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「それじゃあ、そんなすずちゃんに耳寄りな情報だ」
「はい。何でしょう」
「聞いてると思うけど、お昼からも別の子たちを引率する。参加するかい?」
「え。それって、いいの?」
「もちろん」
一応は働ける年齢だしね、とクロスさんが笑う。参加できるなら、是非とも参加したい。そうすれば、儲けは二倍だ。二倍と思うとすごく多く感じる。
「やります!」
「うん。それじゃあ、昼からもよろしくね」
今度はもっと頑張ろう!
お昼の儲けは銀貨二枚だった。ちょっとだけ増えたね。
ケイトさんは別の採取の依頼でもいいと言ってくれたけど、しばらくはこの依頼を続けようと思う。ミルカさんが薬草に詳しい人で、聞けば色々と教えてくれるのだ。採取もあるので長時間は無理だけど、少しずつ教わっていこうと思う。
依頼の後は、迎えに来てくれたフロストさんと一緒に帰宅。出迎えてくれたフロイちゃんの笑顔がすごく眩しい。何をしてきたのか聞かれたので正直に答えると、定番だなとフロストさんは頷いていた。
起床して、朝ご飯。ギルドで依頼を受けて採取をして、夕方にフロストさんと帰宅してフロイちゃんと遊ぶ。その後に、フロイちゃんと一緒に寝る。この繰り返しを十回ぐらい続けて、そろそろ別の依頼も受けてみようかなと思い始めた頃。
フロイちゃんが、泣いてしまった。
フロストさん曰く、時折ある癇癪のようなものらしい。いつも一人寂しく家で過ごしているためか、時折すごく不安になって泣いてしまうんだとか。
考えてみれば、当たり前だ。フロイちゃんみたいな幼い子供が、ずっと一日家にいる。何もせずに本ばかり読んでいると、不意に将来のことを考えてしまうそうだ。
この先、どうなるのかな、って。
不安だと思う。外のことを知ることなんてほとんどなくて、ただお父さんと一緒に過ごすだけの日々。そのお父さんも、兵士さんだ。当たり前だけど、何かの事件に巻き込まれていなくなる可能性もあるんだ。それを少しでも考えると、不安に押し潰されそうになってもおかしくない。
実際のところは、フロストさんに何かあった時はあの優しい兵士さんたちが面倒を見てくれることになっているらしいんだけどね。でも、そんなことはフロイちゃんは知らないし、知っていたとしても、フロイちゃんには関係ない。フロイちゃんのお父さんに代わりなんていないから。
でも、根本的な解決方法なんて、フロイちゃんの病気を治すことぐらいだ。フロストさんたちには、どうしようもできない。
だから。
「ミルカさん。ちょっと教えてください」
私は、薬草採取に行く前に、ミルカさんに声をかけた。今日は休むということもついでに伝えておく。
「すずちゃん? どうしたの?」
「ちょっと聞きたいことがあって……。魔力結晶ってどんなのかなって」
北の平原にあることしか知らなくて、さらにはアーちゃんですら存在を知らない稀少鉱物。鉱物かどうかすら分からないけど。
フロイちゃんのために、探しに行こうと思う。私が取り憑く家じゃないけど、それでもやっぱり、私だって情ぐらい湧く。まだ生きることを諦めるには幼すぎる。そう思うから。
「どんなって聞かれると困りますけど……。決まった形はないですね。濃いめの青色ではあります。でも、よっぽどのことがない限り、見れば分かりますよ」
「そう、なんですか?」
「はい。それそのものが魔力の結晶のようなものなんです。魔力を一切感じ取れないならともかく、少しでも感じられるなら絶対に分かります」
そこまでなんだ。それをどうやって薬にするか分からないけど、でもとりあえず探しに行ってみよう。大丈夫、きっと見つかる。見つけてみせる。
「でも、どうしてそんなことを聞くんですか? もしかして……」
「気になっただけですよ。それじゃ、今日はちょっと用事があるので、失礼します」
ぺこりと頭を下げて、ミルカさんから逃げる。なんだか勘づかれたような気がするけど、明言はしてないからきっと大丈夫。
次はそのままギルドの受付でケイトさんに会う。
「ケイトさーん」
「はーい。どうしたのすずちゃん」
呼ぶとすぐに来てくれた。何をしていても最優先で対応してくれるのはありがたいけど、ずるをしているような気がしてしまう。気がするじゃだけじゃないけど。この際だから利用できるものは全て利用する。
「紹介状、ください」
「え。え……? ええ!? 行っちゃうの!?」
「んー……?」
何だろうこの反応。この、なんだろう? すごく驚かれてるけど……。
「もしかして、渡さなければ、なし崩し的にこのまま居座るだろうとか、思ってました?」
「…………」
すっと目を逸らされた。図星らしい。
声をかけてくれないな、いつもらえるのかな、と思ってはいたけど、そんな思惑だったんだね。いや、いいんだよ? 頼りにされて嬉しくないわけがないし。いや、頼りにされてるわけでもなさそうだけど。
「ちょっと北の平原に行きたいんです。でも一人で行くには、紹介状がいるんですよね?」
「ああ、そういうことね。魔力結晶目当て? フロイちゃんの」
私がフロストさんの家に居候していることを知っている人は実は多い。毎日フロストさんが迎えに来てくれるからなんだけど。どうしてかと聞かれた時に、私がお世話になってるって答えたし。だからケイトさんも、私の目的にすぐに思い至ったんだと思う。
「そうです。他の人には秘密にしてください」
「もちろんよ。ちょっと待っててね」
そう言って、ケイトさんは奥のガントさんの部屋に向かう。すぐに戻ってきて、私に便せんを差し出してきた。受け取って、広げてみる。なんだか長い文章が書かれていた。読めないんだけどね。そろそろ文字も覚えたいな。
「ありがとうございます」
「いえいえ。気をつけて行ってきてね。……私が言うのもおかしいかもしれないけど、よろしくね」
フロイちゃんの病気は珍しいらしくて、この街でも有名だ。だから、みんなが気に掛けてる。フロイちゃんはそのことに全然気付かないけど。
頑張ります、とケイトさんに告げて、私はギルドを後にした。
そのまま、寄り道せずに東門へ。北は、間違い無く呼び止められるから。いや、東も変わらないかもしれないけど、北よりはましだと思う。
門番の兵士さんに紹介状を見せると、目を丸くして驚いていた。私みたいなちんちくりんが紹介状を持ってることに驚いたらしい。そう言っていた。
ちんちくりんとは失礼な。ちっちゃいけど。ちっちゃいけど、ちんちくりんって。……拗ねてない。
ともかく、紹介状の効果はすごくて、あっさりと通してくれた。ありがとうガントさんにケイトさん。でももっと早く欲しかったな。文句は言わないけど。言えないけど。
さて。頑張って歩こう!
……クロスケさん呼んだらだめかな? だめだよね? ……分かってる。歩くよ……。
壁|w・)子供の涙に弱い座敷童。
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ではでは。




