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「アーちゃん」


 名前を呼んでみる。本当に、来てくれるのかな? そう考えた瞬間に、


「おっまたせー! みんなの憧れアーチフェルトクロノスキルメティア! 来たよ!」


 そんな元気な声でアーちゃんが目の前に現れた。ちょっと声が大きい。みんなが起きる!


「あ、大丈夫。来る前に結界を張ったからね。部屋の外に私の声は漏れないよ」


 なにその便利な魔法。私も是非覚えたいけど、今日の本題はそれじゃない。


「アーちゃん。ギルドカード作ったよ」

「お! 早いね! 見せて?」


 アーちゃんにギルドカードを渡すと、アーちゃんはまじまじとカードを見ていた。ひっくり返したり、折り曲げようとしてみたり。何もないけど、壊さないでね。


「ギルドカードって精霊が作ってるって聞いたけど、そうなの?」

「そうだよ。きっかけは忘れたけど、確かに私たちが作って、ギルドに渡してるね」


 ガントさんが言っていたことは本当だったらしい。フットワークが軽いというかなんというか……。


「暇なの?」

「うん」


 即答だった。何も言えない。


「ところでアーちゃん。神霊ってなに? 私の種族がそれになってて、びっくりしたよ。何かしたの?」

「え? そのままの意味で、私は何もしてないけど。何かおかしい?」


 きょとんと、アーちゃんが首を傾げる。私も傾げる。なんだろう、お互いに認識の齟齬があるのは分かるのに、お互いに何が分からないのか分からないといったことになってる。なんなのこれ? どうすればいいの?


「えと。アーちゃん。神霊って、神様のことだよね?」

「違うよ? 神様に近い精霊、もしくは神様が直接生み出した精霊だよ」


 ああ、なんだか根本的に違ったみたいだ。でも、どっちにしても、私には当てはまらないと思うんだけど。


「んー……? もしかしてすずちゃん、自分があの世界の土地神様に生み出されたって知らないの?」

「え」


 何それ初耳なんだけど。

 私たち妖怪は、生まれなんてほとんど分からない。両親なんていないし、子供を産むこともやっぱりない。気付けばそこに在る。それが私たち妖怪だ。誰もそれに疑問を抱かないし、抱いたところで正解なんて分かるはずもないから、気にしないことが正しい。

 そう、思ってたんだけど。


「すずちゃんがいろんな神様たちに会いに行ってた時があるでしょ?」

「うん。日本にいた時だね」

「その時に一柱だけ、すごく頑張ってくれた神様がいたよね。私を連れて行った土地神様」

「うん。……ああ、そういうことだったんだ……」

「そう。あの土地神様が、すずちゃんを生み出したんだよ」


 知らなかった。あの神様が、私の親だったんだ。今も実感はないけど。そうと知っていれば、もっとお話をしておけば良かった。


「話を戻すけど、そうして神様に生み出された子が神霊。神様の力の一端を持ってるからね。すずちゃんは座敷童の力の方が強いから実感なんてないだろうけど、それでもやっぱり、すずちゃんは神霊なんだよ」

「そう、なんだ……。神霊……神霊かあ……」


 私、実はすごいのかもしれない。でも実感はないから意味はない。天候を操れるわけでもなければ、地殻変動を起こせるわけでもない。うん。生まれはすごいだけの普通の座敷童だね。


「実は私と同格なんだよ! というわけですずちゃん、改名してみない? 長い名前にしようよ」

「やだ」

「だよねー」


 あははー、とアーちゃんはすごく楽しそうだ。アーちゃんの笑顔を見ていると、私もなんだか楽しくなってくる。


「ねえ、アーちゃん。話は変わるけどね。お願いがあるの」

「いいよ引き受けてあげる!」

「まだ何も言ってないから」


 本当に、軽すぎる。私の方が不安になってくるよ。


「魔力結晶っていうのが欲しいんだけど、北の平原……、アーちゃんたちがいる場所あたりかな? そこにあるんだけど、譲ってもらえない? もちろん取りに行くから」

「なにそれ」

「え」


 不思議そうにアーちゃんは首を傾げている。これは演技とか冗談でなくて、多分本当に分かっていない。アーちゃんは魔力結晶を知らないらしい。


「えっと、この街の人がね、必要だからって取りに行くみたいなんだけど、いつもドラゴンに襲われて逃げ帰るんだって」

「つまりそれなりに奥まで、それこそドラゴンたちのテリトリーまで来ないとないってことだよね。ふむう……。心当たりないなあ……」

「そっか……」


 他力本願ではあるけど、アーちゃんにお願いすれば手に入ると思っていた。やっぱり自分で探さないといけないってことなんだろう。形状とか調べて、早めに行こう。


「アーちゃん。近いうちに一度戻るね」

「了解。こっちでも魔力結晶っていうの、探してみるよ。クロスケにも聞いておくから」

「うん。お願い」


 それじゃおやすみ、とアーちゃんは手を振って、姿を消してしまった。もう帰ってしまったらしい。ちょっとだけ、寂しく思えてしまう。

 ペンダントを大事にしまって、私はフロイちゃんのいるベッドに戻ることにした。




 次の日。私は日の出と共に目を覚ました。……なんて言えれば格好いいんだけどね。今回はずっと起きてた。フロストさんたちが私を信用しきれないように、私だってやっぱり全てを信用できるわけじゃない。

 杞憂だったけどね。夜は三人だった監視が、朝には一人だけになってたほどだ。ちょっとだけ拍子抜けした。

 朝ご飯は固いパンにスープで、スープでパンを柔らかくしながら食べるらしい。柔らかいパンもあるらしいけど、この街ではあまり作られていなくてちょっと高いそうだ。

 味は、まあ、その……。悪くはない、とだけ。日本のパンと比べると、どうしても劣ってしまう。あっちのパンが恋しくなるよ。あんパンが食べたい。


 朝食の後は、ギルドへ。フロストさんの家を出る時に、フロイちゃんから必ず戻ってくるように約束させられてしまった。もちろん私としては問題ないし嬉しいんだけど、これ、旅に出ることできるのかな。ずるずると引き延ばしてしまいそう。

 もちろんいずれは断って、宿とか借りるつもりだ。フロストさんにずっと迷惑をかけるわけにもいかないから。そのつもり、なんだけど、フロイちゃんの上目遣いのお願いはちょっと断れない。


「フロイちゃんが強敵です」

「俺の娘はかわいいだろ?」

「全面的に同意します」


 ギルドへと歩きながら、フロストさんとお話をする。フロストさんが溺愛するのも分かる。少し度が過ぎてるような気もするけど。


「それじゃ、俺はここで。帰り道は大丈夫か?」

「はい。大丈夫です。ちゃんと帰りますよ。フロイちゃんが怒りそうだし」

「はは。待ってるよ」


 気をつけてな、とフロストさんは手を振って、北へと歩いて行った。

 それを見送ってから、ギルドに入る。今日は昨日と違って、人が少ない。まだ朝だからかな? 依頼を受けてお仕事に行った後なのかもしれない。


壁|w・)ちなみにアーちゃんの本名は全然違うものです。


誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。

ではでは。


※あとがきがまえがきにいってました。すみませぬ……。

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