表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/51

12

 受付を見ると、昨日と同じようにケイトさんと目が合った。


「いらっしゃい、すずちゃん」

「お邪魔します。依頼って受けられますか?」

「ええ。ちょうど良かったわ。もうすぐ子供たちが薬草の採取に行くの」


 少しだけ驚いた。人が少ないから、もうみんな依頼を受けて出かけた後だと思っていた。私の表情から考えを察してくれたみたいで、ケイトさんは薄く笑って部屋の隅を指差した。

 そちらを見ると、昨日も見かけた子供たちが集まっていた。十人ぐらいの子供たちで、あとは大人が二人。薬草の採取は大勢で行くみたいだ。


「街の外は魔物もいるからね。薬草の採取は街の近場で行うのだけど、ああして三等級の冒険者が一緒に行くことになってるのよ」

「へえ……。安全ですね。なんだか思った以上に面倒を見てくれるんですね……」


 勝手なイメージだけど、低いランクの冒険者は放置されると思ってた。どこかで死んでも自己責任、みたいに。でも昨日もそうだったけど、新人や低ランクをすごく大事にしてくれてるみたいだ。

 ケイトさんは一瞬だけ難しい表情をして、私に顔を近づけて小声で言った。


「すずちゃんだから言うけどね。恩を売ってるの」

「恩、ですか」

「うん。誰が高位ランクになるか分からないからね。高位ランクになった後も、ギルドで少しでも働いてもらうために」

「え……? 高位ランクになると辞めちゃうんですか? もったいないと思いますけど」

「辞めちゃうというか……。引き抜かれるの」

「えっと……?」


 いまいち意味が分からない。引き抜かれるっていうのは、もしかして別の街のギルドにってことかな? そう思ったけど、ケイトさんは少しだけ顔をしかめて首を振った。


「国に引き抜かれるのよ。高位ランクともなると、戦闘能力も高くなってくるからね。国としても、有能な人材が欲しいのは当たり前でしょう?」

「なるほど……?」


 有能な人材、それはつまり、戦闘能力が高い人、かな? 戦闘能力だけじゃなくても、高位ランクならたくさんの依頼をこなしているわけだから、経験もあるし、集団の指揮もするかもしれない。それを考えると、人材の宝庫とも言えるのかな。


「国はすごく良い条件をつけて、引き抜いていくのよ。冒険者は結局のところ、その場限りの契約ばっかりだから、先がない。けれど国に雇ってもらえれば、退役後も指導員とかになれる可能性がある。正直勝ち目なんてないのよ……」


 ケイトさんが大きなため息をついた。苦労してるみたいだけど、私に言われても困る。


「すずちゃんは続けてね! 末永く続けてね!」

「心配しなくてもどこかの国に肩入れとかするつもりはないですよ。それより、私も薬草の採取についていっていいですか?」

「ええ、もちろん。むしろお願いするわ」


 はーい、と返事をして、子供たちの方へと向かう。昨日もいた子も多くて、私が向かうと嬉しそうな笑顔になってくれた。笑顔って、やっぱりいいね。私も嬉しくなる。


「昨日の子だー! いらっしゃい! よろしくー!」


 私の参加を嫌がる子が誰もいない。すごく歓迎されてる。あ、クッキー? 昨日と同じ? ありがとう。お代わり? そんなに気にしないでね?


「人気者だね」


 声をかけてきてくれたのは、同行者の冒険者さん。金髪碧眼の美青年。格好いい人だ。その隣には柔らかい笑顔の魔法使いさん。白いローブが特徴的だ。


「僕は引率役のクロス。三等級だよ」

「同じく引率役のミルカです。よろしくね?」


 二人ともすごく優しそうだ。子供たちもよく懐いているから、こんな依頼をよく引き受けているのかもしれない。きっといい人だ。子供好きに悪い人はいない。


「君は昨日、この街に来たって聞いたけど、間違い無いかな?」

「はい。すずといいます。よろしくお願いします」


 丁寧に頭を下げておく。色々と教えてもらおう。


「すずちゃんは何か武器は持ってるのかい?」

「いえ。戦いは苦手なので……」

「そっか。それでも護身用に何か持った方がいいよ。この子たちも、一応ナイフは持ってるし」


 え、と驚きながら子供たちを見れば、鞘に収まったナイフを見せてくれた。本当に、全員持っている。いくら大人が同行するといっても、やっぱり街の外は危険ってことなのかな。魔物相手に意味があるかは分からないけど、ないよりはまし、かもしれない。


「お金が貯まるまでは僕が貸してあげるから、何か考えておくといいよ」


 そう言ってクロスさんが渡してくれたのは、子供たちが持っているのと同じナイフだ。鞘から抜いてみると、まだ使われていないことが分かるぐらいに綺麗な銀色の刀身が目に入った。

 これは、武器だ。今まで料理で使った包丁とは違って、明確に、傷つけるために作られたもの。少しだけ、怖くなる。今までこんな武器とは、縁が無かったから。


「怖いかい?」


 私の考えていることが分かったのか、クロスさんが聞いてくる。頷くと、クロスさんも頷いて、


「分かるよ。僕も最初は怖かったから。でも、こう考えたらどうかな。誰かを傷つけるための道具じゃなくて、自分の身を守るための道具だって」

「自分の身を守る……」

「そう。少しだけだろうけど、気持ちが軽くならないかな?」


 どうなんだろう。そう言われると、少しだけ楽になったような気もする。本当に少しだけ、だけど。うん。まだまし、かな。


「少しだけ」


 そう答えると、クロスさんはそれでいいよ、と笑ってくれた。


「さて、それじゃあ出発だ。みんな、準備はいいかい?」


 クロスさんが声をかけると、子供たちが元気な声で返事をする。クロスさんもどことなく嬉しそうだ。


「よし! いい返事だ! それじゃあ、出発!」


 クロスさんの号令に従って、私たちはギルドを後にした。

 こんなに大勢で何かをするなんて初めてだから、少しだけ、楽しみだったりする。少しだけ、ね。




 やってきました採取場所。といっても、本当に近かった。南門から出て徒歩一分だ。門の前の草原に、薬草はたくさん生い茂っているらしい。どこかへと繋がる道があるだけの草原で、緑の絨毯が敷き詰められてるようだ。

 今日は天気も良いしぽかぽかしてるし、ここでお昼寝したら気持ち良く寝られそうだ。

 と、そんなことを言うと、子供たちが耳を塞いだ。どうしたの?


「やめて! そんなこと言わないで!」

「誘惑が! 誘惑が……!」

「あ、えと……。ごめんね?」


 同じことは子供たちも思ってるみたいで、言わないことが暗黙の了解なのだとか。先に言ってよ。気をつけるから。クロスさんたちも笑ってないでさ。

 ともかく、採取開始だ。当然だけど普通の草原なので薬草のみが生えているわけじゃない。クロスさんが手本を見せてくれたので、しっかりと覚えておく。草の形も、もちろん。

 ポイントは、根ごと取ってしまわないこと。ナイフで茎を切る。根ごと取ってしまうと、もう生えなくなる可能性があるのだとか。雑草じゃないからね。気をつけないと。


「ちなみに根を残していれば、明後日には元通りになってるよ」


 なにそれ怖い。二日で元通りって。あり得ないのでは。


壁|w・)ギルドでのお仕事。


誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。

ではでは。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ