「じゃあニノちゃん、歩くよ」
「はーい」
ニノちゃんの手を引いて、私たちは南へと歩き始めた。
想定外のことが一つ。ニノちゃんの体力がすごい。一緒に夕方まで歩いていたんだけど、疲れて休むどころか、ちょろちょろと走り回っていた。あとで話を聞いてみると、危ないものがないか見に行ってくれていたらしい。それに加えて獣人っていうのは人間以上に体力がある種族なんだって。
「そっか。ありがとう、ニノちゃん。なでなでしてあげる」
「わーい」
夕方。ニノちゃんの話を聞いた私はニノちゃんを撫でて褒めてあげる。にこにこ嬉しそうで、尻尾もふりふりしている。
「でも、私の目の届く範囲にはいてね」
「うん。お姉ちゃんを守れないからね」
「え?」
「え?」
あ、あれ? 私が守ってあげる立場だったはずが、たった一日で逆転してる……?
「あのね。お姉ちゃんが守ってくれるから、私もお姉ちゃんを守ってあげるの」
「ああ、なるほど。そういう……」
良かった。私が変なことをしたのかと思った。
「ありがとう、ニノちゃん。もっとなでなでしてあげる」
「耳を触りたいだけじゃ……?」
「否定はしない」
だってもふもふだし。動物が好きだから。特にかわいい動物は大好きだから。
ニノちゃんは仕方ないなあと笑いながらも、体をすり寄せてきた。撫でてあげると尻尾をふりふり。……尻尾も触りたい。だめかな?
日が沈む前に休む準備をしないと。
リュックからテントを取り出して、ニノちゃんに手伝ってもらいながら組み立てる。このテントは大きさはそれなりだけど、組み立てはすごく簡単だ。ニノちゃんもこのテントには驚いていた。
ニノちゃんの反応を見ていると、改めて思う。技術の進歩ってすごいな、と。私が生まれてから、後半以降の百年ほどですごい進歩をしたから、この世界でもそういったことが起こり得るかもしれない。
と思ったけど、魔法という地球にはないものもあるし、そうとも言えないのかな。難しいことは分からない。
組み立てた後は、テントの中に布団を敷く。寝袋じゃなくて、布団だ。小さい布団とはいえ、二つ敷くとかなりぎりぎりだった。というより、少し足りてない。端っこがちょっと折れてるけど、まあいいか。
それにしても、テントにお布団。
「すごく違和感があるなあ……」
「そうなの?」
「そうなの」
私もテレビで見ていただけだから、何となくそう感じるだけだけど。最初歩いた時はまず寝てなかったし。
寝ると気持ちいいけど、それだけだ。私たち妖怪は眠る必要がないから、ニノちゃんがいなければまた夜通し歩いていたと思う。
それに、ニノちゃんもいるんだから、警戒はいつも以上にしないといけない。
「明日には街につくから、今日はクッキーで我慢してね」
「うん。美味しいから平気だよ」
クッキーを手渡すと、かりかりとかじり始める。なんだか小動物みたいだ。見ていて癒やされる。
晩ご飯のあとは、就寝。
「それじゃあ、ニノちゃん。ゆっくり寝てね」
「お姉ちゃんは?」
「私は寝なくても平気な種族だから、見張りをするよ」
この近辺には盗賊とかはいないと思うけど、それでも野生の動物はいる。ニノちゃんの安全のためにも、やっぱり見張りは必要だ。
ニノちゃんもそれは分かってるはずなのに、納得はできないみたいで、頬を膨らませていた。
「むう……」
「そ、そんな顔をされても……」
こればっかりは私に何を言われても、どうしようもない。誰かが見張りをしないといけないわけだし。
「ごめんね。街では一緒に寝てあげるから」
「うん……」
ニノちゃんは小さく頷くと、テントの中に入っていった。
ちょっとだけ、罪悪感を覚える。できれば一緒に寝てあげたいんだけどね……。街に戻ったら、甘やかせてあげよう。
壁|w・)のんびりな旅路。(ただし前半を除く)
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ではでは。




