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 お風呂の後はご飯だ。炊きたての白米に焼き鮭とお味噌汁。ついでに、唐揚げ。

 お箸は当然ながら使えないみたいだから、スプーンとフォークを渡してあげる。お魚は私が手早く骨を取っておいた。……お皿の隅に置いておいた骨をぼりぼり食べ始めたのを見た時は少し驚いたよ。さすが獣人さんだ。


「美味しかった……。お姉ちゃんはコックさんなの?」

「違うよ。素材が良かっただけ」


 全てが日本産だ。この世界ではあり得ない品質だったと思う。

 ちなみにアーちゃんが買ってきたみたいで、気付いた時には台所のテーブルに置いてあった。ニノちゃんを引き受けたお礼の一つ、らしい。

 食べ終わったら、お茶を入れてのんびり寛ぐ。

 畳はやっぱりいいなあ。何がいいって、こう、ごろごろできるのがいい。ごろごろ。


「ごろごろー」


 真似された。教育上良くないことのような気がしてきた。いや、でも、うん。日本だと当たり前だね!


「ごろごろー」

「ごろごろー」


 畳はやっぱりいいものだ!




「そろそろ真面目な話をしようかと思います」

「はい」


 日が沈んですっかり暗くなってしまった山の中、電気をつけてお話です。ちなみに電気はもちろん、雷の精霊さんが出力を調整して提供してくれている。めらめらがんばる! と言ってくれたけど、めらめら……? 問題なく使えてるから、大丈夫なのかな。

 ニノちゃんと向かい合って、座る。私が正座で座ったからか、ニノちゃんも正座だ。私は慣れてるからいいけど、大丈夫かな。足痛くならないかな?


「足痛くなったら、崩して座っていいからね?」

「……?」


 あ、これ、分かってない。……まあ、いっか。あとでつんつんしてあげよう。

 今はとりあえず、お話だ。


「ニノちゃんは、自分が置かれている状況は理解してる?」


 酷なようだけど、確認しないわけにはいかない。じっとニノちゃんを見つめると、ニノちゃんは小さく頷いた。ちゃんと、理解してるらしい。少し泣きそうになってるけど、頑張って耐えてくれている。偉い。


「うん……。それでね。ニノちゃんに選んでほしいの」

「何を……?」

「これから、どうするか」


 私から提示できる選択肢は三つだ。

 一つは、近くの街に保護を願い出ること。私も少し生活しただけだけど、あの街は住人さんも優しい人が多くて、頼りになると思う。ちらっと聞いただけだけど、孤児院もあるらしいから、大人になるまでは面倒を見てくれるはずだ。

 もう一つは、この家に住むこと。アーちゃん曰く、拾ってしまった責任もあるし、大人になるまでは食料とか提供してくれるらしい。ただし、十五歳になったら打ち切ると言っていた。さすがに一生面倒は見られない、と。鍛えてはくれるらしいから、冒険者を目指すしかなくなるのかな?


「最後の一つだけど……」

「うん」

「私と一緒に来ること、かな?」


 きょとん、とニノちゃんが首を傾げる。仕草がいちいちかわいい。ちっちゃい子がこの家にいたことを思い出す。


「私は、この世界を旅しようと思ってるの。それについて来てもいいよ。安全を保証できるわけではないけど、故郷か両親を探すことはできると思う」

「あ……」


 ニノちゃんが、呆然と私を見つめてくる。じっと、まっすぐに。


「探して、いいの?」

「うん。でも、手がかりがないから、私の旅のついでになるよ。それでいいなら」

「もう……諦めないといけないと思ってた」

「ん……。大丈夫だよ」


 アーちゃんの前で一度取り乱して、それで少し整理ができたのかな。なんだか少し無理に明るく振る舞っているみたいだったから、気になっていた。


「探したい……。帰りたいよ……」


 子供なんだから、当たり前の感情だ。子が親を求めるのは、当たり前だ。


「じゃあ、一緒に行こっか」


 私がそう言うと、ニノちゃんは何度も頷いていた。




 翌日。あったか布団からニノちゃんを引っ張り出して、荷物を纏める。ニノちゃんはお布団が気に入ったみたいで、それはもうすごく名残惜しそうだった。お布団は気持ちいいからね。とても分かる。分かるけど我慢だよニノちゃん。

 分かるからそんな目で見つめないで! そんな、そんな物欲しそうな、おねだりの目は……! 分かったよ持って行くからそれでいいでしょもう!


 リュックはたくさん物を入れることができる、おばあちゃんと世界樹の精霊様謹製の逸品だけど、残念ながら口は広くない。仕方ないのでアーちゃんに相談したら、リュックがパワーアップした。口に近づけたら吸い込むようになりました。怖い。

 試しにお布団をリュックの口に近づけると、勢いよく吸い込まれていった。ずぼっと。いや、ずりゅっと。そんな音が聞こえた気がした。さっきまでお布団を持って行けると喜んでいたニノちゃんが本気で怯えている。私も怖い。ちょっとした凶器だ。

 でも便利なのは事実なので、他にもいろいろと入れておいた。私の分のお布団に、倉庫にあったテント。他諸々。いずれ整理しないといけないかな。


「よし、それじゃ、行こう」

「うん!」


 満面の笑顔で頷くニノちゃん。なんとなく心がぽかぽかあったかくなる。思わず頭を撫でると、ニノちゃんは嬉しそうに頬を緩めた。本当に、かわいい。

 ニノちゃんには特徴的な狐の耳がある。昨日まで汚れていてかわいそうなことになっていたけど、洗った結果、とてもふわふわな毛玉になっていた。もちろん、尻尾も。その耳もちょっとだけ触る。もふもふ。


「お姉ちゃん、くすぐったいよ」

「もうちょっと」

「仕方ないなあ」


 呆れたようなニノちゃんの声。いや、だって、この手触り、すごくくせになる……。

 ニノちゃんにとってはちょっとくすぐったいだけらしい。昨日は尻尾に触らせてもらったけど、こちらもすごくふわふわもふもふだった。至福だったよ。


「何をやっているんだ……」


 ふと、上空から声が聞こえてきた。そこにいたのはクロスケさんだ。ちょっと視線が冷たい気がする。気のせいだと思いたい。


「精霊様よりお前たちを南の街まで連れて行くように言われている」


 クロスケさんはそう言うと、私とニノちゃんを尻尾で回収して、その背中に乗せてくれた。クロスケさんが送ってくれるなら、あっという間に街の近くに行けるはずだ。徒歩だとまた一週間、ニノちゃんがいること考えるとそれ以上かかるから、すごく助かる。

 そこでふとニノちゃんが気になった。なんだかすごく静かなような。


「ニノちゃん?」


 振り返ってニノちゃんを見る。口をあんぐりと開けて凍り付いていた。


壁|w・)つんつんは描写していませんが、やっています。ご想像にお任せします……。


誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。

ではでは。

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