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「いや、呼んでよ」


 街を出て、最初の夜。大きな木の下で休む前に、アーちゃんを呼んでお話しておこうと思ったら、怒られた。睨まれてるってわけじゃないけど、感情のない顔で見つめられると、ちょっと、怖い。


「えっと……。あ、あはは……」

「…………」

「…………。ごめんなさい」

「もう」


 アーちゃんがため息をついた。いや、でも、こんなことで呼び出すのはちょっと気が引けるというかですね……。


「遠慮しなくていいから、もっと頼ってね?」

「うん……。ありがとう、アーちゃん」

「いえいえー」


 アーちゃんの顔に笑顔が戻る。良かった、やっぱりアーちゃんは笑顔が一番だ。


「で、魔力結晶だよね」

「うん。何か分かった?」

「それじゃないかな、と思うのはあったみたいで、明日あたりにクロスケが持って行くつもりだったんだよ」


 あれ。じゃあ私、わざわざ街を出る必要なかったのかな。いやいや、クロスケさんが直接街に来ると大

騒ぎになる未来しか見えないから、良かったはずだ。うん。きっとそうだ。


「ただ、ねえ……」

「なに?」

「えっと……。いっか。明日、直接話すよ」


 なんだかすごく言い辛そうだ。深刻なわけでもないけど、話題に出したくないといった感じ。余計に気になるんだけど。

 ともかく、明日の朝にクロスケさんが迎えに来てくれるということで、その後に直接会って話すことになった。




 翌日。迎えに来てくれたクロスケさんの背中に乗せてもらって、向かった先はすごく、すごく大きな木。アーちゃんが守る世界樹だ。

 この世界樹が世界全ての魔力を生み出していて、もしも何かがあってこの木が焼け落ちると、この世界は滅びてしまうらしい。具体的に言えば、生き物の住めない世界になっちゃうのだとか。


 万が一にもそうならないように、アーちゃんはその力の大半を世界樹を守る結界や癒やす能力に使ってると聞いた。九割ぐらい、だって。残り一割でクロスケさんより強いらしいから、アーちゃんの規格外っぷりがよく分かる。

 うん。やっぱり。


「アーちゃんって化け物だよね」

「開口一番に罵倒された!?」


 世界樹の麓、大きな根っこに腰掛けているアーちゃんを見ての私の一言に、アーちゃんが愕然として、クロスケさんはぎょっとした後距離を取ってきた。何かに巻き込まれないようにするみたいだ。


「残り一割の魔力でクロスケさんより強いって聞くと」

「これでも長く生きてるから。すずちゃんも一億年ぐらい生きたら、クロスケより強くなれるよ?」

「途方もなさすぎて実感が湧かないよ」


 一億。想像もできない。さすがにそこまで在りたいとは思わないけど、でもアーちゃんが寂しがることを思うと、それもまたちょっと嫌だ。まだまだ先の話のはずだから、急がなくてもいいとは思うけど。


「ところですずちゃん。魔力結晶だけど、これでいいかな?」


 そう言ってアーちゃんが足下を指し示す、そこには黒っぽい青色の石があった。なんだか仄かに光っているような気もする。

 ミルカさんが言っていた意味が分かった。他のものとはまるで違う、あり得ないほどの魔力をため込んでいることが分かる。少しずつ外に漏れ出ているほどだ。これは、危険を冒してでも手に入れたいと思うのも分かってしまう。


「わあ……。すごい。これが魔力結晶」


 不思議なことに、魔力結晶は綺麗な玉の形をしていた。手に取ると、一切の凹凸がないのが分かる。アーちゃんが危なくないように加工してくれたのかな? そんなこと気にしなくてもいいのに。


「あ、先に言っておくと、私は加工とかしてないから」

「え」


 元かららしい。え、待って。なんでこんな形になるの? あり得ないと思うんだけど。


「まあ、これは、その……。石じゃないからね……」

「そうなの? こう、ドラゴンさんたちの魔力をたっぷりと吸い取った石とか、そう思ってたんだけど」

「あははー。違うんだよー」


 アーちゃんが目を逸らす。すごく、言い辛そうに。なんだろう、ちょっと嫌な予感がする。そう言えばアーちゃんは、これを触ろうとはしていなかった。それに、何か意味が……。


「うん。まあ、あれだよあれ。……ドラゴンの糞」

「…………。なんて?」

「ドラゴンの糞」

「うわ汚い!」


 思わず取り落とした私は悪くないと思う。糞って。糞って!


「安心するがいい。糞と言っても、純粋な魔力の結晶だ。汚くはない」

「そういう問題じゃないよ!」


 クロスケさんはそう言うけど、安心なんてできない。まさかだよ。いや、こう、もしかして、という考えもなかったと言えば嘘になるけど。それでも本当に糞だとは思わなかった。思いたくなかった。


「ほ、本当に汚くないの……?」


 さっき思いっきり触ったから今更だけど、好きこのんで糞に触りたいわけじゃない。あ、でも、これを持って帰ってフロイちゃんが助かるなら、これぐらい我慢するけど……。


「これ、本当になんなんですか?」

「ふむ。まずは我らについて軽く説明しておかなければならんな」


 というわけで。クロスケさんによるドラゴン講義が始まりました。

 ドラゴンというのは、ほとんど実体のない精霊たちの代わりに働くらしくて、精霊に限りなく近いものらしい。彼らは生きるために食べることを必要とせず、代わりに周囲の魔力を取り込んで栄養としているんだって。


 でも中には、娯楽として食べる子もいるんだとか。食べたものは全て魔力に分解されて、蓄えられる。その蓄えられたものが溢れそうになったら、魔力を石みたいな塊にして体外に出すんだそうだ。

 うん。糞だ。


「えっと……。汚くは、ないんだよね?」

「それは安心するといい。むしろ綺麗なほどだぞ」

「そ、そうなんだ……」


 はいそうですかと納得はできないけど、でもこだわっていても仕方がない。これがあれば、フロイちゃんの病気は治るんだ。それでいい。うん。


「アーちゃん。これは持って行ってもいいの?」

「うん。もちろん。改めて探してみたら、大量にあるものだったし」

「あー……。そう、だよね」


 一部のドラゴンとはいえ、食べると出てくる魔力結晶。人間にとっては有用でも、それを生み出すのがドラゴンだから取りに来ることは難しい。食べ残しみたいに勝手に腐敗して土の栄養になるようなこともなく、ずっと石として残るならそれはもう、増えていく一方だろうとは思う。


「定期的に空気中に魔力として溶かすことはあるらしいよ。でも今はたくさんあったから、一つと言わず二つでも三つでも。十個でも二十個でも」

「さ、さすがにそんなにいらないかな……?」


 でもこれはいざという時に有用かもしれない。ちょっとだけ、多めにもらっておくことにした。何も知らなかったら綺麗な石だしね。そう、石だよこれ。綺麗な石。それでいい。


「そうそう。私もすずちゃんに相談したいことがあるの」


 少しだけ驚いた。アーちゃんから私に相談なんて、あり得ないと思ってた。でも、いつもお世話になってるし、少しでも恩返しはしておかないと。


「なに?」

「うん。これ、引き取ってくれないかな? ちょっと対処に困ってて」


 そう言って、アーちゃんが空間魔法で取り出したものは。

 女の子だった。


「…………。なんで?」


壁|w・)お食事中だったらごめんなさい。


誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。

ではでは。

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