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私の顔が引きつっていたせいか、ミルカさんが説明してくれた。
曰く、この辺りは世界樹の魔力が濃く届く場所らしくて、植物がよく育つらしい。特に薬草はその性質から魔力をよく蓄えるために成長が早いのだとか。
「この辺りの薬草はとても質が良くて、ここで作るポーションも自然と質が良くなります。効果もそうですし、日持ちもします。しっかり封をしていれば、それこそ十年ぐらいは使えるそうですよ」
「十年って、すごいですね」
「はい。なのでこの街の特産品はポーションと言えます。ここで作られたポーションはいろんな場所に出荷されていくんです」
それだけの需要があるからこそ、二日程度で生えてくる薬草を頻繁に採取して大量のポーションを作ったとしても、無駄になることがないらしい。誰が取ってもそうそう品質が変わるものでもないので、この街の子供たちの良い小遣い稼ぎになるのだとか。
「なので遠慮無く、たくさん採取してくださいね」
「はーい」
そう言うことなら遠慮無く、たくさん取らせてもらおう。旅の資金のためにも。
朝からの採取は昼前に終わることになった。あまり遠くに行きすぎると危険だからだ。門の前なら、クロスさんとミルカさん以外にも、門に立つ兵士さんが見守ってくれるから安心安全なのだとか。
ちなみに昼からは、採取に慣れた人がもう少し離れた場所でやるらしい。その引率もクロスさんたちがやるらしくて、私たちをギルドまで送ったら休憩なんだって。引率とはいえ、大変な仕事になってる気がする。
クロスさんが背負っている大きなかごに集めた薬草を全部入れる。誰がどれだけの量を入れたかは、ミルカさんが管理しているらしい。
荷物を片付けて、門へと向かおうとして。
「あ、馬車だ」
子供の声。振り返ると、馬車がこちらへとゆっくり走ってくるところだった。大きな幌馬車で、それが三台ほど並んでいる。行商人かな?
「あれは……」
クロスさんの表情が曇った。ミルカさんも、顔を歪めている。なんだろう。
「みんな、見ないように。馬車が通り過ぎてから帰るからね」
はい、とみんなが返事をして、馬車が通り過ぎるのを待つ。クロスさんに言われた通りに、子供たちは視線を逸らして、子供たちで話をしていた。
私は、好奇心に負けて、その馬車をずっと見ていた。
ただの幌馬車。それ以上でも以下でもない。けれど、なんとなく、すごく澱んだ空気を感じる。
「あの、ミルカさん。あれは?」
私が問いかける、クロスさんもミルカさんも苦虫を噛みつぶしたような表情になった。
「あれは、奴隷商人だよ」
「奴隷……」
「そう。といっても、あれは犯罪奴隷の馬車だけどね」
馬車が通り過ぎて、ギルドへと向かいながら、クロスさんは教えてくれた。
この世界の奴隷は、犯罪をしたり借金が返せなくなって身売りした人がなるそうだ。犯罪した人は罪の重さによって、身売りした人は借金の額によって奴隷となる期間が変わるんだって。
契約で縛られているから危なくはないらしいけど、それでもあまり子供が見るものじゃないという認識みたいだ。見て気持ちが良いものじゃないから、それは仕方ないかもしれない。
「それが普通の奴隷の場合だよ」
「普通?」
「そう。裏の奴隷もある。これらは明確に犯罪だ」
人攫いに攫われた人が行き着くのが、違法奴隷らしい。当然だけどかなり重い犯罪らしくて、発覚すれば死罪が確定するのだとか。
捕まる人は後を絶たないらしいけど、それでも違法奴隷はなくならないらしい。理由としてはやっぱり儲かるから、なんだろうね。
私が間違われたのも、この違法奴隷なんだと思う。話を聞いてみると扱いも悪いらしいから、心配もされるわけだ。私にとっては不本意な間違いだけど。
「言い方は悪いけど、奴らにとっては奴隷は商品だから、身なりは整えられるんだ。だから余計に見つからない。毎年捕まる人はいるけど、もっと大勢の奴隷商人がいると言われてるね」
「なるほど……。嫌なお話をさせてごめんなさい」
「いやいや。覚えておいて損はないからね。身を守るためにも、知識は大事だ」
そう言って、クロスさんは笑ってくれた。優しい人で良かった。
「ところでクロスさんはやってませんよね?」
「ははは。間違われたことならある」
「え」
これは予想外の返答だ。どういうことなんだろう?
「借金を踏み倒した人を捕まえてほしいっていう依頼を受けて、実際に捕まえて連行したんだけど、それを勘違いされてね……。ギルドに正式に通された依頼だから笑い話で済んだけど、君も将来気をつけた方がいい。個人的に受けてしまった依頼だと、冤罪で裁かれかねないから」
「き、気をつけます……」
ギルドって大事なんだな、と実感しました。人間怖い。
ギルドに帰ってきたら精算だ。ミルカさんが受付に行って、かごの薬草を渡しに行く。私も今後のために、つまりは別の街で依頼を受けた時のために見学させてもらう。ミルカさんには興味があるとしか言ってないけど。
ミルカさんが薬草を渡すと、受付の人が重さを確認していく。薬草は数よりも重さが重要らしい。理由を聞いてみると、煎じるから重さが大事なんだとか。
重さを確認した後はそれに応じて報酬が支払われる、という流れなんだけど、今回は子供たちの人数やそれぞれの重さで報酬を小分けにしてもらうらしい。その手間賃はギルドが負担するからクロスさんの引率代も変わらないとのことだ。
小分けにされた報酬がお盆に載せられて、ミルカさんに手渡された。そのままみんなが待つテーブルに移動。そこで改めてみんなに手渡されることになる。
というわけで。ミルカさんから私の報酬をもらった。えっと、銀色の硬貨が一枚と、大きな銅貨、かな? それが五枚。
硬貨の価値だけど、実はこれは知っているのだ。私だって知らないばかりじゃない。この世界に来る時にちょっとだけ教えてもらったのだ。
貨幣の種類はほとんどが硬貨。種類は、銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨だ。さらにその上に紙幣があって、偽造防止で複雑な魔法が使われているのだとか。貴族しか使わないらしいけど。
ちなみに大金貨はない。あると思ったのに。
貨幣はそれぞれ十枚で一つ上の貨幣になって、価値は物価が違うから何とも言えない。銅貨は十円ぐらい、だと思うんだけど、これもやっぱり大雑把なので何とも言えない。日本ほどしっかりと貨幣の価値が決められてるわけじゃないのだ。
まあつまり何が言いたいのかと言うと。報酬はやっぱりちょっと少ない、かな? 誰でも、それこそ子供でもできる依頼なんだから仕方ないんだけど。
「思ったより少なかったって顔だね」
クロスさんが私に言う。多分、最初はみんな同じ顔をするのかもしれない。私も否定せずに、頷いておいた。
「でも、こんなものとも思ってます。誰でもできる依頼ですし」
「もっと良い薬草を探しに行けば報酬も増えるけど、僕達もこの人数を守れなくなるからね。もう少し、大人になって自衛の術を身につけたら、そういった依頼を受けるのもいいと思うよ」
うん。普通はそうだと思う。子供にとっては、家の家計の足しとか、そういった目的だと思うし。でも私は、旅の資金が欲しいし、フロストさんに宿代ぐらいは支払いたい。そう思うと、やっぱりもう少しお金は稼ぎたいかな……。
壁|w・)奴隷と貨幣の説明回。
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ではでは。




